第5話 異世界人、実は教祖だった

『リカバリア教の信者を1人獲得。スキル【ステータスボード】が解放されました』


「な、何だ!?」


俺は首を回して、声の出所を探す。

しかし周りいるのはグリムだけだった。


「ギャ?」


慌てふためく俺を見たグリムが首を傾げる。


「グ、グリム。お前は聞こえなかったのか?」


「ギャ!」


「そうか。じゃあ今の声は一体……」


さっきの声は俺だけにしか聞こえていないのか?

リカバリア教、信者、ステータスボード。

意味が分からないワードが三つもあった。


リカバリア教か……。

文字通りリカバリアを崇める宗教の事だろう。


信者。

その宗教に属する人。


「そして【ボード】か……うわっ!」


俺がそう言うと目の前に半透明のパネルが出現した。


佐々木信也  職業:教祖(リカバリア教)


【スキル】

・回復魔法:神級

・回復マスター

・意思疎通

・ステータスボード

【称号】

・神の使い


【信者】1人


「……」


ステータスっていうのはRPGとかでよく出てくるあれか?

確かに俺の名前やリカバリア様にもらったスキルは一致している。


「なあ、グリムにはこれ見えてるのか?」


「ギャ……」


グリムは首を左右に振る。

どうやらグリムには見えていないみたいだ。


何気なくスキルの欄をタッチするとスキルの説明が表示された。


【回復魔法:神級】

回復に関する魔法を習得できる。


【回復マスター】

回復魔法や回復スキルの威力が大幅に上がり、消費MPが大幅に下がる。


【意思疎通】

言葉が通じない生き物でも意思疎通ができる


【ステータスボード】

うhf@おdmfhfar


なんか文字化けしてるんだけど……。

きっとステータスを見れるとかそんなとこだろう。


色々気になる点はあるが、一番気になったのは職業欄だ。

俺、いつの間にリカバリア教の教祖になってんだよ!?

それに信者って誰だ?


「グリム。まさかお前なのか?」


「ギャ?」


異世界で俺と仲良くなったのはグリムだけだ、そうとしか考えられない。

なんか頭が混乱してきた……。

まあ難しいことを考えるのは一旦やめよ、まあその内分かるだろ。



グリムと一緒に住み始めてから数日が経過した。

俺は自分の体より少し大きいイノシシのような魔物を追いかけていた。

魔物は無数に生える木の間をすり抜けるように走る。


「グリム!そっち行ったぞ!」


「ギャ!(任せろ!)」


俺がそう言うとグリムがナイフを突き立て、木の上から勢いよく降りてきた。

タイミングはバッチリで、そのまま魔物の頭にナイフが突き刺さった。


「ブルルルッ!」


グリムの全体重が乗った攻撃はかなり効いたみたいだ。

その魔物は足の力が抜け、地面を滑るように倒れた。

グリムはその勢いに耐え切れず、ナイフを手放して地面に転がる。


「グリム!大丈夫か!?」


俺は声を掛けつつ、グリムの元に駆け寄る。


「ギャ……」


グリムは地面に倒れながら、右手を押さえていた。

右腕からは赤い血が流れ、痛そうに呻き声を上げる。


「待ってろ、すぐに回復してやる【ヒール】」


グリムの体が一瞬黄色く光り、腕の傷が塞がっていく。

するとグリムはすぐに立ち上がった。


「ギャ!(ありがとう!)」


「こちらこそ危険な役割を任せてごめんな」


俺はそう言って地面に倒れている魔物を見る。

魔物の頭にはナイフが突き刺さっていて、そこからドクドクと赤い血が滝のように流れている。


「じゃあ洞窟に持って帰るか!」


「ギャ」


俺は魔物を背負い、自分達が住んでいる洞窟に向かった。

魔物を仕留めたのは洞窟から近い位置だったので、歩いて10分ほどで洞窟に到着した。

魔物を洞窟の中に置き、額の汗をぬぐう。


「ふぅ~、疲れた~」


「ギャ……」


グリムも俺の真似をするように額の汗をぬぐった。

最近、何でも俺の真似をするようになってきたな……。

顔は怖いけど可愛い。


「さてと、まずはどうやって解体するかだな……」


解体なんてやったことがない。

この前食べた鹿の魔物は何となく切って焼いただけだったので、大部分が食べれなくなってしまった。


「ギャギャ!!(俺に任せろ!)」


グリムが腕を上げながら、その場で跳ねる。


「できるのか?」


「ギャ!」


「よし!じゃあ解体はグリムに任せた!」


俺がそう言うとグリムはナイフを取り出し、魔物の喉元に切り目を入れる。

するとその切れ目から蛇口を捻ったように勢いよく血が流れ出す。


「ギャ!(綺麗にしてくれ!)」


グリムが魔物を指差して声を上げる。


「え?綺麗にすればいいのか?」


「ギャ」


「【クリーン】」


魔法を使うと魔物に付着していた泥が消える。

グリムが魔物の腹を切り、内臓を取り出して岩の上に置く。


うわぁ……グロッ。


胸の奥から何かが押し上げられる感覚になり、息を吸うたびに喉の奥がむず痒くなる。吐き気を何とか押さえながらもグリムの解体を見守る。


グリムは丁寧に頭と尻尾、足を切り落として皮を剥ぐ。

そして骨の間にある肉や体に付いてる肉をそぎ落とし、大きな葉の皿に乗せていく。

どんどん皿の上に肉が盛られていき、いつの間にか肉の山が出来上がった。


「す、すごいな……。肉がこんなに……」


「ギャギャ!!」


血だらけのナイフを持ったグリムが嬉しそうに俺に駆け寄ってくる。


「うっ!」


ナイフが放つ、生臭く鉄のような匂いに思わず鼻と口を押える。


「ギャ……」


グリムの耳が垂れ下がり、細い声を出す。


「す、すまん!【クリーン】」


急いで魔法を唱えるとグリムの体臭とナイフの血が消えた。

俺はグリムの頭を優しく撫でる。


「すごいぞ!グリム!」


「ギャギャギャ!!」


グリムは嬉しそうにその場で踊り出す。

子供みたいで可愛いな。


「じゃあ夜も暗くなってきたし、火を付けて肉食うか!」


「ギャ!」


俺がそう言うとグリムは薪を集め、周りをキョロキョロと見渡す。

そして洞窟の壁に張り付いていた赤い蜥蜴を捕まえてきて、軽く叩く。


「ピギィ!」


すると赤い蜥蜴が薪に向かって火を吐き、薪に火が付く。

グリムはそれを確認すると赤い蜥蜴を地面に降ろす。

そして焚火の上に石を積み上げ、即席の焼肉プレートを作る。


「ギャギャ!」


グリムは腰に手を当て、自慢げに胸を張る。


「お前優秀過ぎないか?」



―――――――――

【あとがき】

本当はイノシシの解体する時、一度冷凍するみたいですね……。

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