第17話 新米教祖、奇跡を起こす
「何をやっておるのじゃ!!早くお前たちも頭を下げんか!」
銀髪のエルフは俺の前で跪きながら声を荒げる。
「「「「……」」」」
しかし、他のエルフ達は固まったまま銀髪のエルフを見ていた。
これはどういう状況なんだ……。いきなり土下座されても困るんだが!?
「あ、あの……」
「し、失礼したのじゃ!貴様ら!!早くしろ!救世主様がお怒りになるのじゃ!」
「えっ?いや、そうじゃなくて……」
するとリリシアとリエル以外の大勢のエルフ達がしぶしぶ地面に膝を付けて座った。
「お前達も早くせんか!」
「お、おばあ様!どうしていきなりシンヤに向かって跪いてるのよ!」
「そ、そうです!セルシア様、どうされたのですか!?ここ最近様子がおかしいですよ?」
二人の会話に出ていたリリシアのおばあさんはこの銀髪エルフの事みたいだ。
「前から散々言ってたではないか!遂に救世主様がこの村に来訪されたのじゃ!」
「えっ!?ということはこの人間が救世主様?」
リエルは大きく目を開けて、俺の顔をじっと見る。
「やっぱりそうだったのね!シンヤは救世主だったのよ!」
リリシアは嬉しそうに笑顔を浮かべて、そう言った。
「いや、救世主じゃないって!俺はただの人間だよ!それにセルシア様?は俺の事知ってたんですか?」
「わしの特技は占いによる予言なのじゃ。そして三日前に『この村に人間が訪れ、その人間がエルフを救う』との予言が出たのじゃ!」
「は、はぁ……」
俺はいまいち状況を理解できず、首を傾げる。
「リリシア、よくやったのじゃ!まさか救世主様を見つけて村に連れてくるとは……。さすがはわしの孫じゃ!」
「リ、リリシア。これはどういう事?」
「シンヤ!あなたをここに連れて来たかったのはおばあ様に会わせるためよ」
「え?」
「私は納得できません!」
するとリエルが声を荒げた。
「はぁ……まあ詳しいことはまた後で話すわ」
リリシアがため息を吐いてそう言うと俺から視線を外した。
「セルシア様は昔から人間には近づくなと言っていたではありませんか!それなのに人間に頭を下げるなんておかしいです!」
「リエル。救世主様はただの人間ではない」
「ど、どう見ても弱そうな普通の人間ではありませんか!こんな男が救世主様なんて信じられません!」
確かに何の特徴もないモブの男ではあるがそんなはっきり言われると傷つく。
「ならよく見ているのじゃ」
セルシア様が杖を突いて片足だけでゆっくり立ち上がると俺に一歩近づく。
「救世主様。あなた様は神の使いでお間違えないでしょうか?」
「え?まぁ……多分」
俺は別に神の使いなんていう大層な肩書はないが、神様に召喚されてるしこの空気で違うと言えるほど度胸はない。
「救世主様は癒しの力を持っていると持っていると聞きます。いきなりこんなお願いをするのは大変心苦しいのじゃが、この足を直して頂けないでしょうか?」
よく見るとセルシア様の右足はだらりと力なく垂れ下がり、黒い模様が描かれていた。
「なっ!そ、それはシンヤでもさすがに無理よ!それは呪いを――」
「わしはお前に聞いてない。救世主様、どうかわしの足を直してくだされ……」
セルシア様は震えた声でそう言い、頭を下げる。
するとリリシアが急いで俺に駆け寄り、耳打ちをする。
「シンヤ、怪我を治せるだけで十分あなたは救世主よ。私がうまく誤魔化すからとりあえず――」
「すみません、近くで見てもいいですか?」
「シ、シンヤ!?」
「う、うむ!」
俺はしゃがんでセルシア様の右足を見る。
「【
すると目の前に半透明のパネルが表示される。
『状態異常:筋力低下、呪い(大)』
「呪われてるのか……」
「そうじゃ。この森を支配していた竜のせいでな」
正直初めて使う魔法だから効くのかどうかわからない。
だがリカバリア様からもらったスキルを信じるしかない。
「【
するとセルシア様の右足が白く光り始めた。
黒い模様が徐々に薄くなっていき、やがて元の白い肌に戻り、右足が一回り太くなった。
セルシア様は杖を地面に落とし、その場で右足を動かした。
「き、奇跡じゃ……奇跡じゃ!!」
「嘘っ……」
それを見たリリシアは涙を流し、手で口元を押さえる。
「セ、セルシア様の足が戻ったぞ!!」
「本当に救世主様だ!!」
「てことは娘の病気も……」
それを見たエルフ達が歓喜の声を上げる。
「おばあ様!」
リリシアはセルシア様に勢い良く抱き着く。
「リリシア……わしがこうして自分の足で立つのは300年ぶりじゃ……」
セルシア様は涙を流したまま、リリシアの背中を優しく撫でた。
「そ、そんな……まさか本当に救世主様なのか?」
リエルが真っ青な顔をしながら呟く。
「やはりわしらのような亜人でも救ってくださる神様はいたのじゃ!」
セルシア様は涙を流しながらそう言うと俺の前でもう一度跪いた。
「救世主様の主である神様のお名前をお教えください……」
何っ!?これは信者を増やすチャンスなのでは!?
俺は両手を合わせて目を閉じる。
「主であるリカバリア様はどんな種族でも分け隔てなく救いの手を差し伸べるのだ」
「リカバリア様ぁぁぁ!!」
セルシア様は両手を合わせて、そう叫んだ。
『リカバリア教の信者を一人獲得しました』
頭の中に無機質な音声が流れる。
よし!信者ゲットだぜ!
「きゅ、救世主様!」
すると一人のエルフが俺の前に来て跪いた。
「わ、私の娘が病気なのですが、娘を治して欲しいです!そのためなら私はなんでも――」
「待て、まずは女王の治療が先じゃ!予言によると救世主様は女王であるリーエルを救いに村に来たのじゃ!そうじゃな!?」
セルシア様が俺に顔を近づけてそう言った。
こんな綺麗な顔がいきなり近くに来たので思わずドキッとしてしまう。
「え?まぁ……そうですね」
「ちょっと待ってよ!じゃあセリナリーフが無くてもシンヤはお母様の病気を治せたってこと!?」
リリシアはそう言って、鞄からセリナリーフを取り出した。
「当たり前じゃ。救世主様は解呪もできるんじゃぞ?病気の治療なんぞ救世主様にとって朝飯前じゃ」
「あ、あんな危険な思いしたのに……。シンヤ!どうして教えてくれなかったのよ!」
「いや俺の魔法で治せるかどうかなんて分からないだろ!?俺の魔法は決して万能じゃないんだ」
「何を言うんじゃ!救世主様の魔法は万能じゃ。治せぬものなどない!」
おい、勝手なこと言うなよ!
魔法を使ってみないと治せるかどうか分からないだろ!?
「リーエルは今も部屋で苦しんでいる、早く治療しに行くのじゃ。ささ、救世主様こちらへどうぞなのじゃ」
「わ、分かりました……」
セルシア様はそう言うと村の奥へ歩いて行く。
「まさか病気まで治せるなんて知らなかったわ。あとシンヤは熟女好きなのかしら?おばあ様に色目使っちゃって……」
リリシアは目を細くして、横目で俺をじっと見る。
「いや、色目なんか使ってないぞ?」
「ふんっ!」
「お、おい。リリシア!」
歩き出したリリシアを俺は急いで追いかけた。
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