魔王国潜入(ツーシ視点)





 コガネさんとナミミ様が誘拐されてから丁度一週間。

 前線でハサミ様とセワンが陽動で暴れて注目を集めてもらっている隙に、私ツーシとサナチ様の二人だけで魔王国へとやってきました。


 前線からかなり遠回りしてやってきた、比較的手薄な砦。

 そこをどんくさいサナチ様を肩に担いで跳び越え走り抜ければ、いよいよ魔王国です。


 とはいえまだ国の外周。四天王『嘆きのイロニム』に攫われたのであれば、恐らくコガネさんたちは国の中央、魔王城の城下町にいると見て良いでしょう。


「おろろろ……」

「あら、大丈夫ですかサナチ様?」

「……だ、大丈夫よ。コガネやナミミは今頃私よりも怖い思いしてるはず……っ、先を急ぎましょう、ツーシ」


 口元をぬぐい、生活魔法で軽く浄化するサナチ様。

 ふむ。心の中でサナチ様のことを「どんくさい」と言いましたが、少しだけ評価を改めた方が良いかもしれませんね。


「運んでいる最中に吐かれても困りますし、もう少し休みましょう」

「うう、正直ありがたい……」


 砦を越えるときはサナチ様に魔法で隠蔽してもらいつつ慎重に跳び越しましたが、それでも敵に見られた可能性もあります。

 魔王の操る魔物たちは、魔王バニーの加護がかかっている分、性能が高いのです。


 一対一ではまず負けませんが。いかんせん、バニーでも手こずる程度には数が多い。

 下手を打てば負けまであり得る相手。油断は禁物です。


 私は耳を立てて周囲を警戒しつつ、座って足を休めます。



「ねぇツーシ。コガネは無事かしら」

「魔王国はヒバニンが多いそうですから、価値のない存在として処分されてしまう可能性もありますね……」

「うう、やっぱり休んでる場合じゃないってこと?」

「ですが、四天王『嘆きのイロニム』直々に攫ったヒバニンであれば、特別扱いという事も考えられます」


 その『特別』が良い方向か、悪い方向かは分かりませんが。


「案外、コガネの事だから楽しくやってたり……だったらいいんだけど」

「コガネもですが、ナミミ様の方が心配ですね。バニーを剥がれたそうですし……」

「……見せしめに拷問されてる可能性もある、か」


 魔王の城下町で、晒し首になっていても可笑しくない。ナミミ様は戦場でそれだけの活躍をしているし、相応に恨みも買っているでしょう。

 交渉材料として、四肢を潰されていても生きていれば御の字、といったところですね。


「それで、このまま一気に走るの?」

「ここからは慎重に動く必要があります。いよいよバニーを脱いでの潜入です」

「……う。ほ、本当に脱がなきゃだめ?」

「魔王国はバニーガールが少ないので、脱がなければすぐバレますよ」

「わ、分かってるわよ。言ってみただけ」


 敵国でバニーを脱ぐ無防備になるのは精神的にもキツイところはありますが、そのくらいしなければ潜入できません。


「……っはー、覚悟決めたわ。潜入用のヒバニン服に着替えるわね」

「はい。私も着替えます。そして、ここから先は、姉妹という設定でいきますよ、サナチ」

「……私が妹よね。分かってるわ、お姉ちゃん」

「よろしい。私の言うことをちゃんと聞いてくださいね?」

「ええもちろん。コガネ達を助けるためだもの」


 そう言って、サナチ様はバニーを脱ぎ、オーバーオールに着替えます。

 次にバニーを纏うのは脱出の時です。私もバニーを脱ぎ、スカートの服に着替えました。


 ……とてつもない脱力感。あるべき力が無い喪失感。

 それらを気合でねじ伏せます。


「……ううっ! す、凄く心細いわ! おしっこ漏れそう……お姉ちゃんは大丈夫?」

「一応、多少は潜入のため訓練してましたので、なんとか。……ですが、やはりキツイですね。身体が慣れるまでもう少し休んでおきましょう。トイレも済ませておいてください」

「ご、ごめんなさいねコガネ、ナミミ。なるべく急いですぐ助けに行くからっ……!」



 敵に囲まれ、今の私達よりももっと心細い思いをしているはずの二人の無事を祈りつつ、少しの休憩の後に私達はまた出発しました。



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(ここまで読んでいただいてありがとうございます!

 次回更新は朝8:21です!

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