第4話 美鈴と光太郎 これからも二人で一緒に
今日は急遽仕事が休みになった。
ヒャッホイ!!イェーイ!!
昨夜は台風の直撃ですごい雨が降った。
広範囲に被害がでてる模様。
川が氾濫して橋を渡れないということで
自宅待機となった。
うちは高台だから心配ないけれど。
パートナーも休みになったんだって。
しょうがないから二人でダラダラしましょうか?
そういえば、[猫ちゃんず]はどうしているかな?無事かな? 心配だな。
そこへ[癒し]がやってきた。
今日はシャム猫のティー。
ミルクティー色で鼻先と耳の先と四本の足の先が濃茶、目は濃い茶色。性別不明。少し痩せ型だけど毛並は艶々だ。
尻尾をピンっとして歩いてる。
まさかと思ったけどティーも白いモヤを連れてやって来た。
「見て見てっ。アレがそうだよ。見える?」
「うゎあ。見えちゃったよ。どうしよう。どうしよう。」
「ちょービビってる。」
「そ、そんな事ないよ。」そうかー?顔色わりーよ。
家の中でわちゃわちゃしているうちにモヤが人の形になっていく。
女の人だ。鮮やかな赤い膝丈のワンピースに黒い帽子、黒のパンプスを履いて黒いレースの手袋。黒いボブの髪に切れ長の目。形の良い唇には赤い口紅。手には黒い小ぶりのバック。
わぁ大正モダンガールだ。しかも美人。
日本人は初めてだ。
「ごきげんよう。」と挨拶された。
窓を開けて庭に出た。
「ご、ごきげんよう。ま、まち、待ち合わせですか?」どもったー。
「ええ。迎えがじきに来ると思いますわ。」
昨日の雨で水溜りがあちこちにある。
誰かさんと違って私は冷静。
「そうですか。ところで、足元濡れませんか?」
「ええ少し。」
「こちらだと濡れないのでどうぞ。」
ティーちゃんを抱いてこっちにやって来た。
「お茶でもいかがですか?美味しい紅茶ありますよ。」
「まぁ紅茶?いただきます。」
私は紅茶とお菓子を出した。お菓子はカステラ。ティーは煮干し。
モダンガールは上品にカステラを食べた。
上品に食べる姿も癒しだねぇ。
パートナーも一緒にお茶を飲む。ティーちゃんを見てなんだか癒されてるようだ。
モダンガールは美鈴さんと言って商人の家に生まれたそうだ。女学校時代に婚約をしていたが相手の方が戦争で亡くなってしまった。最後に届いた手紙には「もし、僕がいなくなっても君は精一杯生きて下さい。」と。彼以外とは結婚したくなかった。だから卒業した後はモデルとして職業婦人になった。雑誌の表紙に載った事もあるんだって。それと探偵みたいな事もして事件をいくつか解決した。その後はモデル会社を立ち上げて成功。
晩年は、海の見える家で穏やかに余生を過ごした。と。
うーんなんかどっかで聞いたような話だな?
パートナーもなんだか不思議そうにしている。
急に風が吹いてザッと雨が降ってきた。
美鈴さんの帽子が高く飛んだ。
ティーが「にゃーん。にゃーん。」と鳴いた。
すると桜の木の横に空から沢山の光りの粒がやって来て人の形になった。おっ違うパターン?
男の人だ。上下白で金ボタンの軍服?と白い鍔付きの帽子で正面にイカリのマーク。海軍の軍人さんの正装かな?少し茶色っぽい髪と濃い茶色の瞳、日に焼けた精悍な顔つきの美丈夫。体格はスマート系でえらく姿勢がいい。ティーになんか似てる。この軍人さんはきっと美鈴さんの婚約者だ。手にはさっき飛ばされた美鈴さんの帽子があった。
軍人さんは、ゆっくりとこちらに向かってやって来た。
「美鈴さん。お久しぶりです。」
「光太郎さん。お会いしたかったです。」
彼は持っている帽子をかぶせてあげる。
「僕もです。よく一人で頑張りましたね。これからは二人で、いろんな事を沢山しましょう。」
「ふふっ。それは楽しみです。」
「では、参りましょうか。」
「ええ。」
そう言いながら手を繋いで桜の木に向かって歩く。
ティーが「にゃーん。」と鳴く。
いつのまにか雨がやみ桜の木から虹が空に向かってのびる。
「ゆめさん、しゅんやさんお紅茶美味しかったわ。ありがとう。それではごきげんよう。」小さく手を振り微笑む。光太郎さんは軍人さんらしく敬礼をする。
「ごきげんよう。」私達も手を振る。
虹を渡って二人は腕を組んで歩いていった。
ティーは「にゃーん。にゃーん」と鳴く。虹が消えるまで私達は見送った。
そしてティーは庭を横切って行っしまった。
いつもの事だが冷たいな。
「僕の名前知ってた...。どうして...。」
「名前教えてないのに呼ばれるってなんか怖いよね。」
「そう、それ。」
「前の時、あのほうきの時に[名前を書いたから]って言われたんだよ。」
「名前を書いたって?なんだろうね?」
「なんだろう。それと美鈴さんの話、しゅんちゃんはどう思う?」
「なんか知ってる話だった。」
「ね?それ私もずっと気になってた。それと私達の名前は関係あるかな?」
「そうなのかなぁ。」
「うーん。わかんないや。」
夕方、ご飯の用意をする。
晩御飯はーカレー。
あと福神漬けとらっきょう。
デザートは桃。
食後のお茶はほうじ茶。
二人で話すのはやっぱりあの話。
パートナーはまだ考えてる。
「名前を書いた、書いた。んんっ。どこに?書類、手紙、持ち物?」
「持ち物といえば、子供の頃はいろんな物に書いたねぇ。」
「ハンカチ、筆入れ、鉛筆、ノート、教科書とかおもちゃとかゲームのカセットとか。」
「うん。あと買ってもらった本とか漫画とか。」
「本?」
「あっ!!!」
「本だ。そうだ本だ!!」
「美鈴さんの話も本!」
「それだ!!」
二人で出した答えは[本]でした。
そう、私は本に名前書いちゃう派なのだ。
家にはロフトがあって、そこに沢山の本がある。しばらく読書する余裕がなかったので、放置していた。読んでいない本も何冊かあるだろう。その中から、私達は一冊の本を探し出した。
本の題名は[[モダンガール探偵]]
主人公はモデルの美鈴さん。事件を次々と解決していく推理小説。事件を解決し「ごきげんよう。」と颯爽と去っていく。そんな内容。女学校時代や設立したモデル会社の話は一切書いていない。婚約者の事は少しだけ。
本の[モダンガール探偵]は彼女の人生の一部分だったんだ。
[[モダンガール探偵]]はパートナーが私にプレゼントをして貰った本だ。
裏表紙に[toゆめfromしゅんや]と書いてあった。
これで謎が解けた!!
また今日も夢を見た。
広い草原を馬が走っている。
その馬の背中には美鈴さんを抱き抱えるようにして光太郎さんが手綱持っている。なんかとても楽しそうにしている。光太郎さんて姿勢いいな。これは、二人でしたかった事の一つなんだろうな。
「おーい。おーい。楽しいかーい。」
「はーい。」こちらにやって来た。
「さすがだね。カッコいいねぇ。」
「ありがとうございます。ゆめさんも、しゅんやさんといろいろな事したらいいですよ。」
「いろいろねぇ。なにしようかな?」
「沢山あるわ。ボートに乗ったりピクニックしたり花火を見たりとか。」
「そうだね。」とりあえず...草むしりとか?
〜〜〜〜〜〜〜〜☆〜〜〜〜☆〜〜〜〜〜〜〜
僕は夢を見た。
あの二人の夢だ。
二人は広い湖で手漕ぎのボートに乗っている。
さすが海軍の軍人さんだ。オールを漕ぐのが慣れてるようだ。それに姿勢めっちゃいい。
僕は岸でその様子を見ている。
空は星がでて湖面にも星が写っている。
まるで宇宙にいるような気分。すごく綺麗だ。
そこに大きな打ち上げ花火が上がる。それが湖面に写る。幻想的な光景だ。
ゆめちゃんと一緒に見たかったなー。
「一人でも出来る事を二人でするとより楽しい。そういう事って沢山ありますよ。是非、楽しんで。」そうボートの上から光太郎さんが言った。
「はい。そうします。」僕はそう返した。
一人より二人で、か。
夏休みもらったら花火大会に誘ってみようかな。
そこで目が覚めた。
ゆめちゃんはまだ寝てる。なんだかしあわせそう。どんな夢みてるんだろう。
僕もまだ寝ていたいけど先におきて身支度をする。
そろそろ起こそうかな。
「寝坊助ゆめちゃん。朝だよ。」
「はっ!!」と急に起きあがった。
起こしたこっちがびっくりだよ。心臓バクバクだよ。
僕はさっそく「夏休みは花火大会に行こうね。」と誘ってみた。
「ふふっ突然だなぁ。行けるように頑張る。」
「あと、ドライブとか旅行とかキャンプとかいろいろ。」
「そうねぇ。まずは草むしりかな?」
えっ、ゆめちゃんまだねぼけてる?
こんな朝のやりとりもちょっとしあわせ感じるな。
さて、今日は無事に仕事に行けるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます