第12話 新米教祖、薬草を見つける
「今、幸せですか?」
「な、何よ急に……」
リリシアだったらきっとリカバリア教に入ってくれる。
俺はそう思い、リリシアに声を掛けた。
「そうね……。お母様の事や村の事で少し悩むところはあるけど、幸せよ」
「そうか……」
う~ん、どうしよう。
幸せじゃないって言ったら、リカバリア様に祈れば幸せになれるぞ!とか言って勧誘しようと思っていたのだが……。
あれ?そもそもどうやって勧誘するんだ?
「変な事言ってないで、もう少し遺跡を調べるわよ」
リリシアは俺から視線を外し、遺跡の壁を調べ始めた。
「こんな所にドアがあったわ。行ってみましょ」
リリシアはそう言って祭壇の近くにあるドアを開ける。
するとドアを開けた時にドアに巻き付いてた
ドアの先に進むとそこは中庭だった。
先程の部屋よりも二倍ほど広く、太陽の光が中庭を優しく照らしていた。
中庭には色とりどりの花々が鮮やかに咲いており、花びらが陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
俺は目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。
「綺麗ね」
「ああ」
ここは何百年、いや下手したら何千年も前に作られたにも関わらず、そのあまりの美しさにしばらく立ち尽くしてしまった。
「ずっとここで見ていられるわね。ん?あれって……」
リリシアが目を細めて、中庭の花畑を見る。
「あっ!シンヤ、あれ見て!」
リリシアは俺の肩を叩いて、花畑を指差す。
よく見るとそこには青い花の群生があった。
リリシアは小走りでそこに向かい、青い花を一つ摘む。
「間違いないわ!『セリナリーフ』よ!」
「マジか!見つかって良かった」
「ええ!これでお母様の薬が作れるわ!」
リリシアは涙をうっすらと浮かべながらセリナリーフを見つめると、それを鞄に入れた。
「じゃあお目当ての薬草も見つかったことだし、洞窟に戻ろう。グリムも心配だし」
「そうね」
俺はリリシアの後に付いていき、遺跡の出口に向かう。
「……」
出る前にもう一度天井の絵を見上げる。
ここはリカバリア教の教会だった。
ということはリカバリア様を信仰する宗教がこの世界にあったが、何らかの理由でそれが消えた。
リリシアの話によると、亜人と魔物に宗教という概念は存在しないらしい。
だが俺はそうとは思えない。
昔は間違いなく亜人と魔物がここでリカバリア様にお祈りを捧げていたはずだ。
なら何故リカバリア教は消えたんだ?
そんな簡単に一つの宗教が消えるのだろうか?
そもそも神という存在は一体何なんだ?
これに関してはリカバリア様に直接聞くしかないな。
「シンヤ!何やってるの?早く行きましょ!」
「ああ!」
俺はリリシアに返事をして、教会を出る。
「洞窟はどっちだ?木ばっかりで方向が分からん……」
「こっちよ」
リリシアはそう言うと迷いなく森の中を進んでいく。
「よく分かるな。ずっと同じ景色なのに」
俺にはさっぱりわからん。
特に目印もないのに何で分かるんだろう。
「私はエルフよ。エルフは森の声が聞こえるの」
「マジかよ……。だから森の中でも道に迷わないんだな」
「ふふっ、シンヤってば今の話信じたの?森の声なんか聞こえるわけないじゃない」
「何だ、嘘なのか……。ちょっと信じたじゃないか!」
エルフは森の中で生活しているイメージがある。
森の声が聞こえても不思議じゃないと思うだけどな。
「でも昔のエルフは聞こえたらしいわよ。危険な魔物が迫ってるとか、大災害の前とかに」
「昔のエルフは予言とか森の声とか不思議なことができたんだな」
「まあどこまで本当かはわからないけど、昔は今の100倍の人口がいたみたいよ。それに比べたら随分と数が減ったわ。」
「へぇ~、もしそんなにエルフがいれば一つの国が作れるな」
「そうね。そしたら私は国の王女に――っ!」
するとリリシアは突然足を止めた。
「ん?どうしたん……むぐっ」
「しっ!こっちに来て!」
リリシアは俺の口を塞いで、手を引っ張る。
そのまま二人で木の裏に隠れた。
俺が木に背中を付け、リリシアが俺に抱き着いた。
リリシアの良い匂いと大きな胸の感触に心臓が強く鼓動し始める。
よく見るとリリシアの顔が強張っており、変なことを考えている場合じゃないと自分に言い聞かせる。
「最悪ね……」
「ど、どうかしたのか?」
「あれよ」
俺は木の裏から少し顔を出すと、そこにはブラックタイガーが鼻をひくひくと動かしながら歩いていた。
「こっちに向かってくるぞ!」
「ちっ、仕方ないわね」
リリシアが木の裏から出ると、右手を前に出した。
「ガルゥ……」
ブラックタイガーもリリシアの姿に気付き、喉を鳴らした。
「【ウインドカッター】」
すると風の音が聞こえ、風の斬撃が発生する。
その斬撃はブラックタイガーの体に命中したが、薄皮一枚切れただけだった。
「う、嘘でしょ!?私の魔法が聞かない……」
「ガルゥ!」
ブラックタイガーが猛スピードで突進し、リリシアの腕を爪で引っ搔いた。
空中にはリリシアの赤い血が舞い、そのまま地面に倒れた。
「きゃ!」
「リリシア!【ヒール】」
リリシアの元に駆け寄り、回復魔法をかける。
「あ、ありがとう……でも私達じゃ勝てそうにないわ」
「クソッ!どうしたら……」
するとブラックタイガーが俺達を睨み、もう一度突進してきた。
「ガルゥ!!」
ブラックタイガーは俺の頭目掛けて、口を大きく開けた。
「危ない!」
リリシアは腕を伸ばして俺の体を押し、思わず後方に倒れ込んだ。
ブラックタイガーは伸ばされたリリシアの右腕に噛みつき、食いちぎる。
「あ、ああぁぁぁぁ!!」
リリシアは断末魔を上げ、ブラックタイガーはそんなリリシアを見ながら骨ごと腕を噛み砕き、ゆっくり飲み込んだ。
「リ、リリシア!お、俺のせいで……」
リリシアは涙を流しながら右手を押さえる。
右手の断面からは赤い血が滝のように流れ、地面を赤く染めていた。
ブラックタイガーは大きな足を一歩ずつゆっくりと動かし、リリシアに近づく。
俺は急いで立ち上がり、リリシアとブラックタイガーの間に入る。
「だ、だめ……逃げて……」
後ろからリリシアの震える声が聞こえる。
「ガルㇽㇽ!!」
ブラックタイガーは勢いよく地面を蹴り、猛スピードで俺に向かってくる。
「シンヤ!!」
ブラックタイガーの顔が近づいた瞬間、俺は思わず目を閉じてしまう。
ごめん……グリム。
「ギャ!」
バキッ
「えっ?」
恐る恐る目を開けるとブラックタイガーが地面に倒れていて、俺の目の前には一匹の魔物が立っていた。
その魔物の身長は俺の胸くらいで、緑色の肌をしている。
右手にはロングソードを持っていて、額の真ん中から小さな角が生えていた。
「ギャ?(大丈夫か?)」
魔物は少し首を横に向けながら、俺にそう言った。
よく見るとその魔物は燃えるような赤い目をしていた。
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