第8話 新米教祖、エルフと仲良くなる

「ゴブリン!?」


エルフの女の子はグリムを見て、身構える。


「グリム!」


「えっ?ちょ、ちょっと!」


俺は急いでグリムに駆け寄る。


「あんたゴブリンを知らないの!?安易に近づいたら殺され――」


「こいつは友達なんだ!グリム、大丈夫か!?」


「ギャ……」


グリムは俺を見ると、まるで全ての力が抜けてしまったかのようにゆっくりと膝を折った。

地面に倒れる前にグリムの体を支え、ゆっくりと地面に寝かせる。


グリムの横っ腹はえぐられており、右腕の骨が折れて力なくだらりと垂れていた。

するとエルフの女の子が小走りで俺の元に来た。


「ちょっと!ゴブリンと友達ってどういう事!?魔物と人間が友達なんて聞いたこ――」


「悪い!あとにしてくれ!【ハイヒール】」


グリムの体が黄色い光に包まれ、腹の傷が塞がる。

腕もゆっくり動きながら骨が再生され、体中の傷が塞がる。


「う、嘘でしょ……」


それを見ていたエルフの女の子が目を大きく開けて、後ずさりする。

するとグリムの目がゆっくりと開き、立ち上がった。


「よ、良かったぁぁ!!」


「ギャギャ!!」


俺はグリムに抱き着き、グリムもそれに答えるように俺の背中に小さい手を回す。


「いつも損な役割ばかり任せてごめんな……」


「ギャギャ!(気にするな!)」


グリムから少し離れて優しく頭を撫でる。

気持ちよさそうにしているグリムを見て思わず笑みがこぼれてしまう。


本当に良かった。

俺は異世界で初めて出来た友達を失う所だった。


「ほ、本当に友達なの?でも確かにこのゴブリンからは敵意は感じないわね……」


エルフの女の子が顎に手を当てながら、そう呟く。


「本当グリムが生きて戻ってきて良かったよ。これもリカバリア様のおかげだな」


俺が目を閉じて両手を合わせるとグリムも真似するように両手を合わせる。


「よし!そろそろ暗くなってくるし、飯でも食うか」


「ギャ!」


俺とグリムは洞窟の奥に歩いて行く。

それをエルフの女の子は黙って見ていた。


「……」


「何やってんだ?君も来なよ、お腹すいただろ?」


「で、でもさすがにそこまでしてもらうのは悪いわ」


ぐぅ~~


「あっ」


エルフの女の子は顔を真っ赤にしながらお腹を押さえる。


「あはははっ、遠慮しなくていいよ。君のお腹は正直だね」


「リリシア」


「えっ?」


「名前!リリシアよ。あんたは?」


「あ、ああ!そう言えば名前言ってなかったな。俺は信也だ。よろしく、リリシア」



グリムに焼肉の準備をしてもらい、肉を焼き始める。


「……」


リリシアはそれを不思議そうに見ていた。

グリムは焼けた肉をリリシアに持って行く。


「ギャ!」


「あ、ありがとう」


リリシアは恐る恐るそれを受け取った。

俺はその様子を苦笑いしながら見ていた。


「グリムが恐いのか?」


「ち、違うわ。友好的なゴブリンは初めて見たから少し戸惑ってるだけよ」


俺は自分の分の肉が焼けたので大きな葉の皿に盛りつける。


「いつ見ても見た目だけは美味しそうなんだよな。いただきます」


「ギャ!」


俺は焼けた魔物肉を一枚ずつ口に入れていき、俺の横でグリムは生肉を食べ始めた。

それを見ていたリリシアは肉を一つ摘んで、口に入れる。


「お、美味しい~~~!!」


リリシアは魔物の焼肉を食べて、声を上げる。


「肉を食べたことないのか?」


「ええ!エルフは基本狩りはしない。昔のエルフが肉を食べてお腹下したらしいから食べられないと思っていたわ」


なるほど。

それは人間と一緒だな。


「でも香辛料があればもっと美味いぞ。俺が食べた時は――」


「香辛料!?それって何よ!?」


「香辛料知らないのか?」


「知らないわ!それは美味しいの?」


「まあ単体では美味しくないけど、肉がさらに美味しくなるんだ」


「へぇ~いつか食べてみたいわね」


そんな話をしているとあっという間に魔物の肉が無くなってしまった。


「ふぅ~今日もお腹いっぱいだ。これもグリムのおかげだな」


俺はそう言ってグリムの頭を撫でる。


「ギャギャ~」


グリムは嬉しそうに両腕を何度も振り上げた。


「そういえばそのゴブリン……グリムだっけ?グリムはどうしてあんなに怪我をしていたの?」


「ああそれは――」


俺はリリシアを見つけた時から目を覚ますまでの経緯を話した。

リリシアによると俺達を襲った魔物はブラックタイガーって名前らしい。

リリシアもブラックタイガーに襲われて怪我をしたみたいだ。


「そ、そうだったのね……。グリム、ありがとう。おかげで助かったわ」


リリシアはグリムに向かって頭を下げた。


「ギャ!」


「俺の言う事信じてくれるのか?」


リリシアは人間が嫌いみたいだったし、グリムも友好的とはいえ魔物だ。

俺が逆の立場だったら信用できないと思う。


「ええ。シンヤが言っていた回復魔法も本当の事だったし、私を襲ったのもブラックタイガーだったから信じるわ。それに何よりもあなたは悪い人間には見えなかったから」


リリシアはそう言って俺を真っ直ぐ見る。


「シンヤ、私を助けてくれてありがとう。あなたのおかげで助かったわ」


「いや大したことはしてないよ」


「それでも私はシンヤには感謝してるわ。本当にありがとう」


リリシアは頭を深々と下げる。


「それにしてもシンヤの魔法は不思議ね。怪我を治せる魔法なんて聞いたことないわ」


「この世界に回復魔法は無いのか?」


「私も今日まで村を出たことなかったから、外の世界は良く知らないけど聞いたことないわね。ってこの世界にってどういう意味よ?」


「ああ。俺は別の世界から神様に召喚されてこの世界に来たんだ」


「えっ!?それって救世主様ってこと!?」


リリシアは俺に顔を近付けながら大きな声でそう言った。


「救世主?」


「ええ!私達【亜人】にはある予言があるの。『巨大な災いが訪れる時、異世界から神の使い【救世主様】が現れる。救世主様は傷ついた世界を癒し、邪悪を滅し、神の代行者として我々の罪を赦す。救世主様は万物を愛し、万物から愛される。従わない者には必ず不幸が訪れる』ってやつ。何千年も前から言い伝えられていて、私も子供の頃から何度も聞かされたわ」


俺が救世主かどうかは知らないけど、神様であるリカバリア様に召喚されたのは事実だ。

まあ、昔のエルフが言った戯言だろう。

俺が世界を癒したり、邪悪を滅するなんて無理だし。


「ふ~ん、何か難しそうな話だな。あっ!そうだ。リリシアには聞きたいことがあったんだ」


「私に?助けてくれたお礼として、知ってることなら何でも答えるわ」


「マジか!ありがとう!じゃあこの世界ついて教えてくれ」


俺がそう言うとリリシアはゆっくり口を開いた。


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