ムーンフォール砦


 さてさて。そんなわけで俺はムーンフォール砦でナミミ様にお仕えすることが決まった。ムーンフォール砦は谷にあり、谷を塞ぐように壁として作られていた。


 この砦は小さな町を内包しており、畑とかもあって自給自足である程度籠城ができるような作りになっている。砦の外側……国から見ると内側にも畑は広がっていた。……あれはニンジン畑だろうか。


「しばらくは私について環境に慣れてもらいますね」

「はい! ナミミ様!」


 というわけで俺の、ナミミ様の赤バニー尻の白尻尾ポンポンを追いかける生活が始まった。ニンジン係として砦に部屋も貰い、衣食住を保証されることになるわけだ。


 で、紹介されたのは厨房を預かるコック達だった。

 ニンジン係ということは食料に携わる訳だ。であれば、コック達は同僚――この砦に仕える者は全員同僚ということになるわけだがその中でも近い――といっていい。

 そしてコック長はおかっぱ茶髪の緑バニーだった。白タイツだったので平民らしい。


「こちら、コック長のシルルです。こっちはコガネ。『ニンジン召喚』のスキルを持つ訳ありの異世界人です。ニンジン係としますので、仲良くしてくださいね」

「ニンジン係のコガネです! よろしくお願いします!」

「かしこまりましたナミミ様。……異世界人?」


 さらりと言ったけれど、俺が異世界人って言っちゃっていいんですかナミミ様?


「王城で引き取ったのです。この世界の常識について知らないことも多いでしょうし、そういう点を考えても先に教えておいた方が良いかと」

「なるほど。わかりましたわ」


 コック長のシルルさん、バニーなだけあってINTが高いようですぐに察してくれたわ。

 尚、コック達の中にはバニーではない下働きの犬獣人さんも居た。さすがに毛むくじゃらタイプではなく耳だけだったけど。


「それにしても『ニンジン召喚』? 初めて聞くスキルね」

「あ。それじゃあお近づきの印に……『ニンジン召喚』! はい、どうぞ」


 俺は通常ニンジンと金時ニンジンを出し、シルルさんに渡した。


「へぇ。こういうの出せるの? いくらでも?」

「MP10消費で1本、今のとこ最大MP82なので一度に8本が限界ですね」

「へぇ。……まぁ備蓄の足しにはなりそうだね」

「私が食べる分に一日3本は欲しいので、一日5本をこちらに出すとしましょう。シルルに渡してあげてください。いいですねコガネ?」

「了解ですナミミ様!」


 尚、回復させた分はスキル研究用に好きにしていいらしい。わぁい!


「なにぶん未知のスキルです。研究はした方が良いですからね」

「なるほど。まぁナミミ様の決定ならウチは問題ないですが……こっちのひょろっこいニンジンは一本でカウントしていいんですか?」

「それはキントキといって、味が良いのです。是非1本食べてみてください!」

「はぁ。確かに色が随分濃いし……どれどれ」


 と、コック長は早速ぱくっと食べた。


「……!! なるほど。ナミミ様が気に入るのが分かりました。……うーん、これは嗜好品として増やしたい……種は出せないのか?」

「……種! その発想はなかった!」


 でも、これ仮に種出して増やせちゃったら俺の価値がどどんと下がるヤツでは?

 ……しかし試すしかない! 俺も自分のスキルの可能性を知りたいのだ!


「『ニンジン召…………あっ。ところでニンジンの種ってどんななんです?」

「見たことないのかい? 『ニンジン召喚』なんてスキルなのに?」

「すみません。先日この世界に来るまでは畑仕事とは無縁な生活してたもんで」

「うーん、今度用意しておきましょう。どうせ畑の種植えもありますし、種が出せるかはそれまでお預けですね」


 うっす。よろしくお願いしまーす。


「とりあえずあと今日の分ってことであと3本キントキ出してもらえる? 部下にも配るから」

「あ、はい。皆さんもよろしくお願いします!」


 かくして俺の異世界生活が始まるのである。


「……コガネ。近いうちにレベル上げに行きましょうね。MPが増えればそれだけ出せるニンジンが増えるのでしょう?」

「はいナミミ様、ヨロコンデー!」


 レベリングもさせてくれるのか。ホントいいご主人様だぜ!



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