第5話 町のウワサと衛兵のグレゴリー

 昨日は瞬間移動?による驚きとすぐに鎧の男たちに追われたのもあって、あまり町の様子に気が付かなかったが、この町はなんだか臭いし汚い、そして活気がない。

 道行く人々がどこか不安げな表情に見える。


「姫様、姫様、一旦戻って着替えましょう?そのままの格好ですと良くないですよ!」


 シャーリーに言われて気がついたが寝巻きのままだった。

 シェフのやつらとか何も言わなかった……いや、言えなかったのか。


「……まぁいいかめんどくせぇし。」


「ええ?!絶対良くないですよぉ〜。」


 シャーリーを無視して寝巻きのまま城下町を歩くと、町の人々がコチラを見て驚きの表情を浮かべてる。

 寝巻きだから?と最初は思ったがどうやら違う。


「え?アレ、レオノーラ姫様?」

「そんなわけないでしょ、姫様がこの町を歩くなんて……しかもあんな服で?」

「ないない。姫様は派手好きなんだから。」

「姿を見せるのなんて野良猫が馬車の前を横切ったとかで騒ぎになった時以来よ。」

「やーねーまたなにか騒ぎでもおこすのかしら……」

 

 とかいった会話が聞こえてくる。

 聞こえてくるが騒ぎにはなっていない。

 聞こえてくる内容もアレだし。

 一瞬みて話題にして終わり……。

 

 この姫様、マジで人望ないわ。

 普通もっと、囲まれて揉みくちゃになってSPみたいなのが「通して通して」とかやるもんだろ。


 「食欲失せたわ……臭いし汚いし、嫌われてるし。

 自分のせいで嫌われるのは慣れてるんだけどなぁ。」

 

 そんなことを小さく漏らすとようやく声をかけられた。


「姫様、おはようございます、本日はどうなさいました?」


 声をかけてきたのは昨日見た鎧の警備員の一人だ……と思う。

 正直鎧?甲冑の印象が強すぎて定かではない。

 

 そういえばここは王国、じゃなくて公国?らしいので彼らはただの警備員じゃなくて衛兵とか近衛兵とかなんかそういうのなんだろう。

 学がねーから違いがわかんねーけど。


「んーまぁちょっと様子を見に……な。」


「様子を……視察ということですね。姫様にもしもの事があってはならないので付き添いの兵を付けさせてもらってもよろしいでしょうか?」


「えー、そんなんいらねぇよ。自分でなんとかするよ。」


「そんな!もしもの事があったらどうするんですか!侍女の方、貴女も説得してください。」


 と衛兵がシャーリーに頼むが、残念そこはシャーリー。


「姫様の説得は私には無理ですよ……。昨日と今日でわかりました。アナタも諦めたほうが賢いですよ?」


 と即行で断っていた。流石だ。

 

 二人を置いて歩き出すとついて来た。


「わかりました、ならせめて私がお付きさせていただきます。」


「えぇ……まぁいいけど邪魔すんなよ?」


「はい!もちろんです。よろしくお願いします。私はグレゴリーと申します。」


 体格のいい衛兵たちのなかでも一際ガタイがいい。

 新任の体育教師のような元気さと力強さを感じる、爽やかな男だ。


「よろしくな、爽やかな男グレゴリー。」


「はっ!私のような者がレオノーラ様に名前を呼んでいただけるとは恐悦至極であります!」


 と言って姿勢を正すグレゴリー。

 

「マジ姫様業ってチョロいわー。」


「え?!今なんて……」


 (やべっ!また口に出てた。)


 思わず出た独り言に焦って口を隠す。

 グレゴリーはコチラを怪しんで見ている。


「そういえば姫様、ご自分のことオレって…………」


「姫様はどこ見たいとかあるんですかー?」


 シャーリーが空気を読まずに入って来てくれた。


 (あぶね、助かった……)

 

「あーうん、なんか思ったより綺麗じゃないから見て回るのも微妙だなって……。つーかさ、なんかスゲー市民、暗くない?なんかあったの?グレゴリーって衛兵?なんだろなんか知ってる?」


 と言ってから気がついたけど、この不況っぽい原因が自分だったり国王である、この姫様の父親だったらどうしたらいいんだろう。

 あり得る話だから困る。


「市民が暗い……活気がない原因ですか。」


 グレゴリーは顎に手を当てて考えてる。

 その隣で同じポーズをとって考えてるフリをしてるシャーリー。

 お前こっちは気づいてるぞ。


 町中を目的なくプラプラ見て回ってると、ようやく考えがまとまったのかグレゴリーが口を開いた。


「あの姫様、……いや……やっぱりコレは噂の類いでしかないのでやめておきます。」


「途中で止めると気になるから、とりあえず聞かせてくれ。」


 とグレゴリーに話を促すと「あくまで私見ですけど……」と前置きして話し始めた。


 

「最近この公国の領土内で、人攫ひとさらいが多発してるのはご存知ですよね、その被害がここ、王都のすぐ近くの地域まで波及してるらしく……おそらくそれによる不安や恐れのようなものが蔓延まんえんしているのかもしれません。」


「ひとさらい……。」


「はい、人攫いです。幸い王都、城下町にはその被害が出たという報告は上がってません。」


 思ってたよりもヘビーな話だ……。

 現代社会でそんなこと……。

 と思ったが海外のニュースとかで見たことあったわ。

 つーかここがまさに海外だわ。


「私がお城に来る前も言われました!王都は人が多いから人攫いにあうかもしれないから気をつけろって!」


「そうなのか、つまりシャーリーの出身地では直接的な被害が出てないって感じか?」


「はい、私が知る限り、誰が被害にあったとかは聞いてないですね。」


「シャーリーさん、その出身地ってどちらですか?」


「南の方に行った小さな村です。海がすぐ近くにあって魚が美味しいんですよ!」

 

「つまり、ここ王都より南部にはまだ被害が直接的には及んでない。って事だな……そうやって考えていけばなんとなく見えて来そうな気もするが……警察は何やってんだ?」


「「警察?」」


 ???


「いや、警察は警察だろ。犯罪者を取り締まる治安維持とかする機関だよ。え?まさかいないのか?!」


「一応……我々兵士や市民の有志が自警団を作ってこの町の平和を守っていますが……その、警察というのは初めて聞きました。」


「私もです……。」


「じゃあ犯罪の捜査とか誰がやんだよ?!」

 

 (どーなってんだこの国は!警察がいない国とかあるのか?まさか……え?異世界??)

 

 グレゴリーもシャーリーを見ると警察という単語に全くピンと来ていないようだ。

 

 とりあえずこの世界のことは考えても答えが出ないので後回しにして自警団とやらに話を聞くのが早そうだな。


「よし、じゃあその自警団の所に案内してくれ。」


 立ち止まってグレゴリーにそう告げる。


「ええ?!アイツらは自警団といっても、こう、ガラの悪い下級市民の奴らですよ?そんな所に姫様を連れていくわけには行きません!」


「そーですよ!グレゴリーさんの言うとおりです!そんな格好でそんな場所行ったら大変ですよ!せめて着替えましょう!」


「下級市民ってお前……」


 (今どきそんな階級制度……ある国にはあるのか?……くそっ!ちゃんと社会科の勉強しとくべきだった!)


 二人の目線が強い意志をこちらに向けてきている。

 どんだけ着替えさせたいんだコイツら。

 …………

 

「……はぁ、わかったよ。着替えに帰る。だからグレゴリー、お前はその自警団の奴らに話つけてリーダーか代表の奴を城へ連れてきてくれ。話が聞きたいんだ。」


「はい。……え?本気ですか?」


「オレはいつだって本気だよ。頼むよ。」


 と言ってオレはグレゴリーの肩を叩く、するとグレゴリーはチワワかなんか小型犬のように震えると、


「うおー!やる気出ました!私、グレゴリー姫様のためにも絶対に自警団の奴らを城へ連れて行きます!!」


 と言って走って行った。


 肩叩いただけなのにコレだけ喜ばれるとかマジ姫様チョロいわ。

 いや、あのグレゴリーとかいう男の王族への忠誠心がおかしいだけか?

 


「よし!シャーリー、着替えに帰るか。」


「はい!」


 この後、城に帰ると怒りに肩を震わせたウォルターが待っていて、ほとんど息継ぎせず30分くらい説教をくれたことは、ここに記しておく。


――――地下牢――――



  

シクシクシクシク……うえーーん。


「うるせーぞ!カマ野郎!!」

 

 ドンッ!!


 壁を殴る音が地下牢に響く。

 

「ひっ!?……やめてよ!!」


「あ?なんだテメェ?!」


「そのドンッ!てやるやつやめてって言ってんのよ!」


「おーおー泣き虫のカマ野郎が何言っても怖くねぇぞ!!オォン!!?」


 ドンッ!ドンッ!


「やめなさいよ!!!!」


 ドゴンッッ!!!


 レオンの身体に入ったレオノーラは思い切り壁を殴ると物凄い音と衝撃が走った。 


「うわぁっ!!?」


 レオノーラ自身も驚く。


「うおっ?!…………悪かったよ、アンタ強いんだな……」


 隣室の囚人はコレ以来少しおとなしくなったらしい。

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