第4話 根暗少女、國海美咲の第一歩
学校が始まってから1週間が経った。最初の何日かは午前授業だったが、今週から6時間の授業が始まる。俺の体が保たなくなる…!
あれから部活はほぼ毎日のように活動している。もちろん毎日遊んでいるわけではない。もう1人の部員を勧誘しているのだ。帰宅部の部員は未だに4人のままで、このままだと帰宅部は廃部となってしまう。廃部はなるべく避けたいところ…。渚先輩からは「来週中に部員見つからなかったら廃部になるからね〜」と伝えられている。1週間勧誘して誰も来ないならもう無理ゲーだろ…。
今日もいつものように放課後、帰宅部のみんなで勧誘をする。帰りのHRが終わり、俺たちは学校中を歩き回り、すれ違う人みんなに声を掛ける。
「あ、あの〜…。もももも、もし良かったら……」
「無理」
俺の場合こんな感じでいなされる。陰キャの俺にとってこういう勧誘は不向きだ! ただ真昼(汚い人)の場合は…。
「もし良かったら…帰宅部入りません?」
「ヒィッ!! ごめんなさいぃぃ!!」
といった感じで財布を置いて逃げられるという。この人は基本、人に話しかけるときは鋭い目つきと低い声。そのせいで相手は威圧感を感じてしまう事が多い。裏では「恐喝番長」と呼ばれているとか…? 後で会ったらそう呼んであげよっかな。
そして、渚先輩の場合は…。
「ねね! 帰宅部入らな〜い? 楽しいことできるよ〜。ババ抜きとか神経衰弱とか大富豪とか!」
「……!」
グイグイ来すぎて相手がついていけなくなる。ちなみに3年の先輩はなんか忙しいらしく、勧誘をしていないらしい。何やってるんだろう…生徒会とか?
今思うと俺ら3人とも、勧誘は向いていないのかもしれない。でも今日も勧誘をする。なぜなら…渚先輩からご褒美を貰えるからだッ!!
「ねぇー巧くん! …新入部員1人でも勧誘できたら…ご褒美あげるよ〜」
「ごっ、ご褒美? それはなんですか…?」
「ヒ・ミ・ツ!!」
こんな感じで言われたら…勧誘するしかないだろう!! なにかちょっとえっちぃご褒美かもしれん…。たぎるぜ…!
1年の教室がある2階の廊下をウロウロする。ほぼ毎日やっているがやはり声を掛けるには勇気がいる。だから10分に1人くらいのペースで勧誘をしている。帰りのHRから30分も経てば人通りも減っていき、5分に1人すれ違うかどうかだ。
「ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美……」
こんな言葉を呪文のようにボソボソ呟きながら廊下を歩く。気づけば頭の中はご褒美だらけ。しかもえっちぃやつ。
時間的にもあと1人勧誘したら、帰ろう。そう思いながら廊下を歩き続ける。少し俯きながら、曲がり角を曲がろうとした瞬間、誰かと衝突してしまう。俺は腹を少しぶつけたくらいで済んだが、ぶつかってしまった相手は尻餅をついてしまった。
「あああ! すいません! 大丈夫ですか〜!!」
慌てながら少し震えた声で声をかける。やらかした! 相手がヤンキーだったらどうしよおおお!! いや違う違う! 相手は尻もちついてんだぞ……ここは手を差し伸べなきゃ…!
「俺が…前を見ていなかったから〜…!」
「だ、大丈夫……です」
ゆっくりと手を差し伸べた先にいる相手。それは思いもよらなかった…。まさかの女子。その子は俺の差し伸べた右手を掴み、ゆっくりと立ち上がる。はぁ! 女子の手と俺の手が……!
「す、すいません! 私も前見てなくて……!」
「お、俺の方こそぉ…!」
小さな身体にグリーンアッシュの長い三つ編みツインテール。そしてスクエア型の赤いメガネをかけている。彼女はごめんなさいと謝りながら、俺の横を通り過ぎようとする。…そうだ、勧誘! 忘れてた!
「あ、あのっ!!」
「……は、はい…?」
「部活…入りません…?」
「ぶ、かつ……」
俺の声に驚き、少し怯えた様子で彼女は振り返る。
「……帰宅部だけど…」
「こっ、ここ最近…ずっとっ…勧誘してますよね」
少し震えながら小さな声で言葉を返す。斜め下を俯きながら、腹の方で手をいじる。
「お断り…します」
「…どうしても…?」
コクリと頷き、またごめんなさいと言って謝る。なんか俺が悪いみたいになっちゃった…。まぁ俺が悪いのか。
「…気になったらさ…部室来てよ。よっ4階の端っこの方にあるから…!」
「なんで…わ、私なんかを誘うんです……か?」
「……なんで?」
彼女は俺の方にゆっくり近づき、俺の目の前まで来る。俺の胸の真ん前まで頭を近づけるので、思わず恥ずかしい声を出しかける。この子もいいニオイする…。ていうか近すぎだよ! ドキドキしちゃうじゃんか!
「わ、私クラスだと人気無いっていうか…友達も誰もいないから……まぁ中学の頃もだけど…」
「……」
「それに私みたいな人がいても邪魔なだけです! 魅力も何も無いのに……!」
今にも泣きそうな声で俺に言葉を投げつける。むやみやたらに投げつける言葉は俺にめっちゃ刺さる。彼女は俺と同じだ。見た目的に同じような陰のオーラを感じる。それに友達もいない。魅力がない。そしてネガティブ思考。まるで俺と同じではないか…。
「俺と…同じだ」
「そんな…あなたは…私とは違います……。私より魅力あるし……」
「…俺もさ、結構ネガティブ思考だから、自分に魅力ないとか…思っちゃうよ? …でも、帰宅部入ってからそう感じなくなって…」
「そ、そう…なんですか…?」
「うん。俺、陰キャだけどさっ……みんなと仲良くやってるし…。帰宅部(ココ)なら自分を変えられるって思える…!」
彼女は顔を上げ、互いに初めて目を合わせる。彼女の頬にツーっと流れる雫は彼女の右手の甲に落ちる。メガネを外し、両手で涙を拭い、メガネを掛け直す。
「こんな私ですけど…入っても…」
「うん。全然構わないよ…! むしろ……大、歓迎……!」
少しひきつった笑顔でグッドサインを出す。彼女はさっきとは一変した笑みで小さくグッドサインをし返す。
俺たちは一緒に部室まで向かう。時刻は午後5時。もう2人とも部室に戻っている時間。階段を登っているときの彼女の笑顔は…忘れられないだろう。
部室前まで行き、2人で深呼吸しながら部室のドアをガラガラと開ける。部室には、2人向かい合って座っている荒川姉妹の姿が。俺は無言で彼女の方を指差し、2人に合図する。
「その子は…? まさか〜!!」
「多分そのまさかですわよ、姉さん!」
興奮のあまり、思わず席を立ち上がり、喜ぶ2人。彼女は胸に手を当てながら深呼吸をし、声を出す。
「1年Aクラスの…國海(くにかい)美咲(みさき)ですっ! ……ふつつか者ですが…どうか入部させてください!!」
彼女のすごい勢いの声は部室内に響き渡る。2人は彼女にゆっくり近づき、手を差し伸べる。
「もっちろん! 私が部長の代わりに許可しよう!!」
「全然構いませんわ! むしろ大歓迎です!」
「よっ……よろしく……!」
「はいっ! よ、よろしくお願いします!」
彼女は深くお辞儀したあとに、2人の手を握る。これで部員が5人となり、ギリギリ廃部の危機から免れた。
この日もこの前みたいに放課後は遊び呆けた。ここ何日かは勧誘しかしていなかったからな。なんか國海さん…俺より部活メンバーと馴染んでる気がする…! 同じ女子だからかな?
よくよく考えると、俺以外みんな女子じゃん!! そういえば3年の先輩がいたな…。その先輩が男子のことを祈ろう! 俺1人だけ男っていうのはなんか嫌だ!! 頼むから男の部員をくれぇぇ〜!!!
ーーーつづくーーー
ーーー番外編ーーー
「あっ! 巧くん! ご褒美忘れてた!」
「あっ…そういえば……」
「はい! これ、ご褒美ぃ〜!!」
先輩は俺の右手に何かを握らせる。ぱっと右手を開いてみると…!
「はっ!? また……偽札…!!」
右手に渡されたものはこの前の偽札の1000円と申し訳程度の本物の3円。
俺、この姉妹嫌い!!!
ーーー終わりーーー
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