第15話 社交界
社交界、
ただただ圧倒される。
人の多さもそうだがそれ以上にとにかく、派手!
派手、派手、派手!
全員が見た目からしてうるさい。
そして残念ながら自分もその一人であるという事実がテンションを下げる……。
「姫様!ついに社交界デビューですよ!私もう嬉しくて嬉しくて!!」
いつものシンプルなメイド服とは違い着飾ったシャーリーが隣でそんなことを言って騒いでる。
「お前は楽しめよ?」
と頬をつねるがそれでも笑顔だ。
「おやおや、ようやく
大声でそんなことを言ってこちらに衆目を集めたのは公国王、つまり
「さぁその姿をみんなによく、見せてあげなさい。」
と偉そうに宣うのは
二人とも何度かすれ違ったことはあるがほとんど話したことはない。
「あらあら、姫様もずいぶん大人になられて」
「おてんばだったのにもう立派な淑女ね。」
とかまぁなんだそんな言葉が飛び交う中、教育係のウォルターに習った挨拶で辺りに愛想を振り撒く。
「屈辱だ。」
「姫様、口に出てますよ。」
「出したんだよ。内に溜め込んでたら爆発しちまうからな。」
こんなクソみたいな感情と言おうとしたところで止める。
護衛に来ている騎士団の連中を見つけたからだ。
軽く探すが団長は見当たらない。
恐らく巡回がてら挨拶周りでもしてるのだろう。
「セヴィーラ、こないだぶりだな。」
「ひっ、姫様!この度はおひっ、ヒガらも……すみません……。」
セヴィーラは緊張からか無茶苦茶に噛み倒して顔を赤く染めている。
「姫様から話しかけてもらっておいて、なんなんですかそれは。もしかしてふざけてます?」
シャーリーはセヴィーラに手厳しい。
「お前もオレと最初に話した時めっちゃ噛んでただろうが!」
シャーリーはセヴィーラに対して威嚇状態へ移行したがセヴィーラは萎縮している。
……話が進まないので「あれ?カスピムールのパスタ?」と小さく呟くと
「カスピムールのパスタ!?どこです?どこです?」
とシャーリーが反応する。
カスピムールのパスタはシャーリーの大好物だ。
オレ専用の昼食で出た時は平気で
「私それ大好物なんです……本当に、だからそれ私にくれません?本当に好きなんです。」
とか隣で囁き続けた経歴がある。
「シャーリーGO!」
というと返事もなく走り去っていった。
オレはそんなシャーリーの浅ましくて逞しいところがとても好きだ。笑える。
「あの、姫様。」
腹を抱えて笑うオレにセヴィーラが声をかける。
「私たち騎士団は姫様に謝らなければならないことがございます。」
「あ……あーこないだの件はもういいって……」
「姫様たちの捕らえた盗賊団員が全員死にました。」
「…………は?」
「いえ、正しくは殺されました。」
…………?何を言ってるんだコイツは、
「連れ帰ってきて。多少の尋問の後、抵抗のそぶりがなかったので騎士団の詰所に軟禁していたのですが見張りが交代の隙をつかれて……。」
「オレが社交界の勉強をしてる間に……ちっ!口封じってことか、犯人は?」
「いえ、それが私たち騎士団員は社交界の準備と警備があって……」
「野放しってわけか?」
「いえ、それがこの間姫様と一緒に盗賊団を追った衛兵と……自警団の何人かが探ってくれてます。」
グレゴリーとルチアーノたちか。
あてもなく探すよりかはアイツらのほうが適役だな。
もし裏にいるのがエスクラードなら、だが。
ざわざわ……ざわざわ
場が急に色めき出した。
「本日のメインゲストのお出ました!」
誰かがそんな事を叫んだ。
……つまりサミュエル王子がいらしたってわけだ。
「セヴィーラ、その件は騎士団と自警団に一任する。お互い協力し合ってソッコーで片をつけろ。」
「っ!はい!必ずや姫様のご期待に……」
とかなんとか言ってるセヴィーラを無視して料理や飲み物を運ぶ使用人、ギャラリーとして周りを彩る紳士淑女の合間をぬってその姿を確認しに行く。
「みなさん、ご機嫌麗しゅう。」
クソみたいな口上をあげるその姿は……
少し長く整えられた茶髪、
細くにこやかな目
細い鼻に薄ら笑顔が似合う……あれ?
「なんか、さっきの男と違う……?」
「あらぁ!レオノーラ姫様よ!」
「姫様とサミュエル様が揃ったわ!」
「二人とも本当に美男美女ねぇ!羨ましいわぁ」
ギャラリーが騒がしい。
王子がコチラに気づいてゆっくりとコチラへ近づいてくる。
それにつれてギャラリーのテンションもあがる。
まぁ確かに顔面だけで言えば映える二人だ。
見てるだけで楽しいのかもしれないな。
オレの中身は男だが。
「やぁレオノーラ、さっきぶりだね。」
そうやって和かに笑う、その男は先ほど自室に現れた男と
「……ふぅん、影武者ってわけですか?」
「おおっ?よく気がついたね。顔も所作もほとんど同じにさせてるんだけど。」
「肩幅が違いますよ。体の厚みも違うし、なにより耳が全然似てないですね。」
と影武者との違いを説明すると王子は感心したような表情を浮かべる。
「で?目的はなんだったんです?」
「ここだとギャラリーがいる、
それにコレからほら君のところの父王がなにか話すらしい。」
親父殿がなにやらグラスをフォークで叩いて衆目を集めてる。アイズオンミーじゃねぇんだよ。
「場が落ち着いたらバルコニーで話そう。」
そう言って王子は親父殿に呼ばれるがまま衆人の中へと消えていった。
…………手持ち無沙汰になったオレの横に気がついたらシャーリーがいた。
「パスタあった?」
「ありましたけど、お前は侍女だからダメだって言われました。」
「お前、そこは『姫様に頼まれたんです』とか言って貰ってこいよ……」
「そんなことに姫様の名前出せませんよ!」
なるほど、意外としっかりしてる。
ふと疑問に思ったことをシャーリーに尋ねる。
「使用人、てかメイドたちはいつも通りのメイド服だよな?」
「はい。私は侍女に昇格したので今日はオシャレさんですけど!」
「あ……あぁ可愛いよ。」
と、適当に褒めるととても嬉しそうだ。
「姫様もとっても可愛いです!本当にお姫様みたいです!」
違ったらよかった。
「じゃあなんであのメイドはいつも通りじゃなかったんだ?」
「……あのメイドって?」
「ん、ほらあそこのドレス姿の人、前にルチアーノがきた時に興奮して暴れる激ヤバ侍女をグレゴリーと一緒に落ち着かせてくれたメイドだよな?
」
「あぁ!あの人ですね。本当だ、なんでドレス姿なんだろ……実はちょっとわかんないんですよね。あの人の名前とか誰に聞いてもわからないみたいで……」
…………
「誰も知らないメイド、ドレス姿……社交界……」
「怪しすぎてワナを疑うくらいだな。」
「……なにがですか?」
「ちょっと声かけてみるか。」
「誰にですか?!」
シャーリーをおいて女のところへ向かう。
どうやら女は我が父王、いやその隣で挨拶をしているサミュエル王子に気が取られてるらしくコチラへ気がつかない。
「なぁ……」
その女に声をかけたその瞬間
「レオノーラ!お前もコチラへきて挨拶しなさい。」
その場の全員がオレを見ているのを感じる。
「……はい。今向かいます。」
傍目に探すが女はさっきまでの場所にいない。
どうやら上手く隠れたようだ。
つまりそういうことなのだろう。
ギャラリーの前に出て「レオノーラです。」と適当に挨拶をかますとウォルターが苦虫を潰したような顔をしていたのが見える。
「レオノーラぁ!そんなんじゃダメだぁ!許嫁の前でくらいしっかりしろぉ!!」
クソ親父がなにか……言って……
「いいなずけ……?」
「」
頭がまっさらになって誰の声も頭な入らなくなる……
「オヤジ、体調がわるい……」
そう言い残してその場を離れるとシャーリーがすぐに寄ってきてくれた。
その小さな身体に抱きつくと「許嫁……」と小さく漏らした……。
ただでさえ今日は盗賊団の事件と影武者の事で頭がいっぱいなのに、
さらに追い打ちをかけるように『許嫁』問題……
「オレは男だぞ……」
「でも……姫様です。」
………………
一番手っ取り早いのは嫌われること……だな。
それ以外の手はたぶん無い。
ソレがいつ起きるかわからないからなるべく早く行う必要がある。
シャーリーから身体を離す。
「姫様……?」
「わかった、とりあえずあの王子に嫌われてくる。」
そう言い残してバルコニーへと向かうオレの腕をシャーリーが引っこ抜く勢いで引っ張る。
「グエッ!」
と変な声が出た。
周りが何事かとコチラをみる
「おまっ、なにやってんだよ!」
「グランツ王国は魔法大国でもあります!」
…………つまり、
「入れ替わりの魔法を知ってる人がいる可能性がある……って言いたいのか。」
「はい。」
真剣な眼差しのシャーリーに気圧される。
コチラをみるギャラリーに問題ないことを告げて少し離れた場所へ二人、移動する。
「今の話はマジか?」
「はい……絶対とは言えませんけど、まだ嫌われるようにするのは早いと思います。」
たしかに、嫌われる前にやれる事はおおそうだ。
「王子と仲良くなって入れ替わり魔法について聞いてからでも遅くはないか。」
「私はそう思います。嫌われるのは簡単だと思いますけど、もし本当にそんな魔法があるなら、かなりの大魔法なので国家機密クラスなので……」
「嫌われてたら教えてもらえないわな。」
シャーリーは頷く。
入れ替わり魔法……さて、どうやって聞き出すか。
そんなことを考えていると王子がバルコニーへ向かうのが見えた。
「まぁなるようになるか……」
作戦立てるのは苦手だし、面倒だ。
オレもバルコニーへ向かうことにする。
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