関係ないんですよ?


 その日の営業もまた、午前中ですぐに終わった。

 途中、『ナミミ・ムーンフォール』を下品にからかう発言が挟まりながら。

 それらを、ナミミ様は笑顔で受け流し、時に同意し、ニンジンを売り切った。


「やりましたねコガネさんっ、今日も完売ですよ!」


 ナミミ様が満面の笑顔で俺にそう言ってきた。


「すみません、ナミミ様……俺がもっとしっかり止められていれば……」

「あっ。ダメですよコガネさん。ほっぺつねつねですっ」


 そう言って、ナミミ様は俺のほっぺたをむにっとつまむ。


「それに、別に『ナミミ・ムーンフォール』なんて、私達には関係ないですよね?」

「え?」

「関係ないんですよ? だって私はヒバニンのナミですから。まったく、顔が似てるっていうだけで失礼しちゃいますよねっ! コガネさんも私の事『ナミミ様』なんてうっかり呼んじゃう始末ですし」


 ……??? 何か、違和感があるような気がする。


「私がコガネさんの恋人なんですから……あんなコシコシ兎の事なんて早く忘れてくださいね、コガネさん?」

「えっと……」


 なんだろう。まるでナミが、ナミミ様とは別人であるように言っている。

 いや、そういう設定なんだからそれでも間違いではないんだけど……


「どうしました? コガネさん」

「あの。あんな事言わされて、よかったの?」

「はい! 『ナミミ・ムーンフォール』はバカでマヌケで、ヒバニンをぴょんぴょんにも誘えない腰抜け兎でした!」

「! い、今それを言う必要はないよね!?」


 それは、今日の接客中に何度か言わされていた、ナミミ様を貶めるセリフだった。

 これを言うたびに、言わされるたびに、ナミミ様はチップを貰っていた。


「? 本当のことを言っただけですけど……むぅ、コガネさんは『ナミミ・ムーンフォール』のこと聖女か何かだと思ってるんですか?」


 首をかしげて不思議そうにするナミミ様。


「違いますよ? あのコシコシ兎は本当はコガネさんとぴょんぴょんしたいくせに度胸が無くて誘えなかっただけの箱入りバニーです」

「な、ナミミ、様?」

「だーかーら、私はナミだって言ってるじゃないですか。間違えないでください」


 ぷに、とまた俺の頬をつまむナミミ様。

 左右をつままれてふにふにされている。


「そうだ。私があのコシコシ兎と違うって、今夜教えてあげますよ。ふふふっ、ぴょ、ぴょんぴょん、しちゃいましょうっ!……こっ、コガネさんが嫌なら、しませんけど」

「……!? あ、えと、嫌じゃないです!」


 嫌じゃない、んだけど……


「あっ。また敬語! もー、だめですよコガネさん。私はコガネさんのほっぺ触れて嬉しいですけど」


 ……いいんだろうか? このままで……?

 良くない気がする……っ!


「あのっ」

「ひとつだけ、ワガママ言わせてもらっても、いいですか?」

「え、と?」


 ナミミ様は、俺の耳元に口を近づけて、ぼそり、と呟く。


「……『ナミミ』をぶっ殺すくらいに、激しく、乱暴にしてください……」

「ッ……!」




 その日、俺はナミミ様とぴょんぴょんした。





―――――――――――――――――――――――――――――――――

(※ここからしばらく爛れた生活の話になります。ご了承ください。


 ちなみに別作品のコミカライズがWebで見れるようになりました。


 「あとはご自由にどうぞ!~チュートリアルで神様がラスボス倒しちゃったので、私は好き放題生きていく~」

  https://ichijin-plus.com/comics/174855080198684


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