第20話 最終決戦part2
エスクラードとゴードンの馬鹿二人を縛り上げた後、外の様子を見てみると何人かの見張りがいるだけのように見えた。
これくらいの人数ならどうにでもできそうだ。
幸い室内での騒ぎも気づけていなそうだし、なにより森の木たちのおかげで星空が隠れてる。
暗いところで生きるなら闇に気を付けないとな。
オレは闇夜に紛れてヤツらを襲い気絶させたところを開放した被害者たちに縛り上げてもらった。
「今、何人倒したかわかる?」
「はい、8人目です。」
彼女はマリー、城下町で食堂をやっている家族の娘らしいが被害者たちの中で唯一泣いてなかった。そのキモの座り方が尋常じゃなかったので手伝いを頼んだところ快く引き受けてくれた。器量も良く度胸も十分。ことが済んだら彼女のいる店にシャーリーたちを連れて行ってみようと思った。
「八人か……おおーい!誰かいますかー?!」
「ちょっと!姫様なにをしてるんですか!?」
いきなり大声を出したオレにマリーは驚いたようだ。
しかし残念ながらどこからも声が返ってこない。
「もう見張りはいないみたいだね。」
「え?まさか、そのために大声を出したんですか?」
「じゃなかったらヤバいやつじゃん。」
「あはっ!そうですね。」安心したのかマリーは可愛らしく微笑んだ。
これじゃあ人気の看板娘だ。
見張りも辺境伯も全員縛り上げた。
あとは《大魔法》様だけだな。
「あの……」
「あぁーそうだよな。うん、帰っていいよ。」
「どうやって帰ればいいんでしょう……?」
「………………」
助けたは良いけど帰り道がわからない。
「ん?なんで馬も馬車もないんだ?」
「え?それはもうどこかへ連れて行かれてしまったからと姫様がおっしゃってませんでした?」
「言った気もするけど……いや、だとしたら辺境伯はどうやって帰るんだ?わざわざ帰りの馬車が迎えに来るのか?」
「……確かに、そうですね?」
「とりあえず全員集めて意見を聞いてみるか…………」
この場にいる解放した被害者を全員集めるとなぜか嫌な予感がする。
風に乗って馬の匂いがしたのか足音が聞こえたのか自分ではわからないが『なにか』を感じ取った。
こういうときはとにかく最悪を想定するべきってのはオレが短くクソみたいな人生で学んだ数少ない生きるコツだ。
「あ゙あ゙あ゙……クソやろーがっ!!来やがったぞ!全員集まってどこかへ隠れろ!!絶対に物音を立てないようにしろ!!」
大声で被害者全員に伝える。
たとえこの予感が違ったとしたら謝れば良い。
全員に前もって
統率されてこそいないが皆一様に蜘蛛の子を散らすが如くこの場を離れて森の中へ走っていった。
オレは急いでエスクラードの寝室へと隠れる。
これで最悪ココから出る被害者はオレだけだ。
数分もしないうちに大量の馬の足音と金属のぶつかる音が聞こえた。
どうやらオレはここ一番の賭けに負けたらしい。
ベットしていたのは『ヤツに軍を動かすことはできない』という事。
大外れもいいところだ。
金属の音はおそらく鎧の音かなにかだろう。
リナルドとその手勢程度ならそんな音は鳴らない。
「誰かいないのかー!リカルド卿のご到着だぞ!」
バカが騒いでら。
バタンっ!
入ってくる音がした。
まだだ、この建物に入ったばかり。
この部屋じゃない。
「いないのか?!辺境伯!貴殿から呼ばれてきたのにこの仕打ち!どう落とし前をつけるつもりだ!」
バンッ!!
大きな叫び声と共に
「ここにもいないのか。」
ドスンッ!
ベッドに腰掛けたようだ。
「どこにもいません!」
部屋の外から声が聞こえた。
おそらくこの上に座るやつの部下だろう。
「さがせ!もし何かが起きたのだとしたら痕跡があるはずだ!草の根をかき分けろ!森の中も…………」
「それはダメだよ。」
急いでベットの下から這い出ると二人の兵士がコチラを見て驚いている。
ベッドに座っていた指揮官風の男は兜を外していたのでその側頭部に右掌底を叩き込む。
「キサ……」
その姿を見て叫ぼうとした兵士には左手に持っていたロープを切るためのナイフを投げつける。
「マッ!!」
と言いながらナイフを避けるためにコチラから目線を外し前屈みになった頭を押さえつけ膝を顔面にぶち込む。
指揮官風の男が立ち上がったのでドロップキックで倒したところをマウントポジションに移行して数発殴るフリをする。
こうなると人は腕で顔をガードしたがるので耳に掌底を左右交互にいれる。
男の腰のあたりに剣が刺してあったのに今更気がつくと無意識のうちにそれを奪っていた。
「殺しはしたくない。オレはすでに汚い人間だけど……わかるだろ?オレはお前で童貞を捨てたくないんだよ。」
と声をかけると男は小さく「ごめんなさい」と漏らした。
後ろにいた部下は鼻血を流しながら涙目でコチラを見ているので奪った剣を向けると無言で自らの剣をコチラに渡してきた。
オレはそれを受け取らずに首を横に振り
「お前がそいつを殺すんだよ。」
と小さな声で言うと部下の男は震えて剣を落とした。
「冗談だよ。今回は、な。」と言って肩を叩くと安堵したようだった。
多分コイツら二人はもう戻ってこない。
あと何人いるかはわからないが
窓から外へ出て隠れながら正面を確認すると数十人の兵に囲まれた男がいた。
鎧も着ずにこんなところにいるのだからヤツこそがおそらく《大魔法》様なのだろう。
エスクラードの関係者がどこにもいないことから警戒モードに入ってるらしい。
「隊長はどうした?」
「はい、それがあの建物に入ったきり出てこなくて。」
いやな会話が聞こえたと思ったら三人の兵士が向かってきた。
どう考えても直ぐバレる。
隠密に徹したとしても、もし奴らが偶然森の中の被害者たちを見つけたらコチラは身動きが取れなくなる……。
なら……もういっそ真正面から行くのが一番被害が出ないよな……
森の中の彼女たちが探される事もないだろう。
「おいっ!!」
考えがまとまるより前に出てしまった。
「なんだあいつは!?」
「逃げ出したのか?!」
「捕まえろ!」
兵士たちが口々に叫ぶ。
「あぁどうせなら元の身体でやりたかったよ。……そしたら……お前ら全員ぐちゃぐちゃできたのよぉぉーー!!!!」
色々言いたいことはあるがオレはやっぱりこういう単純なのが大好きなんだ。
ムカつく奴はぶん殴る。
後先は考えねぇ!!!!!!
――――――――
「はぁはぁ……なんなんだコイツ……バケモンか……」
「くそっ!……ダメだ右目が見えねぇ」
「あぁ……おい!大丈夫か!クソ……コイツら気絶してやがる!」
「ふぅ、ふぅ、殺せ!そいつを殺せ!」
「そうだ殺せ!殺せ!」
「ダメだ殺すな!!!!」
「そんなリナルド卿、なぜですか?!」
「コイツに何人やられたと思ってるんですか……」
「たった一人単騎でこの数に挑みこの場だけで八人、おそらくエスクラードの別宅で隊長たちも、そしてエスクラードたちもやられたと考えれば彼女の特異性がわかるでしょう。」
「くっ、それは化け物ですよ……」
「人じゃないです!」
「ならば!殺さず連れ帰り、王の為、第一王子の為に役立つよう研究対象にするべきだと私はおもいますがねぇ……」
「……たしかにリナルド様の言うとおりだ!」
「そうだ!リナルド様ならきっとこの化け物も何かに利用してくれるはずだ!!」
「ふっ……しかもこの美貌、間違いなくレオノーラ姫……。」
「え?なにかいいましたか?」
「すみません、そいつに耳をつぶされたせいで聞こえませんでした。」
「さぁ撤収しますよ。ここにいる意味ももうないでしょう」
指一本動かないほど打ちのめされたオレの耳にそんな声たちだけが入ってきてる。
オレ、負けたのか……
ガキの頃、お袋の彼氏にボコボコにされた時だって立ち上がって負けなかったのに……
何人に囲まれても……逃げて逃げて最後は一人立ってたのに……
立てねぇ……。
足だけじゃねぇ、全身が地面とくっついてる。
ふざけた感覚だ。
頭もぼーっとする。
「負けたくねぇ……」
「あ?コイツまだなんか言ってんのか?」
「気のせいだろ。さっさと運ぶぞ。」
「あーあせっかく顔は可愛かったのに勿体ねぇ」
あー……終わったな……
まじで終わった……
どうせなら地下牢のオレ、つーか姫様、出してやるんだったな……
シャーリーに甘くて美味いもん吐くまで食わせてやりたかったな……
グレゴリーのこと騎士に昇格させてやってルノアールたちにちゃんとした役職あげて……
……ははっ、
「全部コッチにきてからの話だ……」
「コイツもう意識取り戻しやがった?!」
「ウソだろどんだけ痛めつけたと思ってんだよ!」
「おい!さっさと誰か運べよ!」
「いやだよ!寝たふりだったらどうすんだよ!」
兵士たちが喧嘩してる。
そうか、まだヤレると思われてんのか。
だからさっきから地べたに捨てられてんのか……
ご期待に沿わなきゃな……
少しだけ回復したみたいだ、脚が動く。
ピクピクして生まれたての子鹿か子馬のような不恰好な姿を晒し立ち上がる。
「コイツ……イカれてるよ。」
誰かがそう言ったきり、場は静かだった。
「リナルドさま!!たいまつの火です!!!!大量のたいまつの灯りが見えます!!」
「ん?バカな援軍ですか?」
「いえ!!公国側からです!」
「はあ???!!!」
リナルドの声がこだまする。
どんな顔してんのか見てぇ……
つーかまじ?援軍……?オレが勝手やって負けた尻拭いとか?あー笑える。
笑いすぎて涙が出るわ。
マジで……、
「おい、どういうことだ。なんで公国のやつらが?」
「いや、辺境伯がこっちにきてるだけだろ?」
「辺境伯は軍を動かせる立場にない!はずだ!」
リナルドが兵たちに叫ぶがその声は近くにいた一部にしか届かない。
「つ、つまりアレは公国軍?!」
「だとしても!!数は我々の方が多いはず!」
「いえリナルド卿、向こうのほうが倍近くいるかと……」
「どうする!どうする?」
「隊長は?」「ダメだ!まだ気を失ってる!」
「副隊長は?」「わからん!放心状態で話にならん」
頭を失った兵士たちは各々好き勝手動き始めたようだ、公国の様子を見にいくもの、森へ逃げるもの、諦めるもの。
「つかアイツ……副隊長だったんだ……心折っといて良かった……」
立ち上がったオレはもう奴らの興味の外側らしい。
「リナルド卿!!」
無我夢中で立ち上がったオレは気がつくとリナルドの馬車に手をかけていた。
というか扉を開けていた。
「くそ!誰かコイツを殺せ!!!!」
「ここにいたのか……」
兵士たちは公国騎士団の登場に対して逃げるか防御陣を引くかで迷ってウダウダやってるみたいで誰もリナルドの声を聞いてない。
いや一人聞いていた。
頼りなさそうな新兵丸出しのソイツは
「え?!良いんですか?!研究対象じゃ、」とか言ってオドオドしてる。
オレは馬車の中に入りリナルドを掴む。
「死にかけのオレと……魔法使いのお前……どっちが強いかな……」と掠れた声で問いかける。
「いいから誰かコイツを殺せええええ!!!」
と怒鳴ると同時に
バッ!!
シュタッ!!!ヒヒーーーン!!!
「公国騎士団掛かれええええ!!!!!」
公国騎士団が到着した。
「なんだこいつら!」
「うわああ!!」
「くそ!!ふざけんな!!」
カンカンカンカン聞こえるのは金属がぶつかり合う音だろう。罵声も飛び交う。
どうやら乱戦になったらしい。
「なぁ魔法使い、頼み事聞いてくれたらさ……殺さないであげるって言ったら……どうする?」
「放せっ!放せっ!!小娘が!!ふざけるな!!誰の服を掴んでると思ってる!!《大魔法使い》をナメるなよ!!」
非力な爺さんが暴れてる。
「必死だな……」と笑ってしまった。
ガバっ!と馬車の扉が乱暴に開かれると見知った顔がいた。
「姫様、ってアンタ姫様か?!ひでーツラしてるぞ!?じゃなくて……大丈夫ですか?!」
「よう、団長……コイツがリナルドだ。死んでも殺すな……」
「はい!任せてください……って姫様!」
ここでオレの記憶は飛んだ。
寝たのか気絶したのかは知らん。
起きたらいつもの顔があったので多分、死んでないんだと思う。
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