第3話 先輩、荒川渚の楽しみ

教室のドアが開き、俺はゆっくりと振り返る。そこに立っていたのは小さい女性の姿。


「よっす! あれ、見ない顔が…」


金髪ショートでクリクリした瞳。身長は姉よりも少し小さい、小柄な感じだ。


「姉さん。紹介しますわ、新入部員の高城巧さんです!」

「は、はじめまして…」

「巧くんね! 私、荒川渚(あらかわなぎさ)。真昼の姉だよ〜」


俺は軽く頷く。先輩が俺の隣に座った瞬間、いい香りが漂う…。真昼(あの人)と同じ匂いがする。今思ったが、実際に姉妹で同じ高校に通うってあるんだな。アニメやゲームにしかないのかと思っていた。


「……」

「……」

「…この空気嫌だな〜」


シーンとした空気となり、先輩は手足をジタバタさせながら喚く。陰キャの俺にはこの空気は耐えられん。しかも、自分から会話を始めるなんてのもできないし…。その時、あの人が俺に向かって手招きをする。お互い前のめりになり、顔を近づける。


「巧さん、なにか話してくださいよ!」

「え、俺? 無理無理。…恥ずかしいし……」

「……お金上げますよ」

「はっ!?」


またもや俺を金で釣ろうとする。本当に汚いかも、この人。…俺が金なんかに釣られるわけないだろう? 馬鹿にするなよ!


「せ、先輩の趣味とかぁぁぁ……なんでっすかぁ……」


目も合わせられず、質問をする。気づけばまた金に釣られている。


「趣味? ん〜遊ぶことかな!」

「あ、遊ぶことー…。ゲームとかですかねぇ」

「ゲームなんてしないよ! 外で遊ぶんだよ!!」

「わー外ー」


俺とは真逆のタイプだ! この先輩…もしかして陽キャか。確かにさっきから陽のオーラが漂ってるもんな…。なんか明るい覇気を纏ってるもんこの人…。


「そういえば姉さん、あの先輩は来ないんですか?」

「今日は忙しいから来れないと思うよ〜」

「あの先輩?」

「まだ言ってませんでしたわね。もうひとりの部員のことですわ」


そっか、自分たち入れて4人いるってさっき言ってたな。その先輩は何年生なんだろう…。男かな? ……女がいいかな。


「その人、いい人だよ〜。私のあこがれの先輩!」


先輩ってことは3年生! 3年生もこんな部活に入るんだな…。続けて先輩は話し始める。


「私の楽しみを与えてくれた先輩。先輩が私に帰宅部(ここ)を教えてくれたんだ。部活入ってから毎日が楽しみでさー。部活ない日も部室来ちゃったりしちゃってさ〜!!」


先輩は満面の笑みでそう言う。それほどいい先輩なのか…。早く会ってみたいものだ。それに先輩がそこまで言うのだからそれほど楽しいんだろうな、帰宅部は。


「あ、そうだ! 今日はさ、2人の入部祝いで遊びに行こうよ!」

「ぶ、部活は……?」

「さっき言ったではありませんか。帰宅部は遊ぶ部活ですよ」


2人は荷物を持って、部室を出ようとする。俺も急いで荷物を持ち、一緒に部室を出る。部室を後にし、廊下を歩いてると後ろから肩をトントン触られる。振り返ると、あの人がいた。


「な、なに?」

「さっき言ったお金ですわ」


彼女はポケットからお金を取り出し、俺の右手にギュッと手渡す。そして俺に目で合図しながら、前を歩く。渡されたお金を確認しようと右手を開く。


「はっ!? これっ…偽札っ!!」


彼女が俺に渡したお金。それは100円ショップに売っているお金のおもちゃであった。しかも1005円。この5円なに!?

またしても…やられた……! 汚い、汚すぎる…荒川真昼ッ!!


あの後、3人でゲーセンに行ってクレーンゲームをしたり、ファミレスでご飯を食べたりした。そして互いの連絡先やSNSを交換して別れた。なんかすごい青春している気分だった。中学の頃味わえなかった青春を…。入学早々にこんな体験ができるなんて思いもしなかったし。なんなら中学みたいに、友達もできないで卒業しちゃうんじゃないかなんて考えていたからなんだか不思議な気持ちだ。

あぁ…高校、楽しいかも。


ーーーつづくーーー

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