どこにいこうか

春の終わり、金曜日

 夜、寒さと暑さの境界線を過ごす僕たちは、爽涼な風が吹き抜ける家でリラックスして週末を過ごしていた。テレビとかいう電気食い虫はお預けで、仮につけてもほのかに明るい黒に「電波が云々...」とかで結局見れない。そういうわけで、彼女とおしゃべりをしていた。

「明日土曜日だよ!凌。逗子行きたい!行こ!」

「いいねいこう!でも急にどうして?鎌倉とかじゃなくていいの?」

「ふっふー。あえて逗子なのですぞ。」

「ふーん。なんかありそうだな。」

「それは明日のお楽しみ!」

「ていうか僕たちしかいないのに平日も何もなくない?」

「確かに。えへへ。」

幸せだな。いつも彼女と二人きりで、楽しくおはなしして、二人でくっついて寝る。どこにいくにも二人で行くし、同じものを食べる。好き、大好き。愛してる。



 夜も深くなり、寝る時間だ。いつものように二人で寝るわけだが、僕は彼女を抱きしめたくなった。から、抱きしめた。

「わっ。凌どうしたの?」

「ごめん。しばらくこうさせて。」

強く抱きしめた。好き、大好き。彼女の暖かさと、僕の暖かさを交換する。

「菜葉、大好き。ずっと一緒にいたい。」

「ちょっと凌、苦しいよ。でも、えへへありがと。いいよ。ずっとずっと一緒にいよ。」

彼女は困った顔をしながらも、嬉しそうに顔をくしゃっとさせて笑った。愛おしい。愛おしい。

抱きしめたまま眠った。今度こそ誰にも渡さない。僕たち以外に生き物がいても。



 翌朝、晴れやかで乾いた爽やかな朝だった。そよ風が部屋を横切り、柔らかな朝日が差し込んだ。起きた僕たちは支度をし、出掛けに行く。手を繋ぎながら歩く。昨日までと変わらない距離感の間に何か暖かいものが充填されている気がした。

「逗子行くの、久しぶりだね。」

「ね。世界がこうなっちゃった時以来だもんね。」

「逗子行ったら何する?」

「ふっふーひみつ。」

そんなことを話しながら。逗子・葉山駅に着いた。昼過ぎに着いたから、コンビニでお昼ご飯を調達。ヤバめの細菌類もいないので、おにぎりなども全く腐敗してなかったが、化学変化とかで有毒だといけないので、食べられない。食べられるものは、賞味期限が無事なカロリーメイトバニラ味。僕たちは市街なんかお構いなしに、海岸へ向かった。高校の頃、初めて二人で出かけた時に来た所、逗子海岸に。

「風気持ちー!」

「ちょっと強過ぎない!?」

「これくらいがいいんだよ!」

ひとしきり渚で遊んだあと、砂浜に座った。

「ねぇ。ここに来てしたいことってなんだったの?」

「それがね、昨日凌に先越されちゃったんだけど。私も、凌のこと大好き!」

嬉しい。彼女も僕のことを好きでいてくれた!彼女は僕を受け止めてくれた。彼女が他の男に喰われた事実。これは変えられないし、僕を苦しめる。でも、僕はそんな事実とちゃんと向き合って生きていく。そして、そんな事実がもたらす暗い気持ちを彼女の言葉がこの強い海風と共に全部吹き飛ばす!

「嬉しい!大好き菜葉!好きになってくれてありがとう。」

海岸で抱きしめ合う。僕はこんなに幸せになっていいのだろうか。今まで誰にも好きって言われなかったこの僕が!

「楽しかったね!」

「うん!また遊びにいこうよ!」

「次はどこに行く?」

「どこでも!」

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週末、涼風と愛を 夢原長門 @Y_Nagato

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