第14話 新米教祖、グリムの種族を知る

洞窟に戻ってくる頃には、すでに辺りは暗くなっていた。

グリムがブラックタイガーを綺麗に解体してくれたが、肉が硬くて食べられなかった。


「ギャ!」


しかしグリムはブラックタイガーの硬い生肉をどんどん口の中に入れていく。

グリムは硬い肉でもお構いなしに尖った牙を使って肉を噛んでいた。

進化前なら皿一杯分の肉で満腹だったが、もうすでに皿二杯分を平らげていた。


「体がデカくなった分、食べる量も増えたな」


俺は果物をかじりながら、一心不乱に肉を食べているグリムを見守る。

ふと横に座っているリリシアを見ると、自分の右腕をじっと見つめていた。


「……」


「どうかしたのか?」


「えっ?あー……ちょっと考え事してたわ」


リリシアはそう言って、ぎこちない笑顔を浮かべる。


「考え事?」


「ええ、やっぱりシンヤの魔法は普通じゃないと思ってね……」


「そうかな?」


「無くなった腕をあんな簡単に再生するなんて魔法の限界を超えてるわ。もし使えたとしても相当な魔力量が必要なはずよ」


そうだったのか……。

今まで何度も回復魔法を使っているが、今のところ変な影響はない。


「それを平然と使えるなんて……、シンヤは何者なの?」


「何者って言われてもな……。リカバリア様に召喚された人間、だたそれだけだよ」


魔力量に関しては自分ではよく分からないが、回復スキルを使っても平気なのはリカバリア様に貰った【回復マスター】のおかげなのだろう。


「やっぱり間違いない。シンヤが私達の救世主……」


リリシアは俺の顔をじっと見つめながらそう呟く。


「前にも行ったけど俺は救世主なんかじゃないし、亜人を――」


するとリリシアは俺の右手を両手で優しく握った。


「ねえ、シンヤ。お願いがあるの」


「お願い?」


「私はこれからセリナリーフをエルフの村に届けに行くわ」


「そうか……」


リリシアともこれでお別れか……。

本当はもっと一緒に居たかった、というかリカバリア教に入って欲しかったのだがリリシアには家族もいるし、俺と違って帰る場所もある。

一人減ると寂しくなるな。


「シンヤ、あなたも私と一緒にエルフの村に付いて来て」


「じゃあお別れか――えっ?」


予想外のお願いに俺は口を大きく開けたまま固まってしまう。


「で、でもエルフは人間を嫌ってるんだろ?それなのに俺がエルフの村に行ったら攻撃されるんじゃ……」


「大丈夫よ。それは私がなんとかするわ」


リリシアはそう言って、真っ直ぐ俺の目を見つめてくる。

どうしよう……。でもエルフの村でエルフ達に嫌がらせされたらメンタルブレイクするぞ。


「俺はそれでもいいけど、グリムは大丈夫なのか?もし行くならグリムも一緒じゃないと嫌だぞ」


「もちろんグリムも一緒よ。二人とも安全に村に入れるようにするわ、なんとかする」


「なんとかするって何を根拠に……」


最初は疑っていたが、リリシアの力強い眼差しには絶対の自信があるように感じた。

それにリリシアは嘘を言うような子ではない。


「はぁ、分かったよ。リリシアがそこまで言うなら付いてくよ」


「ありがとう……。シンヤ」


リリシアはほんのり頬を赤く染めながら、そう言った。

彼女の色っぽい表情を見て、俺は不覚にもドキッとしてしまう。

俺達は見つめ合い、時間が止まったかのように感じた。周囲の音が遠のき、心臓の鼓動だけが耳に響く。


リリシアの深い海のように青い瞳は、何かを語りかけているようだった。その視線に引き込まれ、思わず息を呑む。


「ギャ!」


「「うわっ!」」


横から声がしたので俺達は同時に横を見ると、口と手を血だらけにしたグリムがすぐ横に立っていた。


「グ、グリムか。脅かすなよ……」


後ろを見ると空になった皿が三つ置いてあり、ブラックタイガーは骨だけになっていた。


「すごい食欲だな。全部食べたのか?」


「ギャ!」


グリムは小さく頷くと、俺に向かって歯を見せてきた。


「何だ?綺麗にして欲しいのか?」


「ギャ」


「今日はやけに素直だな……【クリーン】」


するとグリムの口と手に付いていた血が綺麗になった。

グリムが歯磨きを自分から要求して来たのは初めてだ。

進化して顔の形が人間に近づいたのが関係してるのかもしれない。


「ギャギャ!」


グリムは嬉しそうに踊ると洞窟の岩の上に寝転がった。


「騒がしい奴だな」


「ふふっ、楽しくていいじゃない。私達に子供がいたらこんな感じかもね」


「そうだな……って私達に?」


「なっ!ち、ちが……。今のは忘れなさい!」


リリシアは急いで立ち上がると顔を真っ赤にしながら声を荒げた。


「なんか熱くなってきたわ……。私はもう寝るわね、村に行く日はまた今度決めましょう」


「あ、ああ。おやすみ」


するとリリシアは洞窟の一番奥にある葉を重ねた簡易ベッドの上に寝転がった。


「……」


俺はリリシアとグリムが見ていないのを確認し、一言呟く。


「【宗教メニュー】」


すると俺の目の前に半透明のパネルが出現した。


リカバリア教:Lv1


信者数:1

信仰心:10

建物:なし

恩恵:なし


獲得スキル:【ステータスボード】


信者一覧▼



実は教会でお祈りをした後、【宗教メニュー】という謎のスキルが発現した。

なるほど、このスキルはリカバリア教のステータスが見れるのか。


俺は何気なく信者一覧の横にある三角のマークをタッチする。


信者一覧▲

・グリム


続いてグリムの名前をタッチする。


グリム Rank:D

種族:ゴブリンヒーロー(変異種)


【種族説明】

100年に一度現れると言われている伝説のゴブリン。

部族社会であるゴブリン達の群れから離れて暮らし、その中でも選ばれたゴブリン  のみが進化可能な種族。

特に敏捷性と力強さに優れ、戦闘においては素早い動きと巧妙な戦術を駆使する。

隠密から戦闘までこなせるバランス型。


「ゴブリンヒーローか……。今日のグリムの活躍はまさにヒーローだったな」


信者の種族まで見れるのか。

このスキルはかなり便利だぞ。


宗教メニューには建物や恩恵という欄がある。

俺が信者を集めるのは、攻撃スキルが使えるようになるためだ。

そのためにはあと何人信者が必要なんだろう?

だがもしかしたらあと1人か2人増やせば、使えるようにかもしれない。


「まあ難しいことは考えずに気楽にいくか~」


俺はそう呟いて宗教メニューを閉じた。

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