第15話 新米教祖、エルフの村に向かう
セリナリーフを採取してから数日後、俺達は洞窟を離れてリリシアの故郷であるエルフの村に行くことになった。
エルフは人間と魔物を嫌う傾向が強いのでどうなるか少し心配だ。
「準備はできた?」
「ああ」
「ギャ」
「早いわね……って何も持ってないじゃない!」
俺とグリムは完全に手ぶらだった。
洞窟にある物は全部森で手に入るからな。
「まあいいわ、じゃあ行きましょう」
リリシアはそう言って洞窟から出ていき、俺とグリムが後を追う。
洞窟の外に出ると、晴れ渡った空から太陽の光が優しく森全体を照らしていた。
「リリシア、エルフの村にはどのくらいで着くんだ?」
「ここからだと半日歩くわ。適度に休みながら行きましょう」
結構歩くな……。
現代人にとって足元の悪い森の中を半日歩くのはかなりきつい。
「ギャ」
するとグリムが突然走り出し、前方にいた猪のような魔物の頭を縦に切り付けた。
魔物の頭が綺麗に割れて、そこから赤い血が噴水のように吹き出た。
「ギャギャ!」
グリムは嬉しそうに踊りだし、魔物の腹を切って肉を食べ始めた。
前までは二人で協力しながら倒していた魔物も今ではグリム一人で倒せてしまう。
「やっぱり凄いわね……。もし敵だったらと思うと体が震えるわ」
グリムの戦いを見たリリシアは自分の体を抱きながらそう言った。
「やっぱりグリムって強いのか?」
「ゴブリンは群れで行動するの、だから単体だとかなり弱い。でもグリムは深層の魔物であるブラックタイガーをたった一人で軽く倒せたのよ?一度進化しただけであそこまで強くなるなんてね……。複数回進化する魔物もいるらしいからこれからどんな姿になるのか楽しみね」
リリシアは顎に手を当てて、グリムをじっと見る。
「体はゴブリンに比べて大きい。そして額から角が生え、頭は小さくなった。もしかしたらこの調子でどんどん人間に近づいていくかもしれないわね」
リリシアは笑いながらそう言った。
「どうやらゴブリンヒーローっていう種族らしいぞ」
「ゴブリンヒーロー?」
「ああ」
「聞いたことない種族ね。何でシンヤがそんなこと知ってるの?」
「え?ま、まあそういうスキルがあるんだ」
宗教メニューのことを言ってもよかったが、どうせこのパネルは俺以外に見えない。
下手に説明して混乱させるより今は隠しておく方が良いだろう。
「ふ~ん。不思議なスキルね」
リリシアは疑うように目を細めて俺の方を見てきたが、それ以上は聞いてこなかった。
「じゃああの赤い目もゴブリンヒーローの特徴なの?」
「それは違うと思う。ゴブリンだった時から目が赤かったからな」
「それもそうね。でも赤い目のゴブリンなんて珍しいわね」
宗教メニューに書いてあった『変異種』の文字。
多分この赤い目が変異種と表示されている理由だと思う。
今のところ目の色以外に違いがあるのかは分からないが……。
「ああ、そのせいでゴブリンの集落から仲間外れにされてたみたいだ」
「そうだったのね……。でも私はあの赤い目好きよ」
「俺もだよ」
そんな話をしていると目だけでなく、口元を魔物の血で真っ赤にしたグリムが俺の元に駆け寄ってきた。
「ギャ」
「はいはい、【クリーン】」
俺が魔法をかけるとグリムの口元が綺麗になった。
◇
森の中を歩き始めて数時間。
空は茜色に染まり、雲が夕焼けの光を受けて金色に輝いていた。
「結構歩いてきたな……」
俺は森を歩きながらふと呟く。
「ええ、そろそろ着くわ」
「いよいよか……」
「村を出て数日しか経ってないのに何だかすごく久しぶりに感じるわね」
リリシアは周囲を見渡しながらそう言った。
そしてふと足を止め、軽く手を上に伸ばしてそばにあった木優しく撫でる。
「見て」
リリシアが触れている木をよく見ると、木には横に真っ直ぐ引かれた傷が何本もあった。
「それは何だ?」
「子供の頃、身長が伸びるたびに頭の上の高さでこの木に傷を付けたの。まあこの木も成長して今では私の身長以上の高さに傷があるけどね」
傷の高さはリリシアの身長より頭一つ分高い位置にあった。
「私が外に出て遊べるのはこの辺りまでだったわ。今でもあまり外に出してもらえないのよ?」
リリシアは苦笑いしながらそう言った。
この辺りには魔物はほとんどいないし、危険も少ないだろう。
リリシアの親は過保護なんだな……。
「ギャ!!」
そんなことを考えているとグリムが俺の前に立ち、俺に向かって飛んできた何かを剣で弾き返した。
「っ!」
俺は困惑しながらも、グリムが弾いた物を見る。
それは先端に尖った石が付いた矢だった。
「これは……矢か!?」
「くっ!まさかいきなり攻撃するなんて……」
リリシアは俺達の前に出て、大きく息を吸う。
「出てきなさい!いきなり弓を打つなんて何考えてるの!?」
すると木の上から二つの人影が地面に降りてくる。
二人ともリリシアと同じ、髪は綺麗な金髪で耳が尖っていた。
「魔物を連れてる人間が我々の村に入ろうとしていたのだ。弓を打って当然だろ?」
「お前、エルフか!?なぜ魔物と一緒にいるのだ!?」
二人のエルフは俺とグリムを睨みながらそう言った。
まあ当然の反応だな。
いきなり攻撃されるとは思っていないかったが、概ね予想通りだ。
ここからはリリシアが何とかしてくれるらしいが……。
「あなた達、無礼ね。私にそんな口を聞いていいと思ってるの?」
「えっ?」
喧嘩腰のリリシアを見て俺は口を開けたまま固まってしまう。
「もし私に矢が当たってたらお母様にどう説明するつもり?しっかり相手を見てから攻撃しなさい」
「リ、リリシア!村のエルフを挑発して大丈夫なのか?」
俺は小さい声でリリシアに言う。
「いいのよ。それにこれは挑発じゃなくて注意よ」
二人のエルフはリリシアに視線を移した。
「遠くから見ても魔物と人間には変わりない。俺達の敵だ」
「ああ、そのとおり――っ!!お、おい!」
すると一人のエルフの顔が真っ青になり、後ずさりする。
「どうした?」
真っ青になったエルフはもう一人のエルフの質問を無視して跪いた。
「おい!敵を目の前にして何やってんだ!!」
「バカッ!よく見ろ!」
「あ?……っ!」
するともう一人のエルフは弓をその場に落とし、跪いた。
「ようやく気付いたみたいね」
リリシアは腕を組んで、跪いているエルフを見下ろす。
「「も、申し訳ございません!!姫様!!」」
ん?今なんて?
「分かればいいのよ。この二人は私の客人だから手出しは無用よ」
「「分かりました。どうぞお通り下さい」」
すると二人のエルフが素早く立ち上がり道を開けた。
「さあ、行きましょう」
リリシアはそう言って、二人のエルフの間を歩いて行く。
俺は驚きのあまり動けず、しばらくその場に立ち尽くした。
「ひ、姫様!!?」
俺は堂々と歩くリリシアの背中を見ながら、そう叫んだ。
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