第5話 ヒューゴとローガンとマルクスとアメリア 仲間と一緒に

とうとう仕事を辞めた。

ストレスが溜まりに溜まりやってやった。

大嫌いな上司に辞表をバーンと出して「後は有給消化でお願いしまーす。」と。

同僚?引き継ぎ?自分勝手と言われてもそんなの知・ら・な・い。

どうぞ苦労して下さい。


という事でずっと休みになりました。

ええ、ニートというやつです。

これで、今までやれなかった事しちゃるぞ。

読書にお絵かきに手芸にプラモデルなどなど。

材料は既に手に入れてある。

まっ、その前に本の整理をしないとな。

ミーナやローズ達を探してみよう。


ミーナは[黒薔薇は闇に咲く]というタイトルの登場人物だった。なんとBL小説。

悪役の伯爵にミーナはお金で買われた花嫁になる。そこに愛は無かった。伯爵に疎まれ続け、最後には病気で誰にも看取られず亡くなる。結婚前後の話だけしか書いてなかった。登場人物としてはほんの僅か。

それでも、ミーナが可哀想で泣いたっけ。

だから「心配しないで。」ってミーナが言っていたのか。

ミーナはこの小説の脇役だった。

また一つ謎が解けた。

次はローズだ。


その前にちょっと休憩。

今日はコーヒーにしよう。

ふと庭を見るとー来たよ、猫が来たよ。

今日の癒しは三毛猫のスミレ。緑色の目。性別は不明。三毛猫だから女の子の確率は高そう。

白いところが多くて薄色茶色と黒が絶妙なバランスの猫。

なぜスミレ?[三毛]で[三色]なので[三色スミレ]でスミレ。単純でしょ?


軽快な足取りでやって来る。

スミレもいつもの白いモヤの塊を連れて来た。

スミレお前もか?

桜の木に近づくと白いモヤとスミレが何かを話してる。

すると白いモヤが人の形になった。男の人だ。

鮮やかな赤い髪、黒い瞳。目力が強くキリリとした口もと。でもどう見ても10代だ。黒いシャツに黒いズボンに黒いブーツ。襟には赤いマフラーそしてマント。背中に大きな剣を担いでいる。

これはー勇者様?勇者様ですよね?

でも、また銃刀法違反ですわ〜。


勇者様はスミレを抱いて無言でやってきた。

かっこいいけどなんか怖い。

私は慌てて窓を開け「ど、どちら様ですか?

どのようなご用件でしょう?」と尋ねた。

「俺、勇者やってるヒューゴ。ちょっとここで待たせてもらうよ。」

「どうぞ。椅子使っていいですよ。」

「ありがとう。」

いっやぁーとうとう勇者様が来ちゃったよ。

お茶よりコーヒーかな?

「コーヒーって飲まれますぅー?」

「甘いのならば。」甘党か?意外だな。

私はコーヒーに砂糖をたっぷり入れ、お菓子はチョコレートを出した。スミレには煮干しだよ。これは定番。

ヒューゴはチョコレートを食べてびっくたみたい。「コレは美味い。」ニコニコ顔で食べている。美味しそうに食べる顔は癒しだ。

スミレは上品に煮干しをポリポリ食べている。

コレも癒しだわー。


ヒューゴは孤児で食べる為に小さい頃から花売りしたり食堂での下働きや荷物運びをしていた。それでも飢えない程度だったという。

ある日、国中の若者が教会に集められ勇者の試験をさせられた。身分は関係なかった。その試験とは台座に刺さっていた聖剣を引き抜いくというもの。あっさりヒューゴは引き抜いちゃったので勇者になった。まぁベタな展開。

数年置きに竜が王都で暴れてまわる。その討伐に強制的に行かされた。断れなかった。ヒューゴはそれまで剣なんか持った事もなかったので自信は全く無かったが、仕方なく竜がいるという北の険しい山に旅立った。旅の途中で知り合った仲間たちとチームを組んでダンジョン巡りをしながら実力をつけた。そしてとうとう竜の討伐を果たした。討伐後は莫大な報奨金を貰いチームの仲間で分けた。

その後それぞれ生まれ故郷に帰った。

「またいつかこの仲間で行けなかったダンジョンに行こう。」と約束をして別れた。

しかし別れた二人は不慮の事故や病気で亡くなってしまい約束は果たされる事はなかった。

ヒューゴは勇者を引退した後、仲間の一人と結婚し、郊外に家を建て夫婦で穏やかに暮らした。先に奥さんは病気で亡くなってしまったけれどヒューゴは一人その家で天寿を全うした。と。

うーん多分読んだわ。なんだっけな?

つーか...もしかしたら...今回は一人じゃないかもしれないぞ。


急に強い風が吹いてゲリラ豪雨が降ってきた。

スミレちゃんが「にゃーん。にゃーん。にゃーん。」といつもより多く鳴いた。

すると、いつもより大きなモヤが桜の横に出て来た。

きっと人でしょ?男の人かな女の人かな?

今回はなんと3人も!!男の人は二人で女の人が一人。

鳴き声は人数に比例してるのか?


まず、男の人その1 金髪、碧眼の多分、騎士様。シルバーの鎧着て剣を腰に挿してる。イケメン。

つぎに、男の人その2 黒髪、パープルの瞳の多分、魔法士様。黒いフード付きの外套に杖持ってるし。少し暗めのイケメン。

そして、女の人 白い髪でグリーンの瞳の多分聖女様。白いドレスに胸には十字架だし。

綺麗で優しそうな美人さん。ヒューゴの奥さんたろう。それにしても三人ともかっこいい。

銃刀法違反がもう一人増えた。


三人揃ってこちらに歩いてくる。

騎士様が「よぅヒューゴ。待たせたな。」と手を挙げた。

魔法士様は「やぁ。息災か?」いや、もう死んでるって。

聖女様「お会いしたかったです。ヒューゴ様」

ヒューゴ「おぉ。ローガン、マルクス、アメリア。来てくれてありがとう。」両手を広げて迎える。

騎士様(ローガン)、魔法士様(マルクス)、聖女様(アメリア)でいいのかな?

こちらを向いて、「迎えが来たようだ。コーヒー美味しかった。ごちそうさま。」

「そうですか。お気をつけて。」

「あのーそのー残ったお菓子なんだけどー持ち帰ってもよろしいか?」モジモしながら言った。

「どうぞどうぞ。今包みますね。」

「とても美味かったから仲間に食べさせたくて。」気に入ったようだ。仲間思いだね。

包んで渡す。「はいどうぞ。」

「ありがとう。これ、お礼。」と言ってポケットから赤と青と透明な石を三つ差し出す。

「い、いいんですか?」形はそろっていないけど

とても綺麗な石だ。

「いいんだ。またこれから沢山取るから。」

「そうですかーいただきますねー。」沢山あるなら貰ってもいいよね。私の目もキラキラさせてたかも?

「では。」

「お気をつけて。」


スミレが「にゃぁーーん。」と大きく鳴いた。

すると、雨がやみ日が差した。

桜の木から虹が空に向かってのびる。


ヒューゴが「これでみんな揃ったな。ダンジョンに行くぞぉー。」

「おおっ!!」と他三人が威勢よく答えた。

ヒューゴはアメリアと手を繋ぎ、それぞれ笑顔で走って行った。

勇者様御一行の後ろ姿もかっこいい。

「お気をつけてーー。」手を振り見送った。

スミレも「にゃーん。にゃーん。」と彼らを見送る。


やがて虹が消えるとスミレは庭を横切り行ってしまった。まぁいつもの事だ。

私の手の中には石が残った。


夕方、パートナーが帰ってきた。

晩御飯は焼肉だ。なんかそんな気分だから。

お腹いっぱい食べた後、烏龍茶を飲む。

そしていつもの日課。

とうとう勇者が来ちゃったとか団体様だった事。それにお礼に貰った石のこと。

「勇者様御一行が来たの?僕も会いたかったな。カッコよかった??」

「そりゃぁ本の人達だからカッコいいよ。」

「その本見つけた?」

「まだ。」

「じゃあ僕が探すよ。勇者の本でしょ?」

「どうかな?あの勇者様御一行は主人公じゃないかもしれないよ。前に会ったミーナは主人公じゃなかったし。探すのは大変かも?」

「えっそうなの?」

「そーなんですよー。片っ端から読むしかないねぇ。」

「えぇ。たいへんだぁ。」

心当たりはあるけど教えてあげないよ。

テレビばかり見てないでたまには本を読め。


その夜の夢。

暗い森の中で焚き火を囲んでいる勇者様御一行。どうやら肉を焼いているようだ。ご飯かな?なんの肉かは知らなくていい。きっと一般人が普段口にしない物だろう。

「さっきゆめさんから貰ったお菓子たべようぜ。」

「うゎぁ...なんか溶けかけてるよ。」そりゃ火の近くだとそうなるわなー。

「でも甘くて美味しいね。」

「ゆめさんお菓子ありがとう。」そう言ってこっちを一斉にに見た。急に恥ずかしくなった。

「いえいえどういたしまして。石貰ったしね。」

「あの赤い石は念じると熱を持つのであたたかくなります。青い石は逆に涼しくなります。透明な石は明るくなります。ぜひ使ってみてください。」

「うん使ってみる。」私にできるだろうか?

「これから僕たちは世界中のダンジョンを巡る旅にでます。仲間が一緒だから楽しみなんです。」

「そっかー気をつけて行くんだよ。」

「ゆめさんも、誰かといろいろな所に行ってみるといいですよ。きっと楽しいから。」

「そうだね。行ってみるよ。」誰か、か。


そこで目が覚めた。

色々な所ねぇ。

誰かって、しゅんちゃんしかおらんな。

ベッドから這い出てリビングへ行く。あの石があった。試しに青い石を持って涼しくなーれと念じてみた。何も起こらなかった。

赤い石も透明な石も。

まーそうだわなー。私だもんなー。

ただ、この石はとても綺麗だ。

それだけでもいいとしよう。


さて、今日は何しようかなー?

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