二人

 翌日。まだ辺りが霞がかる早朝に目覚めた僕たちは、金沢へ向かった。京急沿いにひたすら歩く。遠くに街が見えるが、ここらと変わらぬ有様だろう。気温はそんなに高くなく、植物が茂っている。しかし昆虫の類は見つからない。地球上で僕たち二人だけが動物の生き残りなのだろうか。かつて通信の要を担ってたであろう鉄の廃墟を過ぎた頃、八景駅に着いた。

「けっこう歩いたね。」

「だね。でもほらもう八景駅に着いたよ。」

「やった!いったんかっしーの家行く前に飲み物とか調達しようよ。」

色々と補給し、彼女の家に向かう、なんなく道を進む彼女に、赤の他人のような疎外感を覚える。彼女の家に着いた。案の定、廃墟だった。彼女の親も見当たらない。今まで誰とも会わなかったからか、彼女は動揺していなかった。

「やっぱり何もない...お父さんもお母さんもいないね...」

僕たちはこの環境に慣れるまでしばらくここを拠点とすることにした。中区の方まで行っても良いが、高層ビルが崩壊してくると危ないし、ここの方が薪になる木もあって便利だった。



 彼女と二人きりで世界を生きて、早数ヶ月がたった。海沿いにいるので、何回か釣りを試みたが、どうやら魚自体いないらしい。それに病気にもならなかった。もはや僕たち老衰か自殺でしか死を迎えることが出来ないのかもしれない。あ、災害と事故もあるか。それはそうと、僕たち以外の動物性の生き物は根絶したらしい。でも、なぜか腸内フローラとかは無事なのか、腸もすこぶる元気なのは何か都合の良さを感じる。柏原との距離も縮み、新しい生活にも慣れた。私は彼女のことが大好きだから、このまま二人きりでも全然嬉しいが、彼女はどうだか。

「ねえ菜葉、発電機見つけた!燃料タンクも近くにあったし最強だ。」

「やった!電気が使えるようになる!凌ありがと!燃料も石油ストーブに使えるね。ついに秘密結社ブランケットとはおさらばだ...!」

「早速だけどなんか音楽流さない?」

「いいね!何聴く?」

「菜葉の好きなのでいいけど、一旦螟上?邨ゅo繧なつのおわり聴いていい?何ヶ月も聴けてなくて不足してる...」

「全然オッケーだよ!初めて聞く...どんな人?」

「初めて聞くなら『夏の亡霊』か『続・異夏の手帳』にしよう!超おすすめ!」

「おっけ!聴こ〜。冬なのに夏要素高めなのおもしろい。」




 半年後。春になり、暖かい日差しと草が茂って気持ちが良いが、蝶が舞わないのは少し味気なく感じる。涼風が足の間を吹き抜け、絶妙な具合に体躯を冷却する。なんと素晴らしい清涼のことよ。僕は彼女のことを愛しているが、彼女は僕のことを愛してくれるだろうか。

「ねえねえ凌、明日みなとみらい行きたい!」

「いいねいこっか。新しい服とかも回収したいしちょうどいいね。でもビルが倒壊するかも知れないからヘルメットを持っていこう。」

「うん!わかった。楽しみだなー。」

明日はみなとみらい方面に向かうことにした。動力車なんて生き残ってないので自転車で向かうし、何日か滞在して資源を得て帰ってくるだけだが。それでも二人で色々なところを巡るのは何よりの幸せだ。

八景に至るまでにあった鉄の廃墟をなんとか修繕して、モールスでも乱発すればもしかしたら誰かしかと接触出来るかもしれないが、僕は彼女と二人きりで全然いいし、彼女もそこまで他人に興味がないのか、通信を試みるそぶりを見せなかった。

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