9 レーダーとの会談

私は次なる任務に向かっていた。ドイツ海軍総司令官エーリヒ・レーダーとの会談は、私にとって一筋縄ではいかないものだった。レーダーは海軍を愛し、その威信を何よりも重んじる人物だ。彼のような男を説得するのは容易ではない。しかし、私は国防軍最高司令部(OKW)の新たな作戦参謀長として、全軍の協力体制を築く必要があった。


レーダーの執務室に入ると、彼は私を迎えたが、その目には冷静な鋭さがあった。私は敬礼し、形式的な挨拶を済ませた後、すぐに本題に入った。


「レーダー提督、我々はフランスを屈服させた後、英国本土への侵攻作戦を計画しています。しかし、現状では水上艦隊の建艦計画が我々の戦略に対してどれだけ有効かを再考する必要があると考えています。」私は慎重に言葉を選んで話し始めた。「現在建造中のシャルンホルスト級巡洋戦艦2隻、ビスマルク級戦艦2隻、ドイッチュラント級ポケット戦艦3隻、そしてアドミラル・ヒッパー級重巡洋艦5隻は重要ですが、これ以上の建艦は一時停止し、限られた資源をより効果的に活用すべきです。」


レーダーは無言で私の言葉を聞いていたが、その表情は硬い。彼がどのように受け取っているかを測ることは難しかった。私は話を続けた。


「特に、機雷敷設やソ連への補給妨害のための小型艦や潜水艦(Uボート)、さらに食料輸送のための輸送船に資源を割くことが急務だと考えます。空母の建造については、日本の空母機動部隊の支援を利用し、インド洋での作戦に集中させることで、我々の戦力を補完できるでしょう。」私は一息つき、レーダーの反応を待った。


彼はしばらく考え込んでから、静かに口を開いた。「クリューガー、君の意図は理解できる。確かに、英国本土への侵攻を考えると、資源の再配分は重要だ。しかし、海軍はその独立性と誇りを持って行動してきた。我々の艦隊が国防軍最高司令部(OKW)の指揮下に入るという提案には、慎重に対応する必要がある。」


レーダーの声は冷静だったが、その言葉の裏にある抵抗感が明確に感じられた。私は彼を説得しようとさらに言葉を続けた。


「提督、イギリス侵攻作戦が成功するためには、海軍と陸軍、そして空軍が一丸となって協力することが不可欠です。水陸両用侵攻の際、OKWが全体の指揮を取ることで、全軍が統一された作戦を実行できるようになるのです。」


しかし、レーダーの表情は変わらなかった。彼は毅然とした態度で答えた。「クリューガー、私は君の提案に一定の理解を示す。しかし、艦隊の移動や戦闘についての権限は海軍総司令部(OKM)が保持すべきだ。我々は海の戦いでの経験と知識を持っており、それを無視することはできない。」


その瞬間、私はこの会談がうまくいっていないことを悟った。レーダーは水上艦隊の建艦計画については一定の妥協を見せたが、肝心のイギリス侵攻作戦における指揮権の問題については、譲歩する意思がないことが明らかだった。


「分かりました、提督。」私は静かに言った。「私の意見を聞いていただき感謝します。今後とも、我々が協力し合えることを願っています。」


レーダーは微かにうなずき、私は彼の執務室を後にした。廊下に出た瞬間、私は深く息をついた。この会談は失敗だった。レーダーの反応は予想以上に硬かった。彼の海軍に対する誇りと独立性への執着は、私の提案を受け入れることを困難にしていた。


しかし、戦争はまだ始まっていない。これから先、私は他の方法で海軍を説得し、全軍の連携を実現する道を模索しなければならない。どんな困難が待ち受けていようとも、私はこの責務を果たすために全力を尽くす覚悟だった。







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