迎え(2)
悪魔の誘惑という言葉があるけれど、魔王領で爛れた生活を送り続けるってのはまさにそんな感じだな。
誘惑する悪魔はナミミ様だけど。……ナミミ様は魔王の手先だった?
と、レベリングを終えて帰ろうかという俺達4人の前に、すっと1人のバニーが現れた。
肩までの黒髪で、黒いレオタードの、黒網タイツ。貴族バニーのようだ。
「ナミミ・ムーンフォール嬢ですね。お迎えに上がりました」
「……え? 人違いです。どなたですか?」
秒ですっとぼけてみせるナミミ様。
「ここには関係者しかいないように見えます。隠す必要はありませんよ」
しかし黒バニーは確信を持っているようだ。
と、何かに気が付いたようにぽんっと手を叩く。
「ああ。自己紹介がまだでしたね。私は『黒尻尾』の者です。バニラとでもお呼びください」
そう言って、スッと横を向いて尻を見せる黒バニー。
その尻にあるポンポン尻尾は確かに黒かった。
俺にはただの黒い尻尾にしか見えなかったのだが、ざわり、と緊張が走った。
「! 黒尻尾。本物のようですね」
「はい。王の命を受けてナミミ・ムーンフォール嬢をお迎えに上がりました」
「……陛下が? なるほど。ご苦労様です、バニラ殿」
ぴりっとした空気だ。こんな顔のナミミ様久々に見たな。
でもどういう状況か良く分からん……俺はツーシさんに聞いてみることにした。
「……あの。ツーシさん。黒尻尾ってなんですか?」
「王家の特殊部隊です。暗部、といって通じますか? 私も本物は初めて見ました」
「なるほど」
少し分かった。つまり、ツーシさん達とは別枠で、ナミミ様救出のためにあの金バニーの女王様が手配していた、ということか。
「ん? じゃあ別に何も問題があるわけじゃないんじゃ」
「あの黒尻尾ですよ? 私達と違ってコガネさんによる篭絡が効きません」
「ええ。普通に美バニーで、相手には困ってないわよアレは」
「……あ。自分達が篭絡されてる自覚はあったんですね」
「それはもちろん。私は清濁併せ呑む大人ですからね」
「うう、だって初めては幸せなぴょんぴょんしたかったんだもん……」
ということは、つまり……
「では今から魔王国を脱出しましょうか。ナミミ嬢」
「待ってくださいバニラ殿。既に次の満月に帰れる算段が付いています。安全に帰れる見込みなので、邪魔をしないでいただきたい」
「魔王軍四天王に頼っての帰還、でしたか? どこが安全といえるのでしょうか」
「……! 調査確認済み、ということですか」
今からすぐに、ナミミ様を帰還させる。それがあちらの目的のようだ。
しかもどうやら昨日今日で見つけたからすぐ接触しにきたと言うわけでもないらしい。
「で、では、四天王のイロニムを私が篭絡して味方に引き込んでいるのも、分かりますよね?」
「それなのですが。実は篭絡されているのはナミミ嬢の方ではありませんか?」
「! そんなわけないでしょう!! ロニーは私のこと心から愛してるんですよ!!」
「ストックホルム症候群、と呼ぶ心理現象があるそうです。誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が、加害者と共に過ごすことで逆に加害者に好意や共感、さらには信頼や愛情まで抱くようになる現象です……まさに、今のナミミ嬢に当てはまりますね」
ぐっ、と言葉に詰まるナミミ様。
……言われてみると、反論ができない。なにせナミミ様は完全にこの『被害者』に当てはまっている。
誘拐犯、それもバニーという強力な力を奪われて本来恨むべき相手に、心からのイチャラブぴょんぴょんをしているのだから。
「それに――魔王国が落とされそうになったら、内部情報を流す、でしたか?」
「!?」
それは確かにナミミ様が言った言葉だった。
ツーシさん達が来る少し前くらいだが、その発言まで聞かれていたのか!
……ところでストックホルム症候群っつった? その名前どこ情報よ。自動翻訳?
まさかコッチの世界にストックホルムって地名があるとかないよね?
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