噂のニンジン屋
「ここが噂のニンジン屋?」
ニンジン屋営業日、そろそろ売り切れというタイミングでバニーガールがやってきた。
顔と胸元にそばかすのある、水色の布レオタードに素足のバニーガールさん。この国でもエナメル・網タイツが貴族バニーに相当するということは聞いているので、平民バニーだろう。この国にもちゃんと平民のバニーガール居たんだなぁ。
というか、素足ってはしたないのではなかったか、とサナチ様のスク水バニーを思い出しつつ、目の前のそばかすバニーさんに接客する。
「いらっしゃいませー。今日はもうほとんど売り切れですが」
「ああうん、噂のキントキって奴を食べてみたくてね。残ってる?」
さて。実のところ売り切れている。
というか、実は通常ニンジンは数をコッソリ水増ししているので(八百屋のおっさんには悪いが)30本以上の在庫があるものの、キントキについては希少性を高めるために数量限定。これは数をごまかせないのだ。
まぁ今の俺のMPを考えると、いくらでも用意できるんだけど。
「すみません、今日はもう売り切れてしまいまして」
「えぇ、折角来たのに。……なんとかならない?」
なるのである。
なんならあと700本は出せるもの。
というわけで、初めてのバニーのお客さん(イロニム除く)ということもあって、コッソリ売ってあげることにした。
「んんー、仕方ないですねぇ。折角来てくれたお客さんだ。本当は明日の分の在庫を一本お譲りしましょう。ナイショですよ?」
「ほんと!?」
「倉庫から取ってくるので銀貨用意して待っててくださいねー」
と、席を離れてキントキを一本召喚する。
ちょっと周囲を窺うようにキョロキョロしつつ、そっとそばかすバニーさんに売る。
「まいどあり。……ナイショですからね?」
「ありがと!……へー、これがキントキ。おっと、はやく仕舞わないとね」
と、そばかすバニーさんはそっとキントキを胸元にすぽっと仕舞っていった。
思えばそれがキッカケだったかもしれない。
翌日店を開けると、5人のバニーさんが並んでいた。全員新規のお客様だ。
先頭に立っていた紺色白タイツのお姉様バニーが早速注文を口にする。
「キントキちょうだい。3本」
そう言って銀貨3枚をカウンターに置く。
一番後ろのちびっこ橙バニーちゃんがそれを聞いて声を上げる。
「ちょ、まちなさいよ! 1人2本までじゃなきゃ売り切れちゃうでしょ!?」
「あら、遅かった方が悪いでしょう? 先手有利は戦場の常識よ」
「じゃあ私も3本。パーティーメンバーに頼まれててぇ」
「あ、うち4本」
続いて2番目、3番目の緑少女バニーさんとグレー褐色バニーさんが注文を飛ばす。
おいおい10本売り切れちゃうじゃん。
と、ここで4番目、短髪赤バニーさんが口をはさむ。
「おい!? せめて1本残せよ!?」
「あら。ごめんあそばせー? でもうち4人いるのよね」
「こんのっ、ちょっと店主! 在庫出しなさい在庫! あるんでしょ!?」
一番後ろのちびっこ橙バニーちゃんが叫ぶ。
あるけどさぁ。ここでポンと出したら際限なくなっちゃうよね?
「……あー、人気商品のため購入制限をかけます。お一人様2本までです」
「あら。注文聞いてからそれはないんじゃない?」
「代金は受け取ってませんでしたので。折角並んでくれた方に悪いじゃないですか」
お釣りです、とカウンターの上の銀貨1枚を突っ返しつつキントキを2本渡す。
「ふぅん……あなた、良いヒバオスね。ふふっ、いいわ。今回はそれで」
「まいどありー。次の方も2本で良いですね?」
「3本じゃダメですか?」
「ダメです。今並んでる方全員に2本ずつです。普通のニンジンの方なら5本でも10本でもどうぞ」
「じゃあキントキ2本とニンジン10本で」
そうして3人目、4人目にもキントキ2本とニンジン5本ずつを売る。
5人目のちびっこ橙バニーちゃんも無事キントキ2本を購入っと。
「ありがとう! ほんっとーーーにありがとう! あ、お礼にコシコシしよっか? なんならクイパシだってしてもいいよ?」
「非常に残念ですが、恋人がいるんで」
「むむっ、じゃあ何か困った事があったら言って、力になるよ! 店の護衛依頼とか!」
そう言って、ちびっこ橙バニーちゃんもキントキとニンジンを10本買っていった。
……もう売り切れたんだが?
さすがに一度に売切れたら数をごまかすも何もない。
「……あら。私だけニンジン買わないのはどうかと思って並びなおしたんだけど」
「すみません。こっちも売り切れました。普通のニンジンは八百屋の方にも卸してるんで、よかったらそっちでどうぞ」
「残念。また明日くるわ」
ごめんね紺色白タイツのお姉様バニーさん。
……うーん、これ、キントキの入荷数増やさないとマズそうだなぁ。
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