爛れた生活(2)


 一応、その理由というのも聞いておこう。

 俺はちょっと落ち着いたタイミングで声をかける。


「あのー、元々異世界人の俺はまぁともかく、ナミミ様はムーンフォールに帰らなくてもいいんですか?」

「ぷはっ。……ん、はい。利点がないですからね。私もうヒバニンですから、ヒバニンだとバニムーン王国より魔王国の方が絶対過ごしやすいですし。ロニーもいますし。手紙だけ届けてもらえれば十分でしょう」


 確かにヒバニン視点で言えば、人権のないバニムーンより、人権が多少ある魔王国の方が良い点は多い。

 しかも俺達はその中でも最高権力者の娘にして四天王の一人、イロニム様の庇護を得た囲われヒバニンという扱いになっている。……この一週間で特にそれは確立されているし、事実だった。


「それに、ムーンフォールに戻ったらコガネさんを取り上げられてしまいます。バニーでない私に、コガネさんを所有する権利はないですから」


 それは確かに。バニーガールじゃないと人権がないということは、ヒバニンを所有する権利もないのである。

 むしろ、今はナミミ様も誰かに所有される「モノ」なのだ。


「なので魔王国に永住がベスト……あ。しいて言えばムーンフォールが魔王国を攻め落としたらちょっと困りますが、そうなりそうなら私が内部の機密情報をロニーに流すのでなんとかしてくださいね」

「ちょ!? ナミ、今平然と実家を売る宣言した!?」


 あ、イロニム復活した。


「それほど、この生活が満ち足りていて幸せだということです。イロニム区の区長として誇るべきですよ、ロニー」

「いやナミってばレベル上げと検証以外でこの家から出てないじゃん! 区長として誇るも何もないよねぇ!?」


 それについては頭を抱えざるを得ない。

 先日この生活のキッカケとなった騒動もあって、イロニムがいないときは外出を控えている。なのでイロニムが把握していない外出もない。何か欲しい物があればニンジンの売り上げをイロニムに渡して買ってきてもらってるし……

 基本は俺が店番して、ナミミ様が家事をして、イロニムが買い出しをして、あとは流れでぴょんぴょんである。


「私の権力とお薬が目当てなくせにっ」

「え!? 心と身体がいちばんの目的ですが!? 悲しいです、コガネさんの次に愛してるのに……! こうなったら何度でもワカラセてあげます。んっ、指、美味しい。ロニーの味がします……これ好き……ちゅぱ」

「あっ、あっ、私もナミ大好きぃ……!」


 完全にコシコシ始まったな。で、イロニムが返したのでトントンになった。今日は明るいうちからぴょんぴょんしそうだな……

 近づくと俺も巻き込まれるので迂闊には近寄れない。がんばれイロニム。俺は洗濯物畳んどくね。


「というかロニー。実際問題として、私たちが帰ったらニンジン屋は閉店です。……暴動おきませんか?」

「うっ……そ、それは……!」


 俺のキントキは今やすっかり魔王国中のバニーガールを虜にしており、特に毎朝の常連に対しては1人1本いきわたるだけの『仕入れ』をしている。

 ナミミ様の相手をするにあたり思考力がそっちにもってかれるため、店の販売上限を守る余裕はなく、もう1本ずつなら無制限に売ってしまっている。列が終われば即閉店、というのが最近のルーティーン。

 (2回以上列に並んでるバニーもいるけど、毎朝フラフラな頭では対応しきれない)


 そして、売っているキントキは……最低100本。

 ……これがいきなり0になったら。


「お願いナミぃ! コガネとずっとここに居てっ!」

「どうしましょうか。私はコガネさんに従いますよ?」

「頼むよぉコガネ、なんでもするから……今以上になんでもって思いつかないけど……」

「……と、とりあえず保留で」


 ちなみにお値段据え置きのため、毎日の売上は金貨以上になっている。おそらく納税額とかもかなりのものになるだろうな。

 やったねイロニム。税収大増額だよ!


「そろそろお金が邪魔になってきますね。ここらで別荘でも買いますか? 大声を出してもいい郊外の家とか良いと思います。大きなベッドも欲しいですねっ!」


 ……ナミミ様はバニーじゃなくなっても最強だ。間違いない。




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