第5話 生徒会長、松崎葵の帰宅

 4月22日。部員が5人になり、1週間がたった。ほぼ毎日のように活動している俺達だが、1つ。ずっと疑問に思っていることがある。

それは3年の先輩の正体だ。学校が始まって2週間が経ったというのに未だに顔を出しに来ていない。

 放課後、俺たち4人はいつものように部室に集まる。


「今日は何をするんですか?」

「そうだねぇ〜。……ババ抜き?」

「もう飽きましたわ」

「じゃ、じゃあ大富豪…」

「やったって渚先輩が勝つだけ……」


 最近ずっと様々なトランプのゲームをやっているので、もうやる遊びがないのだ。そもそもこの学校にあるゲーム自体が少ない。もうちょっとレパートリーを増やしてもいいのでは? 

 そんな時、何もやらず、退屈な部室にドアをノックする音が聞こえる。3回ノックが聞こえたあと「失礼します」という女性の声と同時に前のドアが開く。ゆっくり開き、声の主の姿がはっきりと見える。真昼と同じくらいの身長。丸目で、綺麗な紫の髪色にポニーテール。ポニーテールを揺らしながら俺たちの近くまで向かってくる。


「渚さん、お久しぶりですね」

「わぁぁ! カイチョー!!」


 渚先輩は思わず立ち上がり、彼女に飛びかかる。まるで子供のようだな。

 でもなんかこの人見たことあるんだよな……。この見た目と声。


「おっと、紹介がまだでしたね。私は3年の松崎(まつざき)葵(あおい)です。知ってると思いますが生徒会長をやっています」

「せっせせせ生徒会長!? あっ」


 先輩の言葉に國海が驚きの声を上げる。恥ずかしかったのか咄嗟に口を塞ぐ。でもなんで生徒会長なんかが帰宅部に? こんなヘンテコな部活に何の用があるというのだ。


「……! 部員が5人揃ったんですね! よ、よかった〜」

「うん、これで今年は安泰だよ!」


 この空間には俺たち帰宅部員の4人と生徒会長しかいない。さっきから2人の会話が所々理解できない。まさかこの生徒会長さんが3年の先輩とか? ……無いか。


「姉さん、このお方が…?」

「そう! 帰宅部の部長!」

「エッ!?!?」


 驚きのあまり、俺は声を上げてしまう。なんと、この生徒会長さんがアノ3年の先輩らしい。なぜ生徒会長あろう者がこんな部活に。やばい……頭が混乱してくる。ただでさえこの部活は謎が多いのに増やされても困る!


「あのぉ……色々聞きたいことがあるんですが……!」

「いいですよ。ところでお名前は?」

「た、高城巧です」


 生徒会長は空いてるもう1つの椅子に座り、俺の質問を聞こうとする。


「会長さんは……なんで帰宅部に?」


 間を開けて、口を動かす。


「私の1つ上の先輩に誘われたんです。もともと、その先輩が作った部活なんですよ。ココ」

「部員の問題とかはどうだったんですの?」

「私が入ったのが1年の時でした。その時は6人いたんですが、その内の3人は3年生で。私が2年になったときには3人しか残っていませんでいた」


 少し悲しそうな顔で質問に答える。机の上に置いた両手はなにか寂しそうに感じた。


「去年は焦りましたよ。部活が無くなるんじゃないかって。でも生徒会長の特権を使いました! …まぁその特権、今年は使えないと言われてしまいましたけど。ま! 終わり良ければ全て良しです」


 さっきの悲しい顔とは変わり、笑顔となる。


「荒川真昼です。つかぬことををお聞きしますが……なぜ帰宅部が発足したんですか?」

「真昼さん、面白いことを聞きますね。……先輩が言うには……」


 会長の一言を、俺達は息を呑んで待つ。


「遊びたいかららしいですよ!」


 なにかちゃんとした理由があるのだろうと少し期待した俺が馬鹿だった。まぁ大体予想はできていたが。

 会長はまた悲しい表情を見せる。少し俯き、手をいじる。


「私、当時その先輩に憧れていたんです。その先輩が作ったこの部活……。憧れの先輩が作った帰宅部を……無くしたくないんです。欲を言えば、永遠に存続してほしい……」

「会長。私、先輩に誘われた時嬉しかったです! 」

「渚さん…」


 なるほど、会長がこの部活にいる理由が分かって何故か安心した。こういう話を聞くと、部活に入ってよかったと思えてくる。最初は強引に入部させられたが……。


「私は来年の3月で卒業になります。1年生の3人は1年だけですがよろしくお願いします! そして渚さんも」

「俺達……陰キャですけど……よろしくです」

「えっ…。私も、陰キャ?」

「國海は俺と同じだから」

「も、もう〜! やめてください」


 國海は少し頬を赤らめながら俺の腹をポコポコと叩く。


「私からもよろしくお願いしますわ」

「はい。それにしても…渚さんと違って……真昼さんスタイルいいですねっ!」

「ちょっと待った! 先輩……? 一言余計です!」

「姉さん、食い過ぎではありませんの〜?」

「う〜る〜さ〜い!!」


 2人からいじられ、ジタバタする渚先輩。このときの会長の瞳は楽しいようでどこか悲しい。いや、寂しいような気がした。

 謎多き部活、帰宅部。いろいろな謎はいつになったら解かれるのか……。それはまだ誰も知らない。俺はこの部活で自分の目標を成し遂げたい。『アニメみたいな青春を謳歌する』ちょっとは前進できてる気がするが、まだまだこれからだ。


ーーーつづくーーー

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