第11話 北部交易路〜実戦編

 真夜中の暗闇の中、走ったことのある人はどのくらいいるのだろう。

 

 なにも見えず走るのはとても危険だ。

 ほとんどの人はそんな経験がないと思う。


 オレはある。

 

 そんなこと、なんの自慢にもならないのはわかっ――。

 ガッ!……ズザーっ!!!


 めっちゃ転んだ!!超擦った!痛過ぎる!

 

 頭と顔を地面に打たなかったから良かったけどもし打ってたら泣いてたかもしれない。

 足元の見えない石につまずいた。


 服はボロボロだしめっちゃ汚れたからお説教が確定して嫌な気持ちになる。

 (このまま寝てようかな。)

 

「え?!何してんだ、お前こんなところで……?」


 ヒューー!!

 思わず口笛を吹く。


 地面から見上げると目の前に荒くれだった雰囲気の男が立っている。

 間違いなく盗賊団の一人だ。


 つまり、盗賊オジサン一号。

 周りに他の仲間がいないのは多分、オレ達を囲おうとでもしたからだろう。


 (数で有利なら囲むのが定石だよな。)


 囲まれる側しか経験ないけど……。


「あれ?お前そのカッコ、もしかして姫さ……」

 

「ご愁傷様!!」


 ドンッ!!!!


 起き上がりざまにみぞおちへ右ストレートをブチこんでやった。

 この体になって五日ほど経ったが元の体との違いにようやく慣れてきたようだ。

 

「いってぇ……。」


「あれ?まだ意識あるのか……?」


 体重がない分スピードは出るけど威力が落ちているのだろう。

 完全にクリーンヒットしたはずが、まだ意識があるようだ。


「もっかい殴るからさ、寝ててもらえる?」


「やめ……て…………」


 ボゴンッ!


 よし!次いこう。


 ――――――――


 ありがたいことに盗賊団の連中は風呂も洗濯もしてないようで追跡が容易だった。


 というかそれ以上にコイツらの囲い方が律儀すぎるので「この辺かな?」ってところにほぼいてくれる。


 しかもみんなバラバラになっていて各個撃破が容易だった。

 正直失敗したいとしか思えないんだけど


「なぁアンタら、もしかして襲うの慣れてない?」


「なんなんだよ……お前……」


 腕の中で顔を赤くしている盗賊オジサン六号に尋ねるも答えは返ってこない……。

 

「可愛い女の子にチョークかけられて嬉しい?」


「かっ…………」

 …………

 

 これ以上締めると本当に落ちるので腕を外す。


「かはっ……うぇっ……はあっはぁ……」


「今んとこアンタ除いて五人ボコったけど後、何人いるの?」


 と聞いたところでオジサンはまだ呼吸が戻らないようだ。


「返事しなくていいから聞いてくれる?

 見た目でわかると思うけどオレがお前らの狙ってる姫様ね。

 んで、あっちで待機してるのはオレの師匠、

 つまりオレより強いよ。で、もう一人の侍女を連れてんだけどアイツは汚れ仕事専門。」


「……うそだ、そんなの聞いてねぇ。」


「信じなくていいけど、ここでオレに喋るかアッチでか、選べるのは今だけだよ?五、四、三、」


「まてっ!…………………俺を入れて六人、それで全部だ。」


「じゃあ、あとは御者のオッサンだけ?」


「……あぁ、そうだよ!クソ、こんなやべぇヤツらならはじめに言っとけってんだ!あのクソ野郎が!!」


「御者のオッサンへの合図は?あんだろ、仕事が終わったことを報告するための合図が。」


「あぁ?…………はぁ……ちっ!あるよ、たいまつに火つけてアッチの方へ振るだけだよ。」


 と盗賊オジサン六号は指を指した。


「助かったよ。」

 

 座り込む盗賊オジサンの後ろに回り込み、

 腕を首に回しチョークスリーパーの体勢になる。


 (しかし、我ながらシャーリーが汚れ仕事専門は笑えるな……)


「なっ?!やめろ!おまっ……!」


 バタバタと暴れ出した。


「無理無理、外れないよ…………っと、よし終わった、終わった!」


 荷台のところに戻ると一人知らない奴が血を流して倒れていた。

 

 出血量からみるに多分、死んでる。

 

 グレゴリーに斬られたのだろう。

 命のやり取りって、こえぇぇ。


「ちっ!つかさっきのアイツ嘘つきやがったのか……」


 (敵の言うこと信じるとかオレも甘いな。)


 どうやら実際は七人いたらしい。


「姫様!?お怪我はないですか?!」


 シャーリーが荷台から出てきて飛びついてきた。


 (普通、逆だよな。)


 侍女って、なんだろ?


「……えっと、無事ですか?」


 グレゴリーは気まずそうにしている。

 なんて呼ぶか悩んでいるのだろう。


「こっちは六人やってきた。聞くところによると、たいまつを向こうに向けて振れば御者のオッサンがくるらしい。」


「じゃあ、あの人捕まえたら終わりですね!」


「そういうこと、オレが倒した奴は多分全員生きてるから捕まえたいんだけど……縄とかないよな?」


 と聞くと二人とも首を振った。


「じゃあオッサンが多分持ってくるからそれ使うか。」


 たぶん、足りないけど。


「……その、たいまつはどうします?」


「レオン。オレのことを姫様って呼びたくないならさ、レオンって呼べよ。それが本名だから。」


「レオン……私は姫様のほうがしっくり来ます!」


 シャーリーには言ってない。


「レオン……いえ、それは……」


「まぁ好きに呼んでよ。なんて呼ばれてもオレはオレだから気にしないし。」


 そういってさっき倒した相手から奪った、たいまつに焚き火から火を移し振った。


「なぁ、馬車の後ろに隠れようぜ。」


「……そうですね、なるべく近寄らせたいですし。」


「ひぃぃっ、ここ死体があります……。」


「シャーリーは荷台に乗ってていいよ。」



 

 そんなことを話して少しすると馬に乗った御者が現れた。


「おい!どこにいるんだ?!ちゃんと殺さず捕まえたんだろうな?!」


 偉そうに叫んでやがる。

 自然と口角があがる。

 

 サプライズってする側が楽しいだけだよな。


 ジェスチャーで隣にいるグレゴリーに合図する。


 (おれがこっち、おまえがあっち)


 コクっ!


 (ほんとに伝わったか?)


 事前に打ち合わせしとけばよかったんだけど、グレゴリーは悩んでて、それどころじゃなさそうだったから仕方あるまい。


 御者のオッサンが馬車の荷台に近づいた瞬間二人同時に左右から飛び出しオッサンをゲットした。


「なんだお前ら?!やられたんじゃないのか?!」


「うるせぇ!」


 ドンッ!


 今日だけで七人もぶん殴ったからちょっとだけコツを掴んだ気がする。

 

 あとこの身体、貧弱すぎて拳と腕の関節が痛い。


「あの、強いんですね……?」


「ん?まぁな……残念ながら育ちが良くねぇから慣れちゃってるだけだよ。」


「そうなんですね……。」


「終わりました?!」


 シャーリーが荷台からピョコっと顔だけ出した。

 

 

 犬が助手席から顔出してるみたいで


「可愛いなお前って……。」


「え?!!」


「やべっ!口に出てた?!」


「ふふっ!」


 グレゴリーがやっと笑った。

 かぷかぷと、ではなく普通に笑ってる。


「ふっー!すみません……」


「その暗いモードやめろよ。こっちも萎えてくる。」


 (付いてないけど。)


「うっ、すみません……姫様。」


 やめてねぇし……。

 

 まぁいっか、呼び方も決まったみたいだし。


「まぁいいや、取り急ぎノビてるヤツらをさっさと縛っちゃおう。起きたらめんどいからさ。」


「「はいっ!」」



 ――――


 御者のオッサンの持ってきたロープは大量にあったので全員を問題なく縛れた。


「問題はどうやって運ぶか、だな。」


 正直あんまり考えてなかった。

 というか全く考えてなかった。


「姫様、私が一応、初歩ではありますが連絡魔法を使えるので、それで王都へ応援を頼もうと思います。」


「おぉっ!凄いです!グレゴリーさん魔法使えるんですね!」


「ええ、一応、騎士団員は連絡魔法の習得が必須なので。といってもこれしか使えないですけど……」


「へー、スゲーな、じゃあよろしく頼むわ。」


「はい!」


 そういうとグレゴリーは地面に何か描き始めた。


 シャーリーと二人なんとなしにそれを眺める。


「あれ何描いてるの?」

 とシャーリーに尋ねる。

「?魔法陣ですよ……?」

 と返ってきた。


 魔法陣……


 三十分近くかかって、ようやく書き終えたようだ。


 グレゴリーがなにか呪文のような文言を唱えると魔法陣から白い鳩のようなものが飛び出した。


「ふぅ、これで王都にいる騎士団本隊へ連絡が行きました。明日の朝から昼頃までには応援が来てくれるはずです。」


「おぉありがとうなグレゴリー。」


「いえ!姫様のお役に立てて光栄です。」

 


「えっと、シャーリー…………?」


「はい?」


 

「この世界って魔法あんの?!!!」


 

 オレは無茶苦茶びっくりした。

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