第22話 エピローグ

「姫様が領主?!」


「そう、オレも驚いたよ。」

 

「じゃあ私はどうなるんですか……?」


「そりゃまぁ……ついて来てくれるよな?」


「はい!もちろんです!」


「あと姫様もいるから。」


「はい!二人で頑張りましょうね!」


「いや、の方。」


「え゙ぇ………!?」


「どこからその声出たの?!」


「なんであの人もいるんですか……?」


「そらまぁ……色々あるけど結局は同情だよなぁ。オレもキツイけど向こうの世界元いた世界に比べたら色んなもん手に入ってるのにアイツは失ったもんばっかだしさ……」


「え?世界?」


「あれ?まだ言ってなかった?オレこの世界の人間じゃないよ?」


「ええ???ど、どういう事ですか?!」


「まんまだよ、そのまんま。異世界人なんだよ。」


「じゃあ入れ替わりに成功したらいなくなっちゃうって事ですか?!嫌ですよ!帰らないでくださいぃ。」


「帰れないし帰らないから離れろって!見た目は女だけどオレは男なんだから!な?!」


「うぅ……でも可愛いですよ?」


「知ってるよ。」


「……帰りたくはないんですか?」


「こないだ死にかけた時、思ったよ。向こうには何もなかったし、世界が狭かったんだよ。目の前の一歩で死に物狂いでさ。こっちに来て姫様になれたのって実はボーナスタイムなのかーとか考えると帰らなくていいや。ってさ。」


「……良かったです。」


 シャーリーが泣いている。

 オレの分も泣いてくれ。

 あの頃の子どもなのに泣けなかったオレの分も。


「よし、そろそろ行くか。」


 ほんの一月も生活しなかった部屋と城に別れを告げる時が来た。

「寂しいですね。」

 とシャーリーが呟いたのが印象的だ。


 ――――――――


「本当に連れて行くんですか……?」


「ウォルター、わかるだろ?オレはもう決めたんだよ。」


「姫様は一度決めたら人の話を聞きません!」


 シャーリーはオレのことをよくわかってる。

 ウォルターも本当はなんやかんやわかってる。


 ガシャンガシャン!


「んー!ん!んーー!!」


「うるせぇから、もう行くよ。」


「はい。ウォルターは姫様の教育係をやれたこと、本当に誇りに思います。」


「今生の別れみたいなのやめてくれる?」


「ぐすんっ……」


「ほら、シャーリーが泣いてるよ。……メイド長も泣いてるし……なんか使用人も何人か泣いてるけど……」


「すみません雰囲気作りすぎました……」


 馬車で半日ほどの距離でここまで惜しまれるとやっぱ前の姫様って好感度マジヤバだったんだなって笑えてくる。


「姫様!準備と確認完了しました!」


 遠くから声をかけてきたのはこの度騎士団見習いの衛兵から《姫領主付き騎士》とかいう謎の役職へ昇進したグレゴリーだ。


 要はオレの領土内(旧辺境伯領)では騎士的な位の存在ってことらしい。

 向こうは現在領主の退任、新領主が姫様ってことでずいぶんとゴタついてて、かなり治安が地獄になってるということで特別に雇わせてもらえる事になった。


「みんな!世話になった!」

 と挨拶をしてシャーリーと馬車に乗り込む。


「お元気で!」「シャーリー!姫様をしっかりと支えるのよ!」「姫様!お身体お大事に!」


 わー!わー!わー!


 なんか色々言われて「わーわー」に聞こえる。


「ルチアーノは先に行ってんだっけ?」


「知らないです。」


「シャーリー…お前マジでルチアーノ嫌いな?」


 コイツマジでルチアーノの事を話題に出すと黙るの強いわぁ……。


「セヴィーラとは仲直り出来たんだからルチアーノとも頼むぜ?」


「セヴィーラさんはアレから心を入れ替えて姫様に忠誠を誓ってるから良いんです!」


 ……セヴィーラは忠誠心が暴走しすぎて騎士団の中でも上位だった地位を棄てて今この馬車の先頭にいる。

 わりとイカれてると思う。



 オレ、シャーリー、グレゴリー、ルチアーノ、セヴィーラの五人で北部へ移住し北部領土の治安を護り、平定していくというのが周りの描くコレからのオレの役割だ。


「知ったこっちゃねぇけどな。」


「……何がですか?」


「いや、さっさと入れ替わりの魔法使えるやつ見つけねぇとなって思ってさ。」


 ルチアーノを連れて行くのは「入れ替わり魔法を使えるヤツ」に関する情報を集めるため。

 グレゴリーはその補佐兼繋ぎ役。

 セヴィーラは城とかの守護。

 シャーリーは癒しと身の回りの世話


 ガシャンガシャン!!


「んー!ん!!!!んーー!!」


 そんでこのうるさい檻に入ったゴリラが戦闘要員。どっかで実戦経験積ませねぇとな……


 ――――――――


 道中で幾らか休憩をとる。

 近所に住む村人の好意で美味しい食事にありつけた。しかしそこでまた不穏な噂をきいた。


 なんでもこの辺りには最近、傭兵崩れが集まってできた盗賊団があるらしい。


「許せません!すぐに討伐に行くべきです!」

 と正義感の強いグレゴリー。


「姫様は絶対に行かないでください!なにかあったら私も死にますからね!」

 と忠誠心がバグってるセヴィーラ。


「もし行くとしても絶対戦わないでくださいね!」

 ととりあえず言うシャーリー。


「私の出番ね!この肉体が火を吹くのが楽しみだわ!」「いやそれ俺の体な……」「アンタが私の体で散々無茶したの忘れたの?」


 クソ姫様は檻にずっと入れておくべきだ。


「で?誰を連れて行くんです?」


「全員で行ったら、この荷物とか家財がアレだしなー…………」


 …………決めた。


「連れて行くのは――」

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地元じゃ負け知らずのオレと悪役令嬢な姫様の入れ替わり戦記〜オレは馬鹿だから姫がどうとか知らねぇ件〜 うめつきおちゃ @umetsuki_ocya

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