第21話 姫様の朝はつらい
眼を覚まして一番最初に見たのは、またしてもメイド長の顔だった…………。
いや別に嫌なわけじゃないんだけどさ。
「姫様!」
「うるせ、おはざっす……」
「良かった……すぐにお医者様を呼んできますね!」
返事も待たずにメイド長は出て行った。
「ふぅ……」
どれだけ時間寝ていたんだろう、あれだけ痛かった身体から痛みが抜けている。
ガバっ!
「姫様?!」「うわっ!!」
ビックリした!!
ベッドの端に頭を乗せたシャーリーが椅子に座りながら寝ていたことに気が付かなかった。
なんだか既視感がある……そうか初めて会った時もオレがシャーリーに気がつかなくて驚いて、シャーリーが謝って……懐かしいな。
さぁ、これから面白平謝りが始まるぞ。と思っていたら違った。
「何考えてるんですか!本当に死ぬところだったんですよ!!指なんか本当にウソみたいな方向に曲がってるのが何本もあって!!血だらけだし青あざも山のようにあって、鼻も曲がって!顔なんて倍くらいに膨れ上がってましたよ!!」
「わかった、わかったちょっと落ち着けって。」
「なんで、みんなを頼らないんですか!!なんで私を頼ってくれないんですか!」
「悪かったよ、本当にそう思ってる。」
巻き込みたくなかったとか一人の方が楽とか色々と理由はあるけど結局は人に頼ることが苦手なのだと今、気がついた。
「何もなかったから一人で生きてくしか、生き方がわからないんだよ……ごめんな。」
「うぅ……」
シャーリーが泣き出したので頭に手を乗せる。
何かキザったらしい言葉を吐くべき場面なのはわかるが思いつかないし、らしくないだろう。
ただ二人、時間が過ぎるのを待つように過ごした。
コンコンッ
と扉を叩く音がした。
「姫様、国王様がお呼びです。」
「ちっ!クソ親父殿か……わかった。着替えたらすぐ行くよ。」
ウォルターの声に返事をする。
そうか、今回のお説教は親父殿からなのか。
「シャーリー、起きるぞ。」
と声を掛けてベッドから出る。
「……どこも痛くない……だと?」
着替える為に服を脱ぐが全身のどこにも異常が見当たらない……
確実に折れてた指もまっすぐだし、切り傷もない。
「え?シャーリー、傷がないんだけどオレってなんなの?」
「……」シャーリーはまだ怒ってるらしく無言で服の用意をしてくれている。
「ありがとう……」服を受け取って自分で着替える、「これどうやって着るんだろ……」
――――――――
なんとか着替えを終えて親父殿の待つ広間へと向かうと玉座に王、ではなく知らんオッサンが座っていた。
「お主が公国王が娘、レオノーラか?」
「?……はい。私がレオノーラです。」
ウォルターから習った王族らしい挨拶をする。
いや、させられた。
この謎のオッサンからの圧に気圧された。
「初めまして、グランツ王国王様……」
「うむ、
はい、やらかした。今日はギャンブルしないほうがいい日だな。
「今日は一体どういったご用でしょうか?」
グランツ王の周りには親父殿、第二王子サミュエル、騎士団団長といったお歴々が立っているのでこれから始まるのがただの説教でないことはわかった。
「まずは我が国の膿であった《大魔法使い》リナルドの罪を
「え?あっ、はぁ……」
めんどくせぇ喋り方やめてくれ……
つまりリナルドを現行犯逮捕してくれてサンキューな!証拠ないから困ってたんだよって話か?
サミュエル王子の顔を見るがまたしても胡散臭い薄ら笑いを浮かべている。
コイツこれで関西弁だったら絶対裏切るやつだな。
「そしてそのリナルドと手を組み両国間の治安を著しく乱した《人攫い》エスクラード辺境伯を捕らえたのも見事というより他あるまい。よって辺境伯なき今、北部領土における領主として貴女を推薦したいと思うが
「は?」
……何が狙いだ?
一瞬、王子の許嫁であるオレを領主にすることで将来的に王国の直轄地にすることが目的かと思ったが元々の国の成り立ちからすると……
確か、王国がアスピン山脈のせいで区切られ管理しにくいから公国に委任したとかそんなんだったはず……
「じゃあ本当に褒賞として……?」
「はっ!息子の将来の嫁に土地をくれてやるだけの話よ!」
と言ってグランツ王は立ち上がり広間を出て行こうとする。
「え?」
「ちょっと待ってください!」
サミュエルと親父殿がついて行った……
「姫様、言いたいことは山のようにありますが、まずはおめでとうございます。」
「あぁありがとう。それより気になることがあるんだけどさ……リナルドはどうなったの?」
「王国にて幽閉されていると聞きました。」
……王国まで行かなきゃならねぇのか。
「あとさ、オレの体無茶苦茶元気なのなんでなの?」
「あぁそれはグランツ王が王子の許嫁ということで国宝級の魔法を使用したらしいです。それがなければもう姫様は二度と歩くことも出来なかったと聞きました。」
「チッ!!完全に頭抑えられた状態じゃねーか……」
「姫様……」
あのクソニヤケ王子、どこまで狙ってやがった!
頼んでもいねぇ事で恩に着せやがって!
やってる事完全に反社のそれじゃねぇか……
「まぁ……戻れば関係ないか……はぁ、もういいんだよな?なんか疲れたから部屋に戻るわ。」
「はい、姫様。お説教はまた後日。」
「いやいや……」
…………はぁ。
領土をもらって領主になったのに、お説教からは逃げられない。
――――
部屋へ戻る途中、王子がいたので声をかける。
「なぁ王子さまよぉ、入れ替わりの件……ってお前ニセモンかよ。」
「本当に見分けつくんすねー今まで誰にもバレた事ないのに……」
「骨格がなぁってソレはいいよ。」
「死活問題っすよ」とか言ってるが無視する。
変な語尾も無視する。
「いいから魔法だよ!どうなんだよ!」
「取り急ぎ無理っすね。」
「は?……はぁ?!!!」
無意識のうちに偽王子の胸ぐらを掴んでいた。
「ちょっと落ち着いて!ちょっとでいいから!」
「んーーーあっ!!はあーーー!!あああああ…………わかった……落ち着いた。」
「怖いっすよ……まぁいいや簡潔に言うと、リナルド卿の持てる全ての力を使って姫様の怪我と傷を治したから入れ替わりの魔法は使えないっす。」
「…………マジかよ。」
膝から崩れ落ちる……
静寂が廊下を支配してる。
顔を上げると偽王子は消えていた。
「あー……だるいって……」
心労に支配された感覚に陥る。
「くそ、……本物の姫様に説明しに行くか……」
――――地下牢――――
「…………というのが今回の顛末なのよ。」
「はぁ!!なんなのアイツら!ムカつく!!」
「わかる。完全に同意するわ……」
この怪物姫様と気が合う日が来るとは……
「……とりあえず私を出して!」
「いや、その理由がないだろ……」
「ここでずっと待ってるなんて性に合わない!私を出せ!そして私もアンタと一緒になって入れ替わりの魔法を使えるやつを探してやるって言ってんの!」
「いやお前に何が出来んだよ……」
「この身体のこと忘れたの?」
「オレのだ……ろ。ってそーか!」
「そう!私は今めっちゃ強い!アンタより強い!だから私を出せ!!!!」
うるせぇ……。
「……北部領主としての仕事をこなす上でお前の力が必要になるかもな……。」
「そう!魔法使い探し以外にも役に立つ!だからもう出してよホントに!」
「わかったよ。親父殿に北部領土での荒事用にって事で頼んでみる。今回の件で貸しができたから多分通るだろ。」
「約束だからね!絶対出してよね!」
はいはい、と軽く流して出口へ向かう途中の監獄から「俺からも頼みます。」と何回か言われた。
みんなの思い、受け取ったぜ!
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