第4話 姫様モーニング
姫様の朝は早い。
「姫様、朝ですよ。」
「んー、」
「姫様、起きてください。朝ですよ。」
「あー、起きてるよ。」
「ふう……ダメね、シャーリー、ウォルターさんを呼んできてくれる?」
「はい!メイド長!ウォルターさんですね!わかりました。」
トコトコッ!シャーリーの走る音がした。
姫様の朝は早い。
ぐぅ…………!?
「姫様!!朝ですよー!!!起きてください!!!」
ウォルターと呼ばれた爺さんが朝から吠えている。
「うるせぇ……。」
「?なんですか?聞こえないですよ?それより起きてください!朝ですよ!あーさーでーすーよー!!」
ウォルターはオレ(姫)の教育係らしい。
「うー……姫なんだから、もっと寝かせろや……」
眠たい目を擦り身体を起こすとウォルターとシャーリーとあとなんかメイド長的な人がいた。
ふっ、朝から人に囲まれてるのってなんか笑えるな。
「言葉遣い!昨日は大目にみましたが今日からは厳しくしますよ!せっかく心入れ替えたのならまずは言葉遣いから!そして、もっと国の重要人物として………」
教育係という名のお説教係は朝からアクセル全開らしい。
朝からお説教なんか聞いてられるか。
ベッドから身体を起こす。
ウォルターは自分の力で起こしたとでも思ったのか自信ありげな顔をしている。
その横を通り過ぎ扉を開けクラウチングスタートの姿勢をとる。
「シャーリー!!ついてこい!」
このうるせぇジジイから離脱する!!」
「えぇ?!はいっ!!」
二人して走りだす。身体が小さくなった分、軽くもなったので前よりスピードが出てる。
……気がする。
「ちょっと!まだ話は………………」後方からそんな声が聞こえた。
朝の姫様は速いのだ。
――――――
「はぁはぁ……」
寝起きっから全力で走ったので気持ち悪い。
しかもこの身体、相当運動していない様で既に筋肉痛がひどい。
これは早急になにがしかのトレーニングをする必要があるな。
ふぅっ…………
オエェェッ!…………胃液が出た。
「ひいぃ!姫様どうなさいました?もしかしてお病気が……!?」
「いや、胃液が逆流しただけだよ。」
シャーリーはポカンとしている。
この国では胃液が逆流するのは珍しいのか?
「はー……吐いたらちょっとスッキリしたわ。メシ食いてぇな。」
「今、吐いたのに?!……えっとすみません!朝食の準備なら済んでますよ!!」
「え?どこにあんの??」
と尋ねるとシャーリーは今来た方角を指差す。
「…………え?」
「姫様の要望通り毎日、朝食は御寝室に運び込まれてます!」
「ジジイの待ってる寝室に?」
「ジジ……え?……はい……ウォルターさま、待ってますかね?」
「待ってるだろうな…………ちくしょう、外に食いにいくにも金もねぇし……。」
金はウォルターに管理されてんだよな、言えば出してくれるとか言ってたけど。
「あっ!!そうだ!私ちょっと厨房に行って何か残ってないか聞いてきますね?」
シャーリーはそういうとすぐにトコトコと走り始めた。
(厨房か……見てみたい!けどその前にトイレ行きたい……)
「シャーリー!待って!その前にトイレ行きたい!」
「え?はい、わかりました!」
そう言ってまたトコトコし始める。
「……待って……トイレの場所教えて!」
「ええ?!なんで知らないんですか!?」
戻ってきたシャーリーに連れられてバスルームへ行きそれから一緒に厨房へ向かった。
トイレは嫌いだ。
大事な相棒を思い出すから……。チクショウ!オレは男だ!!
手洗いの鏡に映るオレは紛いもなく姫様だった。チクショウ!オレは可愛い。
――――――
「うわっ!マジでお城の厨房じゃん!すげー!!」
朝食と昼食の間にひと休憩、とでも言ったところなのか厨房には誰もいなかった。
無人の厨房には所狭しと野菜やら果物やらが置いてある。
包丁なんかの調理道具も数え切れないほどだ。
そして、とにかく広い!
「何に使うかわかんねー道具が山ほどあるぞ?!
オラ、ワクワクしてくっぞ!」
楽しくなって辺りを見ているとシャーリーが、
「お城の厨房は初めてですか?」
と聞いてきた。
その真剣な眼差しが刺さる。
(コイツもしかして、オレのことを怪しんでるか……?)
ポンコツっぽいのに実は鋭いなんてのは古典的だが確かによく聞く話だ。
さっきのバスルームの件もある。
まさか面白さ重視で選んだ侍女が…………。ゴクリ。
緊張から生唾を飲む。
「姫様って……もしかして、」
(やっぱコイツ、オレが入れ替わった偽物だって気がついてる?!)
「嫌いな食べ物とかあります?」
?!!
「嫌いな……食べ物……?」
「はい、私、実はピーマンが苦手で食べられないんですぅ……。」
「いや、まぁオレはなんでも食えるよ。昔は選べる余裕なかったし。」
「えぇ?!姫様なのにそんな時期が……?」
お袋が逮捕されて、保護施設に入れられるまでは本当になんでも食ってた記憶がある。
つーか、もうシャーリーがなんか怪しんでても気にしないでいいや。
こいつはちゃんとポンコツ面白メイドだ。
「こら!お前らここで何を……って姫様?」
(やっべ、戻ってきた!隠れなきゃ!ってオレ今、姫様なんだから隠れなくていいじゃん?)
シェフ的な奴らが帰ってきた。
その手には紙袋が抱えられているのでおそらく休憩ではなく買い出しだったのだろう。
「その、姫様、朝食に何か問題でもありましたでしょうか……?」
「あ?いや、別に何もないよ。」
(つーか食えてねぇ……申し訳ない。)
シェフ長的な雰囲気の男が恐る恐る聞いてきた。
そうか、何か不備があって怒りに来たと勘違いしてるのか……。
姫様ともなるとちょっと動くだけで周りへの影響がデカいんだな……。
あんま好き勝手動くのも悪いか……。
いやオレが好きでこうなったんじゃねーし、周りの事とか考えて小さくしてるなんて俺らしくねぇじゃん。
あやうく姫様という役割に俺自身が侵食されるところだった。
「そうですか?なら良かったです。……でしたら、いったいどのような事情でこんな場所まで……?」
「いやー……のっぴきならない、やんごとなき事情で朝食があんま食えなくてさ、なんか余ってねぇかなって探しに来たんだよ。」
「え?!姫様が自ら……??」
若そうなシェフたちがざわめき立つ。
もう慣れたけどホントこの姫様の印象って……。
いや、姫様は普通、厨房へ食いもん探しに来ないのか?
オレの姫様に関する知識が無さすぎる。
「こら、お前らはいいからさっさと仕事しろ!」
シェフ長に若者たちが怒られ仕事に戻るのを目の前あったリンゴを齧りながらなんとなく見つめる。
紙袋からいくつか食材を出していくシェフたちをみて疑問が浮かんだので聞いてみた。
「それってさ、下の町で買ってくるの?」
「え?はい。城下町で一通り揃いますよ。」
城下町か、昨日は警備員たちに追われてじっくり見てる余裕なかったからな。
どうせ城にいてもウォルターに見つかったらめんどくさそうだし行ってみるか。
「よし!シャーリー、城下町行ってみっか!!」
「ええ?!!姫様それは危ないですよ!」
シャーリーは嫌がっているが一度決めたら善は急げだ。
いくつかの果物を勝手に持って城下町に向かうことにする。
「お気をつけて。」
なんてシェフたちが言ってるけど城下町に気をつけるようなことなんかあったか??
厨房を出て少し歩き出してから気づいた。
「で?城下町ってどうやっていくんだ?」
厨房と自室の位置関係すらよく分かってなかった自分にはそもそも、この城からの出方がよくわからない。
「シャーリー、城下町まで案内して!」
「えー?城下町の案内ですか?私もあんまり詳しくないですよ……。」
「いや違うよ城下町
「???………………はい。」
シャーリーは
いやーしかしコイツを侍女にして正解だったな。
昨日の仕事のサボり方でなんとなくわかっていたがシャーリーは余り物事を考えないのだろう。
悩まないとか決断が早いとかじゃなく考えることがめんどくさいタイプだ。
似たような奴は地元に何人もいた。
「無理にお嬢様のフリしなくても疑われないのはありがたいぜ。」
思わず口をついた。
……多分、今の発言は聞こえているのにシャーリーは特に気にしてないようだ。
ホントにいい侍女だよ。おれにとっては。
――――地下牢――――
「何よコレ!こんなモノ人間の食べるモノじゃないわ!もっといいもの持ってきなさいよ!」
「うるさい!黙って食えこの犯罪者!!」
看守が怒鳴りつける。
「嫌よ気持ち悪い!!こんなもの食べるくらいなら私ここで飢えてやるわ!そしたらこの国にどれだけの損失が出るかアナタ如きに理解できるかしら?!」
「あーそうかい好きにしろ!……気持ち悪いやつめ!」
「アンタ!顔覚えたからね!私が元に戻ったら最初にクビにしてやるんだから!一族郎党この国から追い出してやる!」
「はっ!笑えるよ。お前になんの権限があるんだか。」
「キィーーーッッッ!!!」
ゴンッ!!!
「ひぃっ!!ごめんなさい、騒がしくして、ごめんなさい!!」
…………ぱくっ……………ずずぅ………
「もうやだ、何なのよコレ……うぇっ……不味い……。」
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