第4話 異世界人、信者を獲得する

 日が昇り、外から鳥のさえずりが聞こえる。

 俺は洞窟の中に置いてある魔物の死体をじっと見つめる。


「よし!今日こそ火を起こしてみよう」


 異世界に来てから約一か月、ヴィーガンのような食生活に終わりを告げるためにそう宣言する。


「確かテレビではこうやって……」


 大きな木の上に葉っぱを敷き、その上で木の枝を回転させる。

 しかし、全く火が付く気配がない。


「はぁ、今日もダメそうだな」


 最近は毎日火起こしに挑戦しているが一度も成功していない。

 しかし他に火を起こす方法は知らない。


「あーあ、折角魔物の死体があるのになぁ~」


 火がないと運良く手に入れた魔物の死体も食べられない。

 このままではまた魔物におびえながら果物を探す生活に戻ってしまう。


「しょうがない、諦めるか……」


 俺はがっくりと肩を落としながら、足元にあった小石を軽く蹴る。

 すると、その小石が洞窟の中を歩いていた小さな赤い蜥蜴に当たる。


「ピギィ!」


 赤い蜥蜴は驚いたのか体を震わせ、口から火を吐いた。

 暗い洞窟の中が一瞬だけオレンジ色に照らされる。


「……」


 俺は無言で赤い蜥蜴をじっと見つめた。


 ◇


「いや~蜥蜴君ありがとう」


 俺はそう言って魔物の肉を小さく切って蜥蜴に向かって投げる。

 赤い蜥蜴は器用に口でキャッチし、洞窟の外へ走っていった。


 洞窟の中は肉の焼ける匂いで充満していた。

 俺の横には木の枝や薪が積んであり、焚火の中に少しずつ入れていく。


「よし!そろそろ良さそうだな」


 俺は骨の付いた肉を焚火に当て、肉を焼いていた。

 しばらくすると肉の油が出てきて、それが焚火に滴る。

 ジューという油が焼ける音が俺の食欲を掻き立てる。


「ごくりっ。久しぶりの肉……頂きます!!」


 俺は口を大きく開け、肉にかぶりつく。

 噛むたびに肉汁がじゅわりと溢れ出し、外のパリッとした食感が心地良い。

 美味いことは美味い……だけど何かが足りない。


「まあ焼いただけだから仕方ないか」


 やはり肉を美味しく食べるには香辛料が必須だな。

 そんなことを考えながら肉を食べているとあっという間に完食した。


「それにしてもどうして魔物の死体が洞窟の前に落ちてたんだろう?」


 ここ最近、洞窟の前には毎日何かしら捨てられている。

 今までに捨てられていたのは折れた剣やナイフ、魔物の死体など。


「もしかしたらリカバリア様のお恵みかもな。ありがたい」


 俺はそう呟いて両手を合わせる。


「さて、今日も一日頑張りますか!」


 焚火に土をかけて消火し、勢いよく立ち上がる。


 ドサッ!


 洞窟の外から何かが落ちた音が聞こえた。


「来た!今日こそ正体を突き止めてやる!」


 俺は勢いよく地面を蹴り、洞窟の外へ向かう。


「誰だ!」


 声を張り上げ、洞窟の周りを見渡す。

 すると小さい人型の生物が岩の後ろに隠れた。

 俺はゆっくり岩に近づき、岩の後ろを見る。


「えっ!?お前はこの前の……」


 そこにいたのは前に俺が助けた赤目のゴブリンだった。

 赤目のゴブリンは動かず、俺の顔をじっと見上げる。


「まさかお前が毎日洞窟の前に物を捨ててたのか?」


「ギャ!」


 赤目のゴブリンが片腕を上げて声を出す。


「お、俺の言っている事がわかるのか?」


「ギャギャ!」


 赤目のゴブリンが何度も頷く。


「マジか……、ゴブリンって頭良いんだな。でも何で洞窟の前に物を捨ててたんだ?どう考えてもまだ使える物ばかりだったぞ?」


「ギャギャギャ!」


 何となく『捨てているわけではなく、この前のお礼だ』と言っているような気がした。いや、流石にゴブリンの鳴き声でここまで理解できるのはおかしい。


 あっ!そういえばリカバリア様にもらったスキルに【意思疎通】というものがあったな。

 なるほど、その効果か……。


「そうか……ありがとな」


 俺はゴブリンの頭を撫でると赤目のゴブリンの耳が垂れ、気持ちよさそうに目を閉じた。

 ゴブリンの皮膚はゴツゴツしていて、少し弾力があった。


 俺は近くの岩に腰掛けると隣に赤目のゴブリンが腰掛けた。


「お前は男の子か?」


「ギャ(そうだ)」


 近くで見ると彼の目は燃えるような赤色で、周囲の光を吸い込むかのように不気味に輝いている。


「なあ、普通のゴブリンの目は黒いのに何でお前の目は赤いんだ?」


「ギャギャ……(わからない)」


 赤目のゴブリンはがっくりと肩を落として、首を左右に振る。

 話を聞くとこいつはこの近くにあるゴブリンの集落に住んでいたらしい。


 生まれてからずっと集落の中にいるゴブリンたちに赤い目を気味悪がられていた。

 そしてこの前俺が助けた二匹のゴブリンと狩りに出たが、失敗してしまった。

 仲間のゴブリンが怪我してしまった事と俺をかばったのを理由に集落から追い出されたらしい。


 話を聞く感じ、人間は魔物達から相当嫌われているらしいな……。


「そっか……。俺のせいでごめんな」


「ギャギャ!!(謝らなくていい!俺もあの集落のゴブリン達が大嫌いだ)」


 この赤目のゴブリンが悪い奴には見えなかった。

 むしろナイフや魔物の死体をくれたし、いい奴だと思った。


「なあ、よかったら一緒にここで暮らさないか?俺も丁度話し相手が欲しかったしな」


「ギャ?(いいのか?)」


「ああ、もちろんだよ!俺は佐々木信也、信也って呼んでくれ」


 俺はそう言って赤目のゴブリンに手を差し出す。


「ギャギャ!(ありがとう!シンヤ!)」


 赤目のゴブリンは声を出して、俺の手を握り返してくれた。

 魔物と人間。種族は違うけど、こいつとは仲良くやっていけるような気がした。

 出会いは一期一会、こいつとの出会いは大切にしないとな。


「これもリカバリア様のおかげかもな……」


 俺は両手を合わせて、リカバリア様を思い浮かべる。

 すると赤目のゴブリンは一瞬だけ首を傾げ、俺の真似をするように両手を合わせた。


「あっ!そうだ。お前名前なんて言うんだ?」


「ギャ(名前はない)」


「ないのか……。じゃあお前の名前は【グリム】だ!」


「ギャ……ギャギャ!(グリム……いい名前だ!)」


 赤目のゴブリン、グリムは嬉しそうに腕を振り上げた。


「じゃあこれからよろしくな!グリム」


「ギャ!」


 すると突然、頭の中に無機質な音声が聞こえた。


『リカバリア教の信者を1人獲得。スキル【ステータスボード】が解放されました』

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