挿入話:柏原の夢

 手紙を持っていた手が震える。私と居続けたことが彼を苦しめのだ。私は、彼のまごころは、彼を殺してしまった。だが三浦で二人別れても彼は死ぬだろう。罪悪感の海の渚に私は立っていた、何度も押し寄せ足元を撫でる罪悪感。でもどうしようもない。彼へのせめてもの贖罪として、たった一人であってもこの世界を生き抜くことを決意した。

 爽やかな午前中、私は彼を近くの草地に埋葬した、日に照らされて透き通った葉の緑が晴れやかな気分にさせようとしてくるのとは対照に、私の心は流動せず深くに留まっている。お墓は満足のいく出来だった。私はいつか野垂れ死ぬ、埋葬するものはいない。これは私への罰だと感じた。



 彼が去ってから数年が経っただろうか、今日もあの日と同じ爽やかな朝だった。乾いた涼しいそよ風が頬をなで、透き通った葉は私の心を換気し、暖かな日差しは私の心を温めた。たまらなく美味しい空気。いつもと同じように朝食を摂り、彼のお墓にお花を置く。私にはこれしかできなかった。

 決意をした私の行動は何の滞りもなく進んだ。手元にあった紙切れに言葉を書き、縄を首にかける。私は気づいた。彼は最後まで私を愛してくれた。私は、私を愛した、世界で最後の、私以外の人間を殺し、失った。そしてまた、私は気づかないうちに彼のことが好きだった。愛していた。彼の純粋な愛なしに、私はここにいる意味がなかった。

大粒の涙を静かに流しながら椅子を蹴飛ばした。

「...ッ!」

もし、もし次があるなら、今度は彼の愛を逃げずに受け止められるように。

_____

___

_





「ッ!?」

夢?今までのは夢だったのか!?よかった。本当によかった。思わず涙が溢れた。隣では疲れ切った彼がお構いなしに私の肩にもたれかかって微かな寝息をあげている。別に嫌じゃないし、なんとも言えない心地よさが心に流れ込む。人生でこんなに穏やかな気分になったのは初めてかも。私の恋愛は二度も彼を傷つけたのに、手放しに私を信頼して寝ている彼。そんな彼が急に愛おしく見えた。思わず頭をそっと撫でた。

「ありがとう。もっちー。」

彼は私のことをまだ好きでいるのだろうか?わからない。でも、今度こそ彼の気持ちを受け止める。もし夢の中の彼が、ここにいる彼ならば、彼は私のことをあんなに愛してくれているのだから。自信はない。でも、覚悟はある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る