10 ゲーリングとの会談

ベルリンの空が灰色に曇る中、私は次なる会談の場へと向かっていた。今度の相手は、ドイツ空軍総司令官ヘルマン・ゲーリング。かつて第一次世界大戦のエースパイロットとして名を馳せた男だが、今や彼はドイツ空軍の最高責任者として、戦略の舵取りを担っている。彼を説得することは容易ではないだろうが、私はそれに挑む覚悟を決めていた。


ゲーリングの執務室に入ると、彼は私を迎えた。彼の表情にはいつもの自信と誇りが漂っていた。私は彼に敬礼し、挨拶を交わした後、本題に入った。


「ゲーリング総司令官、今日はドイツ空軍の戦略について話し合いたいと考えております。」私は慎重に言葉を選びながら話し始めた。「現在、空軍は主に戦術的な役割を果たしており、陸軍を支援するための急降下爆撃機や中型爆撃機に重点を置いています。しかし、今後の戦争においては、戦術空軍だけではなく、戦略空軍としての役割がますます重要になると考えています。」


ゲーリングは私の言葉に耳を傾けながら、手元の書類に目を落としていた。私は続けた。


「例えば、Ju87急降下爆撃機やHe111、Do17といった中型爆撃機は確かに陸軍を助ける上で必要です。しかし、英国やソ連のような大国に対抗するためには、彼らの空軍基地や工場を直接攻撃し、敵を屈服させるための重武装・重装甲の戦略爆撃機が必要です。戦略空軍への転換こそが、我々の長期的な勝利を確実にする鍵だと信じています。」


ゲーリングはしばらく黙ったまま私の話を聞いていた。その後、彼はゆっくりと顔を上げ、私に鋭い視線を向けた。


「クリューガー、君の提案は理解できるが、私はドイツ空軍が陸軍と連携して戦うことを何よりも重視している。戦術空軍として、我々は陸軍の進撃を支援し、敵の地上部隊を圧倒することに力を注ぐべきだ。」彼の声には揺るぎない自信が感じられた。「重武装の戦略爆撃機は確かに強力だが、その開発には多大な資源が必要だ。そして、それは今のドイツ空軍の主要任務とは一致しない。」


私はゲーリングの反論を予想していたが、それでもなお、もう一度説得を試みた。「総司令官、戦術空軍の重要性は認めますが、長期的な視点で見れば、戦略空軍としての役割も無視できません。特に英国やソ連のような国々を打倒するためには、彼らの戦争能力を根本から破壊することが不可欠です。そのための戦略爆撃機の導入を、今こそ真剣に検討すべきだと思います。」


しかし、ゲーリングの態度は変わらなかった。彼は冷静に、しかし断固として答えた。「クリューガー、私はドイツ空軍が今後も戦術空軍として陸軍を支援し、地上戦を有利に進めるために全力を尽くすつもりだ。戦略空軍への転換は、今の我々には必要ない。」


その瞬間、私はこの会談が失敗に終わったことを悟った。ゲーリングはドイツ空軍を戦術的な役割に限定し、私の提案する戦略的な視点を受け入れるつもりはなかった。


「分かりました、総司令官。」私は静かに言った。「私の意見をお聞きいただき感謝します。」


ゲーリングは短くうなずき、私は彼の執務室を後にした。廊下に出た瞬間、私は深いため息をついた。この会談もまた失敗に終わった。ゲーリングの空軍に対する見解はあまりにも固く、戦略的な転換を提案する余地はなかった。


しかし、私はまだ諦めるわけにはいかなかった。空軍の協力がなければ、総力戦を勝ち抜くことは困難だ。これから先、私は別の手段を講じて、全軍の連携を実現する道を模索し続けなければならない。

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