そういうタイプの


「た、助かったよコガネぇ」

「どういたしまして? イロニムにはしばらく面倒見てもらわないといけないからな」

「……ママ怒るとメッチャ怖いんだよぅ。ホント庇ってくれてありがとね」


 そりゃまぁ、怒って怖くない魔王とかいるんだろうか? 魔王やぞ。



 というわけで魔王様をやり過ごし、イロニムの部屋で寛ぐ俺。

 ナミミ様はイロニムのベッドに横になって毛布をかぶされているので今は露出はほぼない。

 すぅすぅと安らかな寝息を立てている。これなら命に別状はないだろう。


 それにしても、バニー耳のついてないナミミ様は初めて見るなぁ。可愛らしい。

 本当にお人形みたいに整った顔をしている。

 コシコシの約束はまだ有効ですか? 早く目ぇ覚ましてくださいね。



 ベッドが占領されているのでソファーに座っているイロニムに声をかける。


「ナミミ様は大丈夫そうだな」

「コガネ、ナミミがバニーじゃなくなっても様付けするんだ?」

「まぁそりゃ、俺のご主人様であることには変わりないからな」


 今は誘拐されたのでイロニムが飼い主になっていると言ってもいいけど。

 俺もイロニムとの向かい側のソファーに腰を下ろす。ふかふかでこのまま寝れそうだ。


「……友達が部屋に遊びに来るなんて初めてで実は緊張してるよ! おやつ食べる!?」

「お、おう。貰おうかな」


 いそいそとお茶とおやつ――ニンジン茶とにんじんスティックを運び、テーブルに置くイロニム。とりあえず食べながら話をする。


「で、あれが魔王なんだな。初めて見たよ」

「うん。本名はロロバニ・ルナティック。私のママで、魔王だよ」

「想像と全然違って驚いた。イロニムを更に色気むんむんにしたようなお姉さんかと思ってたわ」


 それがまさか『のじゃロリ』『ロリババア』『褐色エルフ』『バニーガール』ときたもんだ。さすが魔王様、恐るべし強さだぜ……!


「イロニムも苗字がルナティックなのか?」

「あ、うん。でもイロニムって呼んでよね。ママもルナティックだから被っちゃうし、それにコガネには名前で呼んで欲しいし!」

「おう、それは変えないけど。あとルナティック症候群ってのは?」

「満月に伴うバニーガールのアレコレだよ。ママが色々調べて学会に発表したら、ウチの名前が付いたんだって」


 数百年前、魔王に就任する前の話らしい。学会とかあるんだこの世界。


「まぁその過程とか延長とかで色々と真実とやらを知って、神から世界を解放するって言って魔王になったのがママだからね」

「あー、そういうタイプの魔王なんだ」

「そういうタイプじゃない魔王とかいるの?」


 ウチの世界にはいろんな魔王が居たからな。ゲームとかでだけど。


 それにしても、異世界人の俺から見れば魔王様の主張はわりと正鵠を射ているっていうか、確かにこの世界はいびつにバニーガール優遇が過ぎるというか。

 でも、そういう世界なんだからそれでいいじゃん? とも思うわけで。

 個性だよ個性。世界単位の。


「大きなお世話、って気がするなぁ」

「うわ。魔王軍を完全否定じゃん。ヒバニンのコガネがそれ言っちゃうとなんも言えなくなっちゃうね」

「魔王様はバニーガールに親でも殺されたのか?」

「あ、それは私かな。パパはフツーにヒバニンだったからね」

「おっと、悪い事聞いちまったな」

「いいよ。私の物心つく前だし。ママは今でも忘れられないみたいだけど」


 バニーガールは女しかいない。つまり必然的に、父親はヒバニンである。

 ヒバニンには人権はなく、そしてバニーガールに殺されてしまった、と。

 当然そのバニーガール本人にはとっくに報復済み。しかしそこからヒバニンを助け、世界を本来あるべき正しい形にせねば、という思想が加速したらしい。


 愛する人を殺されて世界に復讐を。そういうタイプの魔王でもあったかぁ。






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