満月前日(1)
時間は残酷にも平等である。
レベリングをしていようがぴょんぴょんしていようが同じように流れ、そうこうしているうちに明日は満月である。
ここでキントキを売るのも明日の朝が最後である。
「では、今日は明日に備えての会議としましょうか」
ということで、俺達は皆で話し合うことになった。
「明日はいよいよ満月ですね」
「そうねナミミ。ロニム、転移はできるってことでいいのかしら?」
「えーっと、まぁ、多分? ここにいる5人で片道分……かな? ルナティック症候群がどうなるかが少し不安だけど」
ルナティック症候群。バニーが満月の夜に頭ぴょんぴょんになるアレである。
実のところ、ここにいるメンバーは今までぴょんぴょんしたことなかったのが大半を占める。
というか、先月時点――前の満月の時まででぴょんぴょん経験者はツーシさんのみだ。他の面々はぴょんぴょんしてから初の満月。
ちらり、とツーシさんを見る。
「前日ならまだ気分が高揚する程度なんですけどね」
「では、当日は?」
「朝からぴょんぴょんの事で頭がいっぱいになるくらいには、ぴょんぴょんですね」
なるほど。無理かもしれないな……
「魔力は夜月が昇ると溜まるけど、3人とも、それまでガマンできる?」
「私は多分無理ね! 昼あたりからコガネとぴょんぴょんさせてもらうわ」
「私も無理ですね。同じくコガネさんとクイパシして待たせてもらいます」
「あ、私も」
「ナミはバニーじゃないから多分大丈夫だよね? 私だけガマンして溜め込むのって不公平だと思うんだよね」
「……そうですね、ロニーはそういうのもガマンして魔力貯めるわけですし、一心同体の私だけがガマンしないわけにもいきませんよね」
発散しちゃうと、魔力も十分貯まらない可能性がある。精神と魔力は密接な関係があり、ガマンしてムラムラしている状態が最も魔力が高まるらしい。
明日は無事帰れるだろうか……いや、そもそも帰るでよかったんだっけ?
「そんで結局俺達どうする予定なの? 当初の予定だと明日の満月で帰るってことになってたけど、魔王様の件とか色々あるし」
「ええ。今日の会議はそれを相談しようと思いまして。皆さん、私の案を聞いてください」
そして、ナミミ様は案を提示する。
「結論として、私達で第三勢力になろうかと考えています」
「……第三勢力? バニムーンもママも敵に回そうってこと?」
「逆です。どっちの敵にも回らない、ということです」
どちらの敵にも回らず、第三勢力となる。
そんな都合のいいことが許されるだろうか?
「そこで大事になってくるのが、コガネさんの『ニンジン召喚』、そしてキントキです」
「……へぇ? 両方の陣営にキントキを流すから、黙認してくれ、ってこと?」
「その通りですサナチ。あと食料もこの規模なら余裕で賄えます」
なるほど。要するに金は払うからほっといてくれ、みたいなことか。
今回は食料、キントキがそれで。
「魔王軍が勝てば大人しくバニーは剥がれる方向で」
「え。私とツーシも?」
「脱いだ状態でもレベル上げしてもらっているじゃないですか。丁度いいですよね?」
「そういうつもりは無かったんだけど……」
「ナミミ様。であれば私はムーンフォールを応援します。レオタードでなければクイパシは出来ないので」
「それはそれで仕方ないですね。それでも所属は認めますよ」
ブレないなぁツーシさん。
「うーん、上手く行けば理想的だね。でもそんな上手く行くかな?」
「心配なのは分かりますロニー。交渉次第、という点が大きすぎるので。……ただ、第三勢力として陣取るのであれば、ここ。ここが丁度いいポイントになります」
そこは、国境線に近い森の中だった。どちらかと言えばバニムーン寄りだ。
「ここ、完全に前線じゃん。危なくない?」
「前線だからこそ、両方の陣営に接してて両方にキントキを送れるんですよ?」
「そりゃ、まぁ、そうだけど」
「母様と
と、ここでナミミ様は一旦区切って、勿体つける。
サナチ様がしびれを切らして聞く。
「それに、なによ?」
「……ここ、未攻略ダンジョンがあるんですよ」
わぁ、ダンジョンかぁ。ファンタジーっぽくなってきたぜ。
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