な、ナミミ様……?



 イロニムと話をしていたら突然地下牢の扉が開く音がして、コツコツとハイヒールの足音が聞こえてきた。


「コガネー……? いますか? 寝てますか? 少し話したいことがあります、出てきてくださーい……?」


 それはナミミ様の声だ。マズイ。今はイロニムがいる。というか、なんで今ナミミ様がこんなところに。

 足音が近づいてくると同時に明かりも点いていく。この牢の付近は(多分サナチ様から溢れた魔力で)既に明るいが、地下牢は十分に明るくなっていく。


「どうしてナミミ様が……」

「ああ。満月だからね。ナミミも所詮はただのバニーガールってことだよ」


 小声で、耳元で囁かれてビクッと震えてしまう俺。

 ナミミ様に聞こえないようにという配慮だろうけど、こしょばい! あふん!


「……というか、まさかホントに『私が来ても開けないでくださいね』が適用される事態になろうとは」


 まぁナミミ様相手なら、ご主人様相手ならいくらでも尻尾を振る覚悟はあるけどね?

 でもイロニムが居るのはまずいでしょ。


「ナミミ様に見つかる前に隠れるか帰れ。ここは俺が何とかするから」

「えー? どうしよっかな。満月のナミミを見ておきたいかも」

「だったらさっさと隠れ――」

「あ、手遅れみたい」


 気が付けば、既に牢屋の前に、ナミミ様が立っていた。

 立って、こちらを見ていた。


「……ははっ、解りましたよ。さてはまさか、私は、嫉妬していたというのですね?」


 自分に言い聞かせるようにそう言うナミミ様。


「あらまぁ。すっかりぴょんぴょんしちゃってるね。ナミミ・ムーンフォール?」

「な、ナミミ様? どうしてここに? もう朝、というわけではないですよね?」


 あとイロニム、ぴょんぴょんしちゃってるって何さ、理性がぴょんぴょんってコト? そういう用法もあるんだ?

 そしてナミミ様は、どこか瞳の焦点が合わない表情でブツブツと呟き――突然叫ぶ。


「……夢の中にまで現れるとは――殺す。消す。コガネを、私で上書きしてやるッ!!」


 その表情はいつも優しく微笑むナミミ様からは大分かけ離れた、怒りの表情だった。

 手にハルバード、背後に6つのファイアニンジンを展開し、ナミミ様は牢屋に向かって突撃。しかし、牢屋は頑丈で壊せない筈――あっ、あれ? ハルバードってそんなスパスパ鉄格子斬れるもんなんですか!? 牢屋の中にぶった切った鉄格子ごと飛び込んできましたわよ!?


「ルナハルコンのハルバード。所持者の魔力に応じて強さを増す魔装だよ。あはっ! これが満月のナミミか……おおっと!」


 オリハルコンかと思ったらちょっと違う名前! と次はファイアニンジンがイロニムを襲い、イロニムもいつの間にか手に出した小刀でそれを捌く。ってあぶね!? ちょ、こっちの足元に飛ばさないで!?


「おっとゴメンよコガネ。ナミミ、コガネが巻き込まれちゃうよ? いいの?」

「大人しく耳を差し出せば良いでしょう――が、夢の中とはいえ、イロニムがそのようなことをするはずがない、であれば、ええ、ええ。外で決着を付けましょう」

「あははっ、いいよ。コガネ、ここでお留守番しててね」

「待ちなさい。コガネに私のカッコいいところを見せたいので一緒に来てください。コガネなら、私の強いトコみたい、でしょう? そう言う、言ってくれるはずです」


 頬が赤く、ふわふわとした感じのナミミ様。その瞳にじっと見られ、俺は思わずうなずいた。


「コガネは私が守るのです。だからあとで、その、うさぴょ……ト……こ、コシコシをしましょう。コガネにはそうする義務があります。そうです、これを言いたかったんです」

「うわ日和った。箱入りバニーがよぉ。そこはぴょんぴょんでしょ?」

「貴様に言われる筋合いはないんですよ、ウサビッチ」

「あら。そんな汚い言葉知ってたんだぁ? ぴょんぴょんどころかトントンすらも誘えないお子様のくせに!」

「そ、そういうのは、正式に契約を結んでするものでしょう!? あ、でもコガネはもう私の奴隷として契約してるし、何も、問題は……あれ?」


 煽り合戦は一方的にナミミ様が負けてるな。ただでさえ正気じゃなさそうだし。


 というか、イロニムはもう無かったことにして帰ってくれない? 俺、今からナミミ様とコシコシする予定が出来たんだけど! 大歓迎なんですけど! なんならぴょんぴょんもしたいんですけどーーーー!!




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