第2話 サラリーマン、スキルをもらう

リカバリアが指を鳴らすと、『第一回チキチキ!チートスキルプレゼント選手権』と書かれた看板が出てきた。

すげえ、魔法って何でもありだな……。


「い、今から何が始まるんだ?」


「テンション低いよ?今から何のスキルがもらえるのかな~?楽しみだね!」


「……」


「もう!これからあなたの運命が決まるんだよ!?」


「そんな大げさな……」


「何言ってるの!?それほどスキルは大事なんだよ!ほら、もっとテンション上げて。イエーイ!!」


リカバリアは笑顔で腕を振り上げる。


「い、いぇ~い……」


リカバリアのテンションにはついていけない……。

だがスキルというのは異世界で生きていくには必須なのだろう。

どうせなら戦闘で役立つスキルが良いな。


「ジャーーン!」


リカバリアはどこからともなく箱を取り出し、俺に向かって差し出す。

箱の上には大きな穴が開いていて、中は暗くて何も見えなかった。


「さぁ、一個引いて!」


俺は言われるがまま、その箱に手を入れる。

大量のボールの中に手を入れた感触を感じながら、一つのボールを掴んで箱の中から取り出した。


「金色だ!大当たり~」


俺が手に取ったのは金色のボールだった。

そのボールには【回復魔法:神級】と書かれていた。


「それは回復魔法が使えるようになるスキルだね。ほら、どんどん引いて!あと二つあるからね」


正直、少しがっかりだ。

回復も重要なのは分かるが、できれば攻撃系のスキルが欲しかった。

俺はがっくり肩を落としながらも、もう一個ボールを手に取る。

俺が手に取ったのは銀色のボールだった。


【回復マスター】


「おっ!回復魔法のスキルと相性ばっちりだ!これは回復魔法の威力が上がったり消費MPが減るスキルだね」


「ま、また回復系……」


このままだと俺は魔物とは戦えない。

俺が描いているような異世界転生できなくなってしまう!


「じゃあ次で最後だね!」


俺は両手を合わせて、攻撃系のスキルが出るように祈る。


「頼む……」


箱の中に手を入れ、ボールを取り出す。


「おおっ!!また金色だね!」


よし!とりあえずレアスキルは確定みたいだ。

俺は恐る恐るボールに書いてある文字を見る。


【意思疎通】


はい、オワタ。

どう考えても攻撃系のスキルじゃないね。


すると俺の体が一瞬光り、頭の中にいくつもの回復魔法が浮かんできた。


「これで決まり!じゃあ異世界行くにあたっての注意事項を――」


「頼む!もう一回引き直させてくれ!!」


「いやいや、それは無理だよ!これもルールだからね」


リカバリアはそう言うとボールの入った箱が消滅した。


「そ、そんな……」


せっかく異世界に行くのに攻撃スキルはなし。

俺はこれから先やっていけるのか?だって魔物とかいるんでしょ?


「まあまあ、そんなに落ち込まないで。あなたが引いたスキルも十分強いから」


「いや、回復だけできても仕方ないだろ!?」


「それも異世界に言ったらわかるよ」


リカバリアの言葉を聞いて俺は首を傾げる。

すると突然、俺の体が薄くなってきた。


「あっ、時間切れみたい」


「えっ!?」


「ごめーん!お詫びに私から個人的なプレゼント!」


リカバリアそう言うと俺の胸に手を当てる。

俺の体が一瞬だけ光り、中に温かい何かが入ってくるような感覚があった。


「じゃあ頑張って信者を増やし……人助けをしてね!」


「ちょ、ちょっと待って俺まだ異世界について詳しいこと――」



一瞬で景色が変わり、いつの間にか森のド真ん中に立っていた。


「まだ聞いてないんだけどぉぉぉ!!!」


俺の声を聞いて驚いたのか、大勢の鳥が一斉に飛び立つ。


「……」


もちろん誰も返事はしてくれなかった。

辺りは緑豊かな木々が立ち並び、聞こえるのは木の間を吹き抜ける風の音と鳥のさえずりだけだ。


「一旦落ち着こう……。まずは冷静に判断しないと」


自分にそう言い聞かせ、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。


「ここは本当に異世界なのか?普通の森みたいだけど……」


よく見ると地面には1mくらいの蜥蜴が歩いていたり、空には飛行機ほどの大きさの鳥が飛んでいた。


「うん、異世界だわ。だってあんな生き物見たことないもん」


さて、どうしようかな……。

そんなことを考えていると後ろから足跡が聞こえた。

俺は恐る恐る振り向くと、俺の身長を優に超えるほど大きな熊が俺を見下ろしていた。


「あ、あぁ……」


恐怖で体が動けなくなってしまい、心臓が早鐘を打つ。


「ガアァァァァ!!」


熊は鋭い爪が生えた腕を振り下ろす。

俺はとっさに腕でガードしたが、勢いを殺せずに吹き飛ばされる。

体を滑らせながら地面に転がり、木にぶつかった。


「い、痛っ!」


全身にビリビリとした痛みを感じ、よく見ると腕の肉が裂けて白い骨が見えていた。

このままだと死ぬ!早くここから逃げないと!


しかし体がピクリとも動かない。

思ったより先程の攻撃が効いたみたいだ。

俺を仕留めたと思ったのか、熊がゆっくりと俺に近づいてくる。


せっかく異世界に来たのに俺はこのまま死ぬのか……、やっぱりアニメのようにはいかないな。

諦めそうになった瞬間、ある魔法が頭の中に思い浮かぶ。


「【ヒール】」


すると体の中にある何かが抜けていくような感覚になり、体が逆再生するかのように怪我が治っていく。

俺は急いで立ち上がり、自分の体を触る。


「す、すごいな!これが回復魔法か……ってそんなこと考えてる場合じゃない!」


「ガアァァァァ!!」


立ち上がった俺を見た熊が鳴き声を出しながら、突進してくる。


「こうなったら逃げるしかない!」


俺は森の中を全力で走る。


「なんでこうなるんだよ!攻撃系のスキルがあれば戦えるのに!!」


俺にスキルを授けたとある神様に向かって声を張り上げる。

しばらく森の中を走り回るが、後ろからの足音は一切消えなかった。


「はぁ……はぁ……い、いつまで追いかけてくるんだよ!」


「シャー!!」


「今度は何だよ!?」


俺は急いで足を止める。

俺の少し前にある木に20mくらいの大きな蛇が巻き付いていた。

その蛇は細長い舌を出し入れしながらゆっくり俺に近づいてくる。


後ろを振り向くと熊が俺に向かって走ってきており、完全に挟み撃ちにされていた。


「シャー!!」


前にいた大きな蛇が噴射音を鳴らしながら、突進してくる。


「お、終わった……。うわぁぁぁ!!」


俺はその場で頭を押さえながらしゃがみ込む。


「シャー!!」


「ガアァァァ!!」


「……」


しかし、しばらく経っても俺に攻撃が来ることはなかった。

恐る恐る目を開けると、俺の真横で熊と蛇が喧嘩をしていた。

熊の太い胴体に蛇が噛みつき、熊の爪が蛇の体に突き刺さっていた。


「い、今だ!」


俺は地面を蹴り、全力で森の中を走った。

2分くらい走り、一度足を止めて振り返る。

しかしそこには誰もいなかった。


「よ、良かった~。逃げ切れたみたいだ」


体の力が抜け、地面に尻もちを付く。


「俺、こんな感じでこれから先やっていけるのかよ……」

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