宰相様のご趣味 【宰相バニー視点】





(冷酷宰相の株が何故か上がっているので、下げときますね!)


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 今日の政務も終わらせ、帰宅する宰相バニー。彼女は王都貴族街にあるそれなりに大きな自宅に向かう馬車の中で、先日の事を思い出していた。



 勇者召喚――の、前実験。

 リハーサルとはいえ本番とほぼ同じ条件を整え、実際に召喚までやってみたところ、本当に人が召喚できてしまった。ヒバニン(非バニーガールの人)ではあったが。


 黒いバニースーツに身に纏う宰相はヤレヤレと肩をすくめた。


「まったく、あんなワケわからない存在が出てくるなんて。ステータスが全部82で統一されているとか絶対オカシイわ。あー、辺境送りにできてよかったー。私の知らないところで勝手にやる分にはどうでもいいわ」


 それはとても自分勝手な発想ではあった。……何かやらかすにしても王都でやられたら被害が出た時に大きすぎるので辺境に送った。と、誰かに聞かれればそんな建前を話すだろう。実際、嘘ではないし。


「いっそ魔王を巻き込んで大爆発、とかならお買い得だけれど……それは高望みねー」


 そもそもあのヒバニンのスキルは『ニンジン召喚』である。ぱっと見てどこにも爆発する要素はない――が、本当に訳が分からないので、何があってもおかしくはないだろう。


「それにしても……ふひっ、王の御前で、ヒバニンに胸を触らせるとか……興奮したわぁ。ふへへっ、しばらくこの記憶で楽しめるわね」


 ニヤニヤと汚い思い出し笑いをする宰相バニー。兎は年中発情期と言うが、宰相は割と色ボケと言っても過言ではない。

 書類仕事は誰よりも有能にできるので宰相にまでなってはいるが、なまじ財力がある分、変態性を後押しして実にとんでもない趣味があったりもする。




「さーぁて、今日もお仕事のストレス発散と行きますかぁー! ただいまー!」


 帰宅して真っ先に向かったのは離れの小屋である。

 小屋と言っても、平民の家くらいはあり、宰相は実際にそこでペットを飼っていた。

 ……もちろん、ただのペットではない。


「おかえりなさいませ、宰相様」


 扉を開けた宰相を出迎えたのは、メイド服を着たヒバニンの兎獣人の雌であった。

 兎獣人はヒバニンの中でもバニーガールに近い存在であり、バニーガールほどではないが優秀な者も多い。実際にバニーガールに至る者もいるくらいだ。


 しかし、ヒバニンである。故に人権はない。着ている服もバニーメイドではなくただのメイド服だ。

 目の前の兎獣人――金髪で、どことなく女王バニーに似ている気もする――に対し、なにをどうしようとも、宰相の自由である。実際、彼女は宰相のペットであり、欲望のはけ口であった。


 宰相は、恭しく頭を下げる兎獣人に、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。

 これから行われる凌辱を想像してビクッと震える兎獣人に、宰相は手を容赦なく伸ばし、その柔らかな身体を強引に抱きしめた。


「んんー! うーたん、元気にしてた? 寂しくなかった? んちゅっんちゅっ! あー、可愛い可愛い! いい子いい子! か弱いヒバニンなのに生きてて偉いっ!」

「さ、宰相様……はうぅ」

「はぁはぁ、うーたん可愛い! んん、ご飯食べた? 食べれた? 偉いでちゅねー!」

「あ、あうあう」


 宰相は顔を赤くして離れたがる彼女を強引に抱きしめて、体中を撫でまわし、口付けし、その体臭を嗅いで堪能する。聞いているだけでも恥ずかしい赤ちゃん言葉でおかまいなしだ。


「すぅぅぅう…………はぁーーーー! ああー、兎吸い最高ー、やめらんねぇ……! 中毒性あるわコレ。これが合法とか最高だこの国……くんかくんか。はぁ、洗ってない兎のニオイがするぅ……」

「あ、あの。今日はまだお風呂入ってないので」

「だがそれがいい!」


 自分でも危険と認識しているものを合法のままにする。宰相は、己の都合の良いように法を管理しているのだ。この非道な兎吸いは、宰相の立場にしがみつき絶対に国を維持すると決意を固めるための邪悪な儀式でもあった。


「さ、さ、今日も一緒にお風呂はいりまちょうね、うーたん! 身体の隅々までしっかり洗ってあげまちゅよー? 洗いっこちまちょうねー」

「さ、宰相様ぁ……ううう、畏れ多い……」


 そこに尊厳などという人を人たらしめる存在は無い。日中の仕事で見せる真面目な仮面を脱ぎ捨て、己の欲望のままに兎獣人をしゃぶりつくす宰相バニー。

 ヒバニンに人権はないのだ。何をしようが宰相の自由である。


 服を剥ぎ取ろうが、熱湯に肩まで浸けようが、薬品を身体に塗り込もうが、頭から熱湯を浴びせようが、熱風で身体の水分を奪おうが、牛の乳から出る白い液体に焦がし豆の煮汁と砂糖を混ぜた液体(あるいは煮汁の代わりに酸性の果物を潰した液体を混ぜたもの)を飲ませようが、そのまま服を着ずに抱えて寝所に連れ込もうが……宰相の自由なのだ。

 例えヒバニンが嫌がろうと、宰相はそれを許さないだろう。



「……ねぇうーたん、私の事好きって言って? 好きって言って?」

「はい。お慕いしております、宰相様」

「そんな固い言い方、ヤッ! 好きって言うの! 言って!」

「……好きです」

「よく言えまちたー! 私もうーたんの事好き好き大好きっ! スリスリスリ……」


 成人女性にもかかわらず、駄々をこねる赤子の如く理不尽なワガママをぶつける宰相。兎獣人の意思など関係ないのだ。例え嫌いだろうと好きと言わねば許さない。好きと言っても己の気に入らない言い方では許さない。

 黒をも純白と言い張れと強要する、なんと極悪非道なバニーガールであろうか。


「……ホントに好きですからね?」

「そ、そういう不意打ちの好きは反則! 罰としてぇ……お尻ぺんぺんして!」

「うっ、お慕いしている宰相様を叩くの、ホント心苦しいんですけど」

「お願い、うーたん……明日も仕事頑張るからぁ……じゃないと頑張れない……ね? ね?」

「宰相様のド変態……もう。少しだけですよ?」


 明日の仕事の活力が欲しいという、ただただ自分勝手な理由の罰。言うことを聞かねば国がどうなってもいいのかといわんばかりの脅し。人権すらないヒバニンが、宰相に逆らう事などできはしない。

 そして宰相は今宵もヒバニン相手に常人には理解できない変態的で理不尽な要求をし、享楽にふけるのだ。



 宰相の家。しかし、そこに宰相に相応しい立派なバニーガールの姿など、ない。

 その真の姿をみれば、こいつに権力を与えて良いのかと誰もが頭を抱えざるをえないバニーガール。それが現宰相であった……



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(これで宰相の株もダダ下がり間違いないな! ヨシ!)

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