12 勝利への不安
8月の終わり、ベルリンの空気は重く、私は深い思索に沈んでいた。夜の帳が降りると、窓から見える都市の灯りは遠く、ぼんやりと滲んでいた。まるで、その光が私の心の中の漠然とした不安を映し出しているかのようだった。ヒトラーの命令により、ドイツはポーランドとの戦争へと突き進んでいたが、私の胸には拭いきれない疑念が残っていた。
ポーランドやフランスは大丈夫だろう。彼らの軍事力を侮るわけではないが、我々ドイツ国防軍の緻密な計画と戦術をもってすれば、短期間で打ち負かすことができるという確信があった。実際、ヒトラーもまたそのように楽観視していた。しかし、私はその先にあるさらなる敵、すなわちイギリス、ソ連、そしてアメリカの存在が気にかかっていた。
イギリス、その名を聞くたびに、私は心の中で恐怖を覚えた。彼らは海を越えて存在し、強力な空軍と海軍を持つ。その兵力は膨大であり、我々が容易に対抗できる相手ではない。いかに我が国の空軍が成長しつつあるとはいえ、まだイギリスの戦闘機や爆撃機に匹敵する力を持っているとは言い難い。ましてや、彼らの艦隊は海を支配しており、ドイツの貿易航路を封鎖し、資源の供給を断つことができ、いざとなれば本国を防衛することもあるだろう。
さらに、ソ連の存在も私を不安にさせていた。スターリンの下で再編成されたソビエト連邦は、膨大な数の兵士と巨大な工業力を誇っている。その国土は広大で、仮に戦争が東方へと広がれば、我々は終わりなき戦いに巻き込まれることになるだろう。独ソ不可侵条約が締結されたとはいえ、私の心にはいつも疑念が残っていた。ソ連は果たしてどこまで我々に協力するのか? その約束が破られる可能性は常に存在するのだ。
そして、アメリカ。彼らは今、戦争から距離を置いているが、その国力は底知れない。経済力、工業力、そして技術力――いずれも我々を凌駕するものであり、もし彼らが参戦することになれば、ドイツは立ち向かうすべを失うかもしれない。アメリカは、戦争において兵士を無限に補充できるだけでなく、武器や物資も無尽蔵に供給できるだろう。
私は、これらの敵に対してどのように戦うべきかを考え続けていた。ヒトラーは、イギリスやフランスを屈服させれば、他の敵もまた我々に屈するだろうと信じている。しかし、私の胸には、ただポーランドやフランスを打ち負かすだけでは終わらない、終わりの見えない戦争が待ち受けているのではないかという恐れが拭いきれない。
ドイツは今、勝利への道を突き進んでいるように見える。しかし、その道の先には、私が恐れる巨大な敵たちが待ち構えているのではないかと、私の心は重く沈んでいった。戦争の始まりはすでに決定されており、私はその流れを止めることができない。しかし、少なくともこの不安を胸に抱きながら、我々が進むべき道を見極め、最善の策を講じなければならないと、私は自らに言い聞かせた。
窓の外の光は、ますます暗く、遠くなっていくように見えた。私の心は、戦争の運命と、国の未来を思い描きながら、揺れ動いていた。
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