第17話 謁見説教許嫁
「なぜここに呼ばれたかわかるか?」
当然だ。
今ここには姫様(オレ)と、その父であり王である男、そして隣国であり宗主国たる王国の第二王子サミュエルの3人しかいないのだから。
王座には王、その横に立つはサミュエル。
その前でボロボロのまま立つオレ。
生脚が寒いぜ、こんちくしょう。
「身体中が痛いから椅子でももらえます?」
「はっ!いい度胸に育ったなレオノーラ!!」
「褒め言葉と受け取るよ、親父殿。」
親父殿という呼び方に違和感を覚えたようだが、そんなことは小事と切り替えたのだろう、王は「で?質問の答えは?」と冷たく語りかけてくる。
「説教ならウォルターとメイド長が担当するだろうし…………サミュエル王子がいますからねぇ。」
サミュエルの方を見ると相変わらず薄ら笑いを浮かべている。だんだんとムカつく顔に見えてきた。
「話が早いな。お前の考えてる通りだろう。そう、《人攫い》の件だ。聞いた話によればお前はいくらか前から動いていたらしいじゃないか?らしくないな。」
「前からって言ってもほんの十日程度だよ。それに姫様らしさや貴族らしさ、そんなもんに価値がないって知ってるからな。」
「耳が痛いですね。」
王子は肩をすくめる。
「ハッ、小娘が抜かすな!キサマ程度に貴族の何がわかる!それに言わせてもらうがキサマが今までどれほど貴族としての恩恵を享受してきたか、それを忘れたとは言わせんぞ!」
王はブチギレてる。
まぁそうだろうな。
オレは直接見たわけではないが地下牢の
「まぁまぁ公国王、過去はどうあれ現在が良いのなら多少、大目に見てもよろしいのでは?」
「貴族の価値もわからんバカ娘にそのような……いえ、サミュエル王子の言う通りですな。レオノーラ、これからは心入れ替え、貴族として王族として相応しい立ち居振る舞いをするのだぞ?」
うぜぇ……
「はい、めんどくさいので分かりました。これからはクソ親父殿の言う通りゴミ貴族としての振る舞いにゲロぶっかけて生きてやるよ!!」
と言いたいところだが話が進まなくなるのが目に見えているので下唇を噛み締めて押し黙ることにする。
「王子のところへ輿入れするまでにはキチンと教育させますので安心してください。」
……そういうことか、
なんとなくクソ姫様の生い立ちが見えた気がする。
「今のままでも私はとても素敵だと思いますよ。」
「はんっ!」
王子の軽い言葉に思わず笑ってしまった……
「すみませんバルコニーから飛び降りた痛みがまだ残ってて変な声が出ました。」
「クソ娘が……まぁいい、話を戻す。でだ、《人攫い》の情報はどの程度集まっている?」
「把握しておりません。」
ドンッ!
王が玉座を叩いた。
「バカにしてるのか!?」と怒鳴る王の顔を今にも血管がはち切れそうだった。
「社交界だとかいうイベントのお陰で調査の依頼をしてる連中と話す時間が取れませんでね。コチラの責任にされても困るわけですよ。」
「社交界の大事さがわからんからキサマはガキなのだよ……情けない。」
「ではそのご自慢の社交界でおつくりになったツテでも使ってこの公国に巣食う問題を解決なさればよろしいのでは?」
「もうやめないか!」
おっと……せっかく盛り上がってきたのに王子が横槍を入れてきた。
「二人とも親子喧嘩がしたいなら勝手にやってください!私は帰ります!」
「なっ……王子、それでは王国への顔が立ちません。どうかお持ちください……!」
王子は出口へと向かう、どうやら帰るようだ。
「レオノーラ!お前からも何とか言え!キサマの許嫁だぞ?!」
「はぁ、『なんか』ねぇ……論ずるべきところが二人とも間違ってんだよな最初から……」
「ほう?というと?」
どうやら王子の興味を引いたらしく足を止めてコチラへ振り返る。
「説明してもいいけど無駄なチャチャばかり入れるだけのクソ親父殿は口を挟まないと誓ってもらえますか?」
「な?!キサマ今、何と言った!」
「誓いましょう。公国王、お願いします。」
「くっ……」とかいって
「さぁ教えてくれるかい?その論ずるところとは?」
「簡単な話だよ。証拠が掴めたか、オレが調査を依頼した自警団の奴らに聞けばいい。そしてもし証拠がないなら
「なっ!」と言った
「それはつまり捏造という意味で?」と問いただしてきた。
オレは首を横に振り否定する。
「オレ自体が被害者、つまり攫われる状況を作る。」
「「」」
二人とも口を開くが何も言わない。
声が出ないのだろう、その経験はオレもしたことがある。
「つまり……」とだけ王子は絞り出した。
「まぁまずは話を聞くのが先でしょう。失礼しますよ。ここにいても得るものはもう無さそうだし。」
そう言って広間を後にする。
廊下に出ると王子が着いてきていた。
「親子仲は良くないみたいだね。」
「王子、まだ何か話が?」
「うん、僕なりに考えてみたんだけど、さっきの話は北部交易路だっけ?あそこでやったことを《人攫い》相手にも仕掛けるってこと?」
「そうだよ。現行犯なら証拠もクソもないだろ?」
「それはわかるよ。でもそのリスクを負ってまでする理由がわからないんだ。本物の君はそもそもこの国の人間じゃないんだろ?」
「まいったな、そこまで全部知られてるのか……」
と言っても異世界ってことは知らなそうだな。
知られたところで何のデメリットもないけど、わざわざ説明する必要もないだろう。
おれが向こうの世界で得たモノなんてプロレス技くらいしかないのだから。
「キミがいくら強いからとはいえ相手はプロ。前の寄せ集め盗賊団とは違うんだよ?」
「前の体と比べると体重も軽くなったしリーチも短くなったからなー。」
「ほら、つまり弱くなってるんだろ?もっとマトモな作戦を考えるべきだよ。」
「マトモ?マトモだって?それはオレが一番嫌いな言葉だよ王子様。」
コイツは今、オレの地雷を踏み抜いた。
それを感じ取ったのか王子はバツの悪そうな顔を浮かべている。
「色々言いたいけどココじゃ誰に聞かれるか分からんから止めとくよ。でも、オレはオレの道を行く。」
「それが底なしの沼ってわかってるの?」
「安心しろ。この顔は守って返すよ。あの地下牢の怪物にな。」
「ふーん、おもしれー女。」
最後の王子の言葉に鳥肌が止まらない。オレ(の中身)は男だ!そしてオレは女好きだ!!!!
城を出てルチアーノのところへ向かおうとする、
が、よくよく考えるとルチアーノがどこに居るのか知らなかった。
途方にくれているとシャーリーを見つけた。
「シャーリー!ルチアーノの居場所わかるか?」
「姫様!お怪我はないですか!?バルコニーから飛び降りるなんて危険すぎます!何考えてるんですか!」
「おいおい、勘弁してくれ、その手の説教はウォルターの爺さんから既に受けてる。それよりルチアーノだよ。アイツの居場所教えてくれ。」
「何回言っても聞かないなら何回でも言いますよ!」
無視してんだから言うだけで徒労だろ、と思わなくもないが言わないでおく。
「それにルチアーノって、まさかこんな時間から出かける気ですか?!」
言われて気がついたが外は月明かりしか無い。
真夜中になっていた。
「奴らに聞かなきゃならんことと言わなきゃならないことがある。」
「今すぐじゃ無いといけないんですか?いくら城下町とはいえ夜は危険ですよ。最近は治安も悪くなり始めてますし……」
「まぁちょうどいいだろ。運が良ければ、いや悪ければ早く事が済むかもしれんな。」
シャーリーはわかって無さそうなので、こっちの話、と適当にはぐらかす。
「で?居場所、わかるんだろ?」
「はぁ……多分この時間だと明け方までやるような飲み屋さんとかじゃないですかね?」
「場所はどの辺?だいたいでいいよ。」
「…………はぁ。わかりました。案内します。」
「いや、危険だからシャーリーはいいよ。」
と言って思ったが、お互い同じこと言ってるわ……
「私は侍女です!ってなんで笑ってるんですか!」
「はー……オレらは悪い意味で似てるよ。人の意見とかどうでもいいもんな?」
「えぇ?私はそんなんじゃないですよ!姫様は強引過ぎます!」
プンスカしてるシャーリーを無視して城を出る。
月明かりに照らされる城下町は怪しげな雰囲気を醸し出していた。
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