第18話 夜の城下町

夜の城下町は初めて来たが昼間とはずいぶんと違った表情をしている。

 アルコール、賭け事、性風俗あたりは想定の範疇だが中には『快楽魔法』とやらを売りにしてる店が出ていた。


 昼間とは往来に歩く人も変わってる。

 労働階級の男たちがそのほとんどを占めていると言ってもいいだろう。


 その証拠に「お嬢ちゃん、そんなカッコしてどうした?犯されたのか?俺が優しく介抱してやるよー?」うぃー……


 なんて声をかけてくる奴が後を絶たない。酒に酔ってるのか?


「姫様、せめて着替えてから来ましょうよ。」


 と、オレの腕を掴んで歩くシャーリーが囁く。

 

「時間もったいないだろ。」とオレが言うと「なにをそんなに焦るんですか……」とシャーリーは不満げに漏らした。


 『精神が肉体に引っ張られてる可能性がある。』


 これはまだ確定してない話なので黙っておく……いつのまにか雪だるま式にヒミツが増えてるみたいだ。


「人はなりたくない大人になる。」って誰かがなんかで言ってたな。


 そんなことを考えていると声をかけられる。


「姫様?!なぜこんな時間にこんなところへ!」


「グレゴリーか、そうかお前も男なんだな。」


 明らかにソレ系の店から出てきたグレゴリーだった。


「……」 シャーリーはなんとも言えない目でグレゴリーを見つめている……。


「いやっ、これは!」


「オレも男だ。わかるよ。今はないけど、もし付いてたらお世話になってたかも知れんからな。」


「姫様!!」

 シャーリーが腕を引き抜こうと引っ張る。

 痛い痛い痛い、!


「違うんですよ!ルチアーノと話していたんです!」


 ……シャーリーが拷問を止めた。


「ルチアーノ、オレも探していたんだ。」


「!そうだったんですか、いやそうか逆にソレ以外で姫様がココへくる理由なんてないですもんね。」


 付いてないからな……


「じゃあコレがルチアーノさんのお店なんですね……。」


「はい、中にいますので呼んできますね。お二人が入るのはちょっと目立ち過ぎますし。」


「逆だろ。外で話すより中の方が安全だ。けてきてる奴らも中までは入らないだろうし。」


 と言い終わるやいなや、二人が周りに警戒の目を向けようとするので肩を抱いて止める。


「やめろ、尾行に気づいてるって知らせるな。気づいてないフリし続けろ。」


「そんな……誰が尾いてきてるかわかってるんですか?」


「多分王国の諜報機関だと思う。王子の子飼いだ。

 ウィスパーズとかそんな名前だったかな。」


「なるほど……」


 二人は納得したようだ。

 本当はソレ以外に、陰湿な視線をコチラに向けてるヤツらがいる事は伝えない。


「安心しろ。きっとうまく行く。」


「?とりあえず中へ入りますか。」


 グレゴリーを先頭に店内へ入る。


 色付けされた蝋燭の灯りが妖艶な空間を演出していてココが汚い城下町の裏通りだということを忘れさせてくる。

 どうやらルチアーノは中々の商売上手らしい。


「うわーキレイですね……」


 なんてシャーリーは喜んでる。

 ホント不安になるくらいチョロいな……。

 変なやつに騙されないようにオレが守護まもらナイト。


「ココです。」


 と扉の前でグレゴリーが立ち止まってノックをしようとする。

 これだけ嬌声飛び交う室内で聴こえるのかは謎だが一応止める。


「え?」というグレゴリーの横で扉を蹴破る!


 ドンッ!!!


「よう、ルチアーノ」


 と初対面の時にされた事の意趣返しをしてみるがウケなかった。


「おう、姫様か。珍しいなこんなところで。」


 女を抱いているルチアーノがそう言った。


「キャっ!」

 女とシャーリーが同時に叫んだ。


「おい、悪いな仕事だ。」

 というとルチアーノは抱いていた女を押し退けた。


「次同じような扱いを女にしたらぶん殴るぜ。」


「ふーん、ずいぶんと紳士だな。女好きの姫様は、」


「貴様なんて口を!」

「このゲス男!!」


「やめろ!!」

シャーリーとグレゴリーが二人して食ってかかろうとするのを止める。

 なんかオレ、こっちきてからこういう役目多くね?うちの地元より手が早いヤツ多い気がする……


「怒んなよ、挨拶だろ?姫様はわかるよな?」


「あぁなんも気にしてない。気にしてるのは仕事の進捗だけだ。」


 姫様がそうおっしゃるならと二人は引き下がった。


「仕事なぁ……貴族風に長々と話すのと俺たち流に簡潔に話すのどっちがお好みかい?」


「好きな方にしろよ。ただし時間をかければかけるほどさっきの女は乾くぜ。」


「ハッ!ハハッ……ちげーねぇわ。さすが俺の認めた姫様だ。オーケー簡潔に話す。」


 と上機嫌になったルチアーノは語り始めた。


「まず、潜入は成功した。女が二人、辺境伯の屋敷で働いてる。だがガードが固いのか未だに証拠は抑えられてない。」


「もしくは、証拠になるようなものがない。だな?」


「かもな。わざわざ文書に残すなんて事は無いだろうしな。密談の現場を偶然見つけるなんてのも難しそうだ。」


「まぁそれもそうか……」


 カメラがあれば密談を写真に収めるとか録画するとかできるんだが……ちっ!この文化レベルにおける証拠ってなんなんだ?


「一応もしもの事態に備えて辺境伯領に何人か武闘派の奴らを潜入させてはいるけど……」


「……!そいつらはどの程度使えるんだ?」


「どの程度って、まぁ下手な傭兵どもよりは腕っぷしに自信あるだろうな。」


「わかった。そいつらに早めに連絡して『出番は近いから準備しとけ』と伝えてくれ。」


「あ?どういうことだ?」


「良いから頼むよ。それとグレゴリー、シャーリーを捕まえといてくれ。」


「え?!どういう意味です?」


「いいから今!ほら!捕まえろ!」


「え?はい!」


「ちょっとダメですよ!離してください!姫様が危険です!!!!」


 グレゴリーがシャーリーをつかんだ瞬間走り出す。


 店内を抜けて裏通りをアテもなく走る。


 走る走る走る走る…………。


 ――――――


 今がどこなのかさっぱりわからない。

 一つ言える事は、ここは城下町、王都の中で最も人気のない場所だという事だけだ。


 小さな丘になっていて夜風が気持ちよく吹いている。ボロボロのドレスをさらに汚すように寝転がるとひんやりしていて心地がいい。


 そんなオレに影が近付いてくる。


「ウィスパーズだろ?」


 と、問いかけると影の主は顔を隠す布を外した。


「よう、偽王子、三度目だな。」


「はい、偽姫様。相変わらず景気が良さそうで。」


 サミュエル王子と同じ顔をした青年がニッコリと笑っている。


「で?どう言ったご用件です?わざわざお一人になってこんな人気のない場所になんて……?」


 勝手に出てきたくせによく言うよ。


「分かってるんだろ?オレの考えも要求も。ずっとオレを見てきたんなら。」


「ハッハー!それは買い被りすぎですよ〜。有り難いですけどね?一応!お聞かせ願えますか?」


「チッ!はぁ分かったよ……お前らならわかるだろ、この辺りにあるはずの《人攫い》の拠点が。」


「ハッハー!!アンタ、マジでイカれてるよ!」


 また別の男が出てきた……布の下から現れた顔に見覚えがある……


「お前、キッチンにいただろ?」


「おっ!よく分かったな!正解!俺はコックとして潜り込んでたんだぜ。もうお役御免だけどな。」


「……そうか、地下牢の看守が間違えたのはお前と、なのか。」


 看守の口ぶりからするとコックが定期的に足を運んでいる風だった。

 そこで看守からオレ(中身姫様)の発言を聞いていたから姫様(中身オレ)が入れ替わってるって王子は知っていたのか!


「謎が解けたようでなによりです。」


 偽王子が本家さながらの薄ら笑いを浮かべている。


「で?どうなんだよ。」


「はい。もちろん知ってますよ。そこへ連れて行くかは別の話ですけど。」


「いいよ、教えてくれれば自分で行く。」


「教えるわけねぇだろ?俺らは王子様からアンタの護衛を頼まれてんだからな!」


 コックは怒ったかのようにそう言った。


「お前らから見て俺の容姿はどう見える?」


「はぁ?なんだコイツいきなり!」


「なるほど……自分は容姿が優れているから攫われたとしても危害は加えられない。それどころか安全に高級な商品として扱われると言いたいわけですね。」


「理解が早過ぎてキモいな、でもその通りだよ。」


「なるほど納得!わかりました!案内しましょう。」


「は?!おい!お前何言って……」


「今のリーダーは私です!アナタは黙ってなさい。」


 偽王子が偽コックを叱りつける。


「では行きましょうか。」


「あぁエスコート頼むぜ偽王子。」


「楽しい時間をお過ごし下さい。偽姫様。」


 そしてオレは闇夜の中

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