ナミミ・ムーンフォール

 女王様が命じ、宰相が指示を出す。しばらくして、カッカッカッと石床を駆け足で走るハイヒールの音が聞こえてきた。


「お、お呼びでしょうか。陛下。ナミミ・ムーンフォール。参上致しました」


 息を整えながらやってきた少女。もちろん彼女もバニーガールであった。

 金髪赤バニーで、黒い網タイツと赤いハイヒールはスラッとした美脚を際立たせている。赤いエナメルのツヤツヤしたレオタードが彼女のメリハリのあるボディラインをハッキリと浮き上がらせていて、「うわエロ」と正直な声が漏れてしまった。

 ……呟きが聞こえたのか、一瞬だけ目が合う。が、特に俺に声をかけることはなく、そのまま金髪赤バニーのナミミが俺のすぐ横に膝を立てて座る。長い金髪からぷりんと出たおしりの、短いポンポンの白しっぽが少しだけ揺れた。

 ナミミに向かって、女王が口を開く。


「ムーンフォール辺境伯令嬢よ。この者、いるか?」

「この者……でございますか?」


 改めてじっと見られる俺。なお、諸事情によりまだ蹲っている……いや、その、宰相さんの手触りがまだ残ってて。ね?

 と、ここでその宰相バニーが口を挟んできた。


「王の言葉を補足いたしますと、この者は先ほど勇者召喚で呼び出したハズレのヒバニンです。『ニンジン召喚』などという使い道のないスキルしかない役立たず。このままであれば処分することが決定しております」


 え、決定してるの?


「しかし、王は慈悲深いお方! ムーンフォールは魔王侵攻の最前線。ただ処分するよりはせめて肉盾として名誉ある死を与えよとおおせです。ですよね、王よ!」

「違うぞ?」

「申し訳ありません! 王の御心を推し量れておりませんでした!」


 違ってんじゃん! お前よくそんなんで宰相やってんな!? 王様の言葉を勝手に代弁して間違えるとかお前こそ不敬罪じゃないの!?……と、口に出して言いたい! 言ったらその時点で宰相バニーに殺されそうだから言わないけど!

 この世界、異様すぎて下手に動けない……!


「だが……ムーンフォール辺境伯令嬢。そちが要らないのであれば、こやつは処分するしかなさそうだ。宰相がこれだけ言うておるし……この者はバニーガールでないしな」

「……」

「どうする?」


 女王が再度尋ねると、ナミミは俺の顔をじっと見つめてくる。ぷるぷる、俺、悪いヒバニンじゃないよう?


「ならばうちで引き取ります」


 その気持ちが通じたのか、ナミミは女王にそう言った。そう言ってくれた。


「チッ。命拾いしましたねヒバニン。せいぜいムーンフォール辺境伯令嬢に感謝すること、です、ねッ!」

「おぐっ!?」

「! さ、宰相様! この者はもう私のものです、危害を加えるのはおやめください!」


 宰相バニーに蹴られてさらにもう一発、といったっところでナミミが俺と宰相の間に割り込んで止めた。


「おっと失礼致しました。お詫びとしては何ですが……こちらをどうぞ」


 バニーメイドに箱を持ってこさせた宰相バニー。それを開けると、中には黒い首輪とリードが入っていた。


「これ、は」

「奴隷の首輪です。ヒバニンをそのまま連れ歩くわけにもいかないでしょう? 私からのプレゼントですよ」


 えっ。奴隷にされるの俺? と首輪を見ていると、何かを決意したかの表情のナミミがそっと首輪を受け取り、いまだ蹲る俺にそっと首輪をつけてくる。


「すみません……」


 俺にしか聞こえない小さな謝罪。ひんやりとしつつも少し温かい感触。革が俺の首に巻かれ、少しの息苦しさとともに、俺はナミミ・ムーンフォールの『所有物』となった。

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