第13話 新米教祖、グリムの進化に驚く
ブラックタイガーはゆっくり立ち上がり、緑色の肌をした魔物を見る。
「ガルゥ……」
ブラックタイガーはその魔物を睨みつけ、喉を鳴らす。
目を開けた瞬間、ブラックタイガーが倒れ、この魔物が俺の前に立っていた。
きっとこの魔物が俺を守ってくれたのだろう。
目の前にいるこの魔物は俺に背を向けたままで、敵意を全く感じない。
どういうこと?
この魔物は一体何者なんだ?
「だ、誰?」
「ギャ!(俺だ!)」
その魔物は背を向けたまま左手を軽く上げる。
その赤い目にこの肌色、まさか……。
「お前、グリムか!?でもその姿は――」
だがこの緑色の肌と赤い目はグリムの特徴と一致している。
横顔の形が少し人間に近づいているがゴブリンで間違いないだろう。
だがグリムに比べると身長も1.5倍くらいになってるし、筋肉量も増えている。
ゴブリンに角はない。
だがグリムの額からは小さい白い角が生え、右手にはロングソードが握られていた。
「ギャギャ(話は後だ)」
そう言うとグリムは剣を構える。
俺は少し後ろに下がり、固唾をのんで見守る。
「ガルゥ!」
ブラックタイガーは地面を勢いよく蹴り、グリムに突進した。
グリムは体を捻ってひらりと躱し、ブラックタイガーの腹を蹴り上げる。
ブラックタイガーの体が山なりに宙を舞い、地面に勢いよく落ちる。
「グ、グリム?」
「ギャギャ(こっちは任せろ)」
グリムはそう言うと倒れているブラックタイガーの元にゆっくり歩いていく。
「わ、分かった!」
俺はグリムの変わり果てた姿に戸惑いながらも、後ろにいるリリシアの元に駆け寄る。
「【ハイヒール】」
するとリリシアの体が黄色く光った。
右腕の断面から骨が生え、肉が付き、それを白い肌が包み込む。
「う、嘘っ……」
リリシアは再生した右腕を動かしながら驚嘆する。
「リリシア!今グリムが一人でブラックタイガーと戦ってるんだ!早く助けないと――」
前みたいにグリムだけ置いて逃げるなんて出来ない。
今は俺もリリシアも動けるし一緒に戦えばブラックタイガーに勝てるかもしれない。
俺はそう思い、グリムの元に駆け出すとリリシアに腕を引っ張られた。
「待って!」
「でもグリムが――」
「シンヤ、よく見て」
リリシアにそう言われ、グリムの方を見る。
グリムはブラックタイガーの攻撃を難なく躱しながら、巧みに蹴りを入れていた。
「グリムはブラックタイガーよりも明らかに格上よ。私達が下手に介入しないほうがいいわ。それにしても一気に強くなったわね、心強いわ」
俺は戦闘の素人だがグリムがブラックタイガーを圧倒しているのは分かる。
それにグリムは剣を一切使わず、右足だけで攻撃している。
「やっぱりあれはグリムなのか?でもあの姿と強さは一体……」
「……分かったわ!グリムはだから動けなくなっていたのね!」
「えっ?」
「進化したのよ」
「進化?」
「ええ。魔物は条件を満たすと進化するの。条件ははっきりと分かっていないけど、魔物を倒せば倒すほど進化が早くなるって聞いたことあるわ」
じゃああれが進化後のグリムの姿だってことか!?
「魔物が進化する時は体の変化に対する負荷で必ず動けなくなるのよ」
グリムに回復魔法をかけても治らなかったのはそういう理由だったのか。
「リリシアはグリムは一応まだゴブリンってことでいいのか?」
「た、多分ゴブリンよ。でもあんなに強いゴブリン見たことないわ……。はっきり言って異常ね」
通常、ゴブリンは小柄で弱々しい存在として知られているが、グリムはそれとは異なる生き物のようだった。筋肉質な体躯に、鋭い目つき、ただのゴブリンとは思えない威圧感を放っていた。
現にブラックタイガーはグリムから距離を取り、後ずさりしていた。
「ギャ」
グリムは左手を前に出し、ブラックタイガーを挑発した。
「ガルゥ!!」
ブラックタイガーは勢いよくグリムに向かって突進し、グリムの方に嚙みついた。
しかしグリムは仁王立ちしたままで動かない。
「「っ!」」
俺とリリシアはその様子を見て、思わず生唾を飲む。
グリムはそのままブラックタイガーの腹に剣を突き刺す。
「ガ……ガゥ」
剣を引き抜くと、そこから赤い血が勢い良く噴射した。
「ギャ」
グリムはブラックタイガーの顔を軽く押すと、ドスンと音を立てて地面に倒れた。
「グリム!」
俺は急いでグリムの元に駆け寄る。
グリムは俺を一瞥し、剣を手放すと剣が消えた。
「お前、本当にグリムなんだよな?」
「ギャ」
グリムは短く声を出し、深く頷く。
声も少し低くなった気がする。
「なんか大人になったな……グリム」
俺は前よりも高くなったグリムの頭を優しくなでるとグリムは気持ち良さそうに目を閉じる。
この表情を見ると姿が変わってもやっぱりグリムはグリムなんだなと思う。
よく見るとグリムの肩はブラックタイガーに嚙み付かれたにも関わらず傷一つ無かった。
俺は地面に倒れているブラックタイガーをじっと見る。
「……。一応ブラックタイガーも持って帰るか」
「ギャ」
俺がブラックタイガーを担ごうとするとグリムが俺の肩を軽く引っ張る。
グリムはブラックタイガーの首を片手で持ち上げ、肩に担ぐ。
「頼りになるわね」
リリシアが笑いながらそう言った。
「そうだな……、何だか複雑な気分」
あの小さかったグリムが俺よりも力持ちになってしまった。
「はぁ……。じゃあお目当ての薬草も見つけたし、そろそろ洞窟に帰るか!」
俺はそう宣言し、洞窟に向かって歩き出す。
◇
「失礼致します」
一人のエルフがある部屋に入ってくる。
「エリス?ゴホッ……」
部屋で寝ていた女性のエルフが咳をしながら、起き上がる。
「女王様!あまり無理をなさらず……」
エリスと呼ばれたエルフは急いで女王に近寄る。
「あなたが来るなんて珍しいですね。リリシアは見つかったのですか?」
「いえ、それがまだ……。リリシア様を追ったエルフも行方不明になっています」
「そうですか……。リリシアは私の薬を探すために村から出たのです、こうなってしまったのは全て私の責任」
「女王様のせいではありません。それにエルフの体が弱いのはみな同じ。こういう時こそ助け合わなくては……」
「エリス、あなたにはいつも苦労をかけます」
「それともう一つ、女王様のお耳に入れておきたいことがございます」
「ゴホッ……何かあったのですか?」
「先代の女王、セルシア様が新しい予言をしました」
「……内容は?」
「遂に救世主が現れた……とのことです」
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