第7話 新米教祖、エルフと出会う
俺達は朝食に少し残っていた魔物の肉を食べ、洞窟を出た。
最近は肉ばかり食べていたので、野菜や果物を採取するためにグリムと一緒に森の中を探索していた。
しかしグリムは何も採取せずにナイフを振りながら、ふらふらと歩いていた。
「グリム……。お前しっかり探してるのか?」
「ギャ」
グリムは返事したが、俺と目を合わせようとしない。
「嘘つけ!ナイフ振り回してるだけだろ!?」
「ギャギャギャ!(野菜嫌い!俺は肉が食いたいんだ!)」
グリムは顔を赤くしながら地団駄を踏み始める。
「ゴブリンは雑食なんだろ?野菜も食べないと元気な大人になれないぞ!」
「ギャ!(俺はもう大人だ!)」
ゴブリンは雑食で基本何でも食べる。
だがグリムは肉ばかり食べるのだ。
「そんなこと言ってると……ってあれはなんだ?」
「ギャ?」
すると草むらに倒れている何かを見つける。
俺とグリムは恐る恐る近づいていく。
「これは……女の子!?」
そこに倒れていたのは血まみれでの女の子だった。
だがよく見ると耳が鋭く尖っている。
「ギャ!!ギャギャ(肉だ!!今日のご飯見つけた~)」
「いや、食べられるわけないだろ!?罪悪感で味なんか感じれるか!」
俺はグリムにそう言うとグリムは残念そうに肩を落とした。
「すごい綺麗な子だな……」
彼女の姿は、まるで美術館に飾られた彫刻のようだった
腰まで伸びた絹のような金髪に豊かな胸としなやかな細いウエスト。
俺は彼女の姿を見た瞬間嬉しくなってしまった。
なぜなら異世界に来て初めての俺以外の人と出会ったからだ。
できれば仲良くして異世界の事を色々聞いてみたい。
言語が通じるかはわからないが、【意思疎通】があるからきっと大丈夫だろう。
「とりあえず回復を……」
「ガォォ!!」
女の子に回復魔法をかけようとした時、横から猛獣の鳴き声が聞こえてきた。
「え?」
横を見るとそこには黒い虎のような魔物がいた。
その魔物は今まさに俺に向かって腕を振り下ろそうとしていた。
「ギャ!(危ない!)」
グリムが俺に体当たりし、俺達は地面に転がった。
「あ、ありがとう。グリム!」
俺がそう言うとグリムは急いで立ち上がり、ナイフを構えた。
「あ、あいつは……」
魔物は姿勢を低くし、牙をむき出しにしてグリムを睨み付ける。
今まで出会った魔物とは何かが違う。
その黒い体はまるで生きた闇そのもののように見えた。鋭い爪は、地面を引き裂く音を立て、彼の存在がこの場所にどれほどの恐怖をもたらすかを物語っている。
「ガルゥ……」
低く唸るような声が口から漏れるたびに恐怖で体が震えてくる。
だがいつまでも固まっているわけにはいかない。
俺は何とか震える足に力を入れて立ち上がる。
「ギャ……(勝てない……)」
グリムは力ない声でそう言った。
「えっ!?」
グリムの野生の勘はほとんど外れない。
今までもそれに何度も助けられてきた。
「ギャ!ギャギャ!(俺が食い止める!今のうちに逃げろ!)」
「そ、そんな……じゃあグリムはどうする――」
「ギャギャ!ギャ!(後で洞窟に戻る!早く行け!)」
「……。クソッ!」
俺は血だらけの女の子を担いで、グリムの方を見る。
「必ず生きて帰ってきてくれ!そしたらどんな怪我でも治す!」
「ギャ!」
俺はグリムにそう言って、洞窟に向かって走った。
「ガォォ!」
魔物はグリムから視線を外し、俺の方に向かってきた。
「ギャ!」
グリムは魔物に向かってナイフを投げ、魔物はそれをひらりと躱す。
「ギャギャ!(お前の相手は俺だ!)」
魔物はグリムを標的に決めたのか太い足で力強く地面を蹴り、グリムに向かって走り出す。
◇
「はぁ……はぁ……」
俺は何とか洞窟まで戻ってきた。
担いでいた女の子を洞窟の中にある大きな石の上に寝かせる。
女の子の体にはいくつもの傷があり、そこから血が流れて白い肌を赤く染めていた。彼女の呼吸は浅く、時折、苦しげに唸るような音を漏らしていた。
「この傷……まさかさっきの魔物にやられたのか!?」
傷をよく見るとそのほとんどが引っ掻き傷だった。
「【ハイヒール】」
女の子の体が黄色く光り、傷が塞がる。
「【クリーン】」
女の子の肌に付いている血を落とすと、白く透き通った美しい肌が露わになる。
すると呼吸が安定し、胸がゆっくり上下に動き始める。
「これで良し!あとは……」
俺はグリムにもらったナイフを取り出し、グリムのことを考える。
「……」
グリムは無事だろうか。
俺がもっと強ければ、グリムと一緒に戦えたのに……。
悔しさで自然とナイフを握る手に力が入る。
「う、うん……」
すると女の子がゆっくりと目を開け、起き上がる。
「あれ?ここは……って人間!?」
女の子は急いで立ち上がり、俺から距離を取る。
「大丈夫。何もしないよ」
俺は両手を上げながら声を掛けた。
「嘘よ!人間は悪い奴だって村のみんなが言ってたわ!」
「え?そうなの?」
やっぱりこの世界で人間はみんなから嫌われているらしい。
なんかショックだ。
「そうなのって……。人間はエルフを奴隷にする悪い奴じゃないの?」
エルフ?まさかこの人、あのエルフか!?
ファンタジーの定番であるエルフに会えるなんて……さすが異世界だな。
「さぁ?俺この世界の人間に会ったことないし」
俺はなるべく冷静さを装いながら言うと、彼女は眼を細めて俺を見てくる。
「まあ、何でもいいわ。あんたに興味ないし、人間なんかと関わりたくもないわ」
「……」
そこまではっきり言われるとショックだな。
でもこの世界での人間の評価がこんな感じなのだろう。
「ところでここはどこ?私、あいつに殺されたはずじゃ……。それに怪我も治ってるわね」
彼女は自分の体を見ながらそう言った。
「ここがどこなのかは俺も知りたい。怪我が治ってるのは俺が森の中で倒れていた君を見つけて治療したからだよ」
「それは嘘ね。いくら治療したからってこんな早く治るはずがないし、あれだけの攻撃を受けたのに傷跡が無いじゃない。もしかして全部夢だったのかしら?」
「それは俺が回復魔法を使ったからだよ。知ってるだろ?回復魔法使ったら傷跡も消えるんだ」
回復魔法は腕が骨折しても一瞬で治るし、傷跡も消えるからな。
「回復魔法?そんな魔法聞いたことないわ」
「回復魔法知らないのか?怪我が治ったり、体を綺麗にできるんだよ」
「だから知らないって言ってるでしょ?魔法っていうのはこういうものよ」
彼女は洞窟の壁に向かって手の平を向ける。
「【ウインドカッター】」
すると風の音が聞こえ、洞窟の壁に一筋の傷ができた。
「す、すげえ!これこそ魔法って感じだよな!?」
俺がそう言うと彼女は腰に手を当てて、その豊かな胸を張った。
「ふふ~ん。そうでしょ!あんた人間のくせに分かってるじゃない!」
やっぱり俺も攻撃できる魔法が欲しかった……。
俺はそう思い、がっくりと肩を落とす。
「ギャ……」
突然、魔物の鳴き声が聞こえた。
「な、何っ!?」
「この声は……まさか!」
俺は急いで洞窟の入り口まで走っていくとそこには傷だらけのグリムが立っていた。
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