第10話 新米教祖、薬草を探す

「ギャ……」


「グリム、大丈夫か?」


朝起きたら、グリムが洞窟の岩の上に仰向けになったまま動けなくなっていた。

グリムの息は荒く、胸が激しく上下していた。

俺がグリムのおでこに手を当てると、体がすごく熱かった。


「グリム、風邪か?」


「魔物が風邪を引くなんて聞いたことないわよ?」


横で様子を見ていたリリシアはそう言って首を傾げる。


「風邪じゃないのか……。【ヒール】」


グリムの体が黄色く光る。

だがグリムは苦しそうに仰向けになったままだ。

風邪じゃないならヒールで治ると思ったんだが……。


「回復魔法でもダメか……」


俺は心配のあまり、無意識にグリムの頭を優しく撫でる。

グリムの体調不良の原因は何だろう?


俺はグリムに無理させすぎていたのかもしれない。

いくら回復魔法ですぐ治るとは言っても、完全にリスクがないとは言い切れない。

もしかしたら寿命を削る代わりに回復させるとか俺が知らないデメリットがあったのかも……。


「ギャ」


グリムは少し口角を上げながら、俺を見て声を出した。


「グリム……」


「グリムの前でそんな顔しないの!シンヤがそんな顔してたら治るものも治らなくなるわよ?」


リリシアは俺の背中を軽く叩いて、そう言った。


「そうだな……。グリム、何か食べられるか?」


「ギャ……」


グリムはゆっくり首を左右に振る。

グリムの様子を見てさらに不安が押し寄せる。

本当にどうしたんだろう……。


「そうか……。何かあったらすぐに呼んでくれ」


俺はグリムにそう言って、洞窟に備蓄していた果物を二つ手に取り、片方をリリシアに差し出す。


「ありがとう」


リリシアは果物を受け取り、一口かじる。

俺達は無言で果物を食べ進めていく。


「グリムが心配ね……。今日の薬草探しは中止にしましょ」


リリシアが果物を食べ終わったタイミングでそう言った。


「ごめんな……」


「良いのよ。どうせならグリムにも手伝ってもらった方が効率良いし!」


リリシアは笑顔でそう言った。

きっとこの暗い雰囲気を変えようとそう言ってくれたのだろう。


「ギャ……(心配するな)」


「えっ?」


「ギャ。ギャギャ(俺はしばらくすれば治る。俺に構わず薬草探しに行ってきてくれ)」


グリムは仰向けになったまま、小さい声でそう言った。


「何て?」


「俺に構わず薬草探しに行けってさ」


リリシアとグリムはお互いに言葉が通じない。

やはり俺がグリムと話せるのは【意思疎通】のおかげだろう。


「どうするの?」


「……」


俺は立ち上がり、グリムに近寄る。

グリムの頭を優しく撫でながら、赤い目をじっと見る。


「いいのか?」


「ギャ(ああ)」


俺はその場で深呼吸してリリシアを見る。


「リリシア、薬草を探しに行こう」


「でもグリムが――」


「グリムは俺達に近くで心配されてても居心地悪いんだと思う。だったら一人で休ませてあげよう」


【意思疎通】は言葉だけではなく、感情もある程度読み取れる。

何となくだがグリムを見ていたらそう感じた。


リリシアも立ち上がり、グリムの元に歩いてくる。


「分かったわ。グリム、シンヤは私が守るから安心して休んでね」


「安心して休めってさ」


「ギャ……」


俺は洞窟の入り口にある湧き水を木の実の殻に入れ、グリムの横に置く。


「水分補給はしっかりしろよ。じゃあ行ってくる、夕方には帰るからグリムはゆっくり休んでてくれ」


「ギャ」


俺達はグリムに一声掛けて洞窟を出ると、綺麗な青空から太陽の光が森を優しく包み込んでいた。

風は穏やかに吹き抜け、木々の葉がさわさわと音を立てた。


「薬草が生えてる場所は分かってるのか?」


「ええ、森のへその近くにあるわ」


「え?それって……」


俺は目を大きく開き、息を呑む。


「そうよ。この前ブラックタイガーに襲われた辺りね」


またあそこに行くのか……。

今もあの辺りにブラックタイガーがいる可能性は高い。


「危険なのはもちろん承知よ。でもお母様の病気を一日でも早く治してあげたいの……。元々一人で行くつもりだったからシンヤは無理して付いて来なくてもいいわよ?」


「いや、行くよ。探すなら一人より二人の方がいい。それに俺を守ってくれるんだろ?」


俺が笑いながらそう言うとリリシアは目を大きく見開く。


「シンヤ……もちろんよ!任せなさい!」


リリシアは笑顔で自分の胸を軽く叩く。

男としては情けない限りだな。

リカバリア様から戦闘系のスキル貰っておけばこんな事にはならなかったのに……。


俺達は警戒しながら森の中を進んでいく。

歩き始めて10分ほどでリリシアを見つけた場所にたどり着いた。


「確かここでリリシアを見つけたんだ」


俺はリリシアが倒れていた草むらを指差す。

リリシアは草むらを一瞥すると、空高くそびえ立つ一枚岩を見上げる。


「うん、この辺りね。じゃあブラックタイガーに警戒しながら出来るだけ早く薬草を見つけましょう」


俺はリリシアの言葉を聞いて、深く頷いた。


「分かった。ところで薬草はどんな見た目なんだ?」


「私が探しているのは『セリナリーフ』っていう名前の薬草で、青い花が咲かせるのが特徴よ。日がよく当たる場所に生えてるらしいわ」


それから俺達は手分けしてセリナリーフを探した。

地面の草を掻き分けたり、辺りを歩き回ってみたがそれらしき薬草は見つからなかった。


俺は高い所から辺りを見渡してみようと思い、木の上に乗る。


「全然見当たらないな……。んっ?あの建物なんだろう」


少し遠くに木の間からうっすらと見える石で出来た建物があった。


「なあ、リリシア!!」


俺は木の上からリリシアを呼ぶ。


「何っ!?見つけたの?」


リリシアはそう言って俺が登っていた木に駆け寄る。


「いや、そうじゃなくてこの先にある建物について何か知ってるか?」


「建物?この辺りに住んでるのは魔物だけよ。魔物の集落なんじゃない?」


「いや、それにしては綺麗に石を削ってる気が……」


建物の上の方しか見えないが、その石は綺麗に真っ直ぐ切られており、それを積み重ねて作られてるようだった。

魔物の集落にしては建物のクオリティが高すぎる。


「そんなに高度な技術を持つ魔物は聞いたことないわね」


「ちょっと行ってみてもいいか?」


「ええ、行ってみましょう」

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