第13話 隣の王子様
「姫様!朝ですよ!起きてください。」
メイド長の声で起こされるのはとても辛い毎朝のルーティンだ。
「……メイド長、オレたちが昨日どれだけ大変だったかって話したよな?」
丸一日かけて北部交易路を歩いて帰ってきたせいで未だにオレのカラダはボロボロだ……。
といっても途中、通りかかった行商人の人に乗せてもらったんだけど。
「聞きました、聞きましたけど、それは自業自得ではないですか!」
朝からど正論パンチはもっと辛い。
「いや……まぁそうなんだけど。」
盗賊団を捕まえに行った理由が『王都に嫌がらせしてる奴の手下の可能性があるから捕まえて情報を得よう』ということは内緒にしてある。
《
「いくら
「社交界……ってなんだっけ?」
「……本気で言ってます?」
「あれだろ……偉そうなヤツらを集めて踊ったり喋ったり飲んだり食ったりすんだろ?」
「……ウォルターさんを呼んできますね。」
「シャーリー!逃げるぞ!!」
ベッドから這い出すがシャーリーが見当たらない。
筋肉痛でマトモに動けないのはオレだけじゃなさそうだ。
「シャーリーは体調不良で寝込んでますよ。今日はお休みです。」
「じゃあオレも姫様の仕事お休みさせろ!!」
ガチャッ。
「ぁあぁ……」
メイド長は何も言わずに出ていってしまった。
教育係のウォルターを呼びにいったのだろう……。
きっと今日もまた、お説教から始まる。
いや、オレは諦めない!
まだ少しでも光が見えるならソレを全力で掴みにいく。
………………「姫様、何をなさっているのですか?」
部屋から出て廊下を這いずっているところをメイドに見つかった……。
「いや、これは昨日、歩きすぎて足の裏がボロボロで痛くて歩けないのよ。」
「それは大変です!お医者様をお呼びしますね!」
ダメだ!そんなことしたらウォルターたちにもっと怒られる!
「まて!コレは自業自得で起きたことだから医者の手を煩わせるのは良くないと思うんだよ。だから呼ばなくて良いよ!キミも仕事に戻ってくれ。」
「な、そんな姫様が他人を気遣うなんて……あっいえ、すみません今のはそういう意味ではないんです!」
「大丈夫、わかってるよ。
前までのオレ、じゃなくて私は意地悪だったろ?もう心入れ替えたんだよ。だからさぁお行きなさい。仕事に戻ってください。」
「はい、でも大変そうですし、お召し物が汚れてしまうので私が背負わせていただきます!」
ほほう、そうなるかっ!
放っておいて欲しいのにそうはいかない。
オレは今、姫様だから……
名も知らぬメイドに背負われる形となった。
いやどこかで見た顔だ……そうかルチアーノがきた時に見た顔だ。
しかしこれ、他人に背負われるなんて初めての経験すぎて恥ずかしさで頭がフットーしそうだよおっっ。
「では姫様どちらに向かえばよろしいのですか?」
「え?あぁ……」
(考えてなかった……)
あのまま寝室にいたらウォルターの説教が飛んでくるから逃げ出しただけなので行き先のことなど考えてなかった……
「シャーリーのところへ。」
「え?」
「オ……私に付き合って体調を崩したと聞いたのでお見舞いに行こうかと思いまして。」
「そんな……ご自分も辛いのに侍女を思ってお見舞いに……わかりました。私が責任を持ってお連れいたします。」
そういうとメイドは歩き始めてくれた。
自室の方へ振り返るとウォルターとメイド長が向かっている姿が見えた。
間一髪、危機を回避できたようだ。
しかしこのメイド見た目よりずいぶんと力がある。
オレ一人担いでるとは思えない勢いで歩いてる。
「オレってそんなに軽い?」
「はい!姫様。」
褒めてるつもりなんだろうな……
――――――――
担がれたままシャーリーたち使用人の寝泊まりする部屋に着いた。
名も知らぬメイドはオレを部屋の中の椅子に降ろすと仕事へと戻っていった。
シャーリーは熱でも出たのか頭に濡れタオルのようなものを頭に置いて寝ていたがコチラに気づいて起きた。
「……姫様?……なぜここへ?」
「起きなくて良いよ。部屋にいたらウォルターの説教確定状態だったから逃げてきただけだし。」
「そういうわけには行きません……」
無理矢理に身体を起こそうとするシャーリーの両肩を押して、また寝かせる。
「寝てろ。命令だ。」
「……はい。ありがとうございます。」
「悪かったな、付き合わせて……」
「そんな事ないですよ。私は姫様の侍女です!どこへでも着いていきますよ。」
ここまで忠誠心を持つことも持たれたこともない、そんな自分には眩しすぎる笑顔だ。
シャーリーの寝るベッドの
「オレは本物の姫様じゃないのに?」
「本物とか偽物とか私には関係ないです。ちょっとだけ同情はしますけど……」
「同情……あぁ確かに、訳もわからず、いきなり地下牢に閉じ込められた姫様は可哀想だよな。」
好き勝手やって許される環境で生まれ育った姫様がある日いきなり地下牢生活しなきゃいけなくなるなんて……考えてなかったなアイツの辛さ。
「姫様もですよ?
元々の姫様のことは分からないですけど、ある日いきなりお姫様として生活するなんて大変だと思います。
それに地下牢のあの人と入れ替わりってことは元は男性なんですよね?」
「元っつーか今でも一応男のつもりなんだけどな。」
「それは無理ですよ。そんなに可愛いのに。」
「嬉しくねぇよ、人の顔だし。」
シャーリーは笑ってる。
それを見てオレも笑う。
「本当はもっと背高くて強くて男らしかったんだけどな。」
「地下でちょっとだけ見ました。あの姿なら今の姫様の口調に納得できます!今の姿でその口調はちょっとアレですけど……」
「それなー。もうずっとこうやって生きてきたから治せないんだよなぁ……」
自分でも多少注意はしているがガニ股と喋りは直せそうもないんだよな。
「……社交界までに直すのは無理ですよね?」
「……社交界ってみんな言うけど、なんなの?」
「えぇ?!社交界は社交界ですよ!!」
ガバッ!とシャーリーが急に起き上がった。
そんなに驚かれるとは思わなかった。
「単語としては知ってんだけどオレのいた世界ではもう存在しない文化じゃないかな……あったのかもしれんけど文化レベルが違いすぎて分からんわ。」
実際元いた世界の古い時代の式典?みたいなイメージしかない。
ドレスやらタキシード?を着た偉そうな金持ちたちがオホホとかウフフとか言ってるイメージだ。
(いけすかねぇ。)
けど残念ながら今のオレのガワはそっち側なんだ。
その恩恵を常に受けてる……
「オレのいた世界?」
……あぁそうか、それは言ってなかったか。
言ってもいいかもな。隠す必要も別にないし。
コンコン!
「シャーリー、姫様が来ていますね?開けますよ!」
メイド長が来た。
「おーけーわかった!!観念するよ……シャーリー、悪かったな邪魔したよ。ゆっくり休んでくれ。」
「はい。姫様も。」
ガチャッ!
「姫様、いくら侍女とはいえ使用人の部屋に姫様が入るなんて貴族としていかがなものかと!」
「わかったわかった。」
「ふぅ……ウォルターさんの
「残念だなメイド長!姫様は動けないぜ。筋肉痛が酷いからな!」
「…………」
メイド長は黙った。
もしこのまま、ここでお説教を始めたらシャーリーに迷惑をかけるな……なんて思っていたら
「シュミッーーーット!」と叫んだ。
まさか……この城でシュミットと呼ばれる人間はただ一人……
ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!
恐竜のような足音が聞こえる。
「はい、メイド長。何か御用でしょうか?」
2メートルをゆうに超える大男が現れた。
「姫様は筋肉痛で動けないのでお部屋まで運んであげなさい。」
「はい。失礼します。」
……簡単に持ち上げられる。
今はこの身体が憎い……楽々運ばれる屈辱と、もし今この瞬間にこいつが裏切ってバックブリーカーを仕掛けられたら対処できるのかという恐怖が襲ってくる。
「これが本当のお姫様抱っこか……」
笑えないな。
――――――
部屋に戻ると青筋を立てたウォルターが椅子に座っていた。
「姫様、座ってもらえますか?」
「……はい。」
引き摺るように移動し椅子に座る。
「では、社交界についての説明を致します。」
「よろしくお願いします。」
観念し頭を下げる。
「社交界まであと三日しかありませんので今まで以上に厳しく指導いたしますので、そのつもりでお願いしますよ。」
「え?!三日後?!」
「……前からずっとお伝えしてるはずですが何を聞いていたんでしょう……。
ほとんど別のこと考えて無視してました。
とは言えないな。
「グランツ王国から第二王子のサミュエル様もいらっしゃるんですから……」
「はい………………王子?」
王子?王子……王子?
いや自分が姫様なんだから王子もいるか。
「サミュエル様とは幼少期はよくお会いになられてましたし楽しみでしょう?だからこそキチンと淑女としての…………」
幼少期……姫様は王子と知り合いなのか?
ちっ、何も知らなければ楽なのに。
(地下牢に聞きに行くしかないな……。)
使用人が昼食を運んできてもお勉強(説教)は止まらなかった。
終わった頃には陽が傾きかけていた。
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