8 ブラウヒッチュとの会談
1939年の夏、ベルリンは戦争の気配を色濃く漂わせていた。私は、ドイツ国防軍最高司令部(OKW)の新たな作戦参謀長として、まず最初に取り組むべき課題があると考えていた。それは、陸軍総司令官ヴァルター・フォン・ブラウヒッチュとの関係を築くことだった。
ブラウヒッチュ将軍の執務室に向かう道すがら、私は彼の性格と立場について熟考していた。彼は伝統に忠実であり、専門的な能力においては誰もが認めるところだったが、ヒトラーに対しては物足りなさを感じる人物でもあった。私が直面するのは、こうしたブラウヒッチュの一面だった。彼を説得し、陸軍総司令部(OKH)の権限を一部でも我々のものにしなければ、私の任務は成し遂げられない。
執務室の扉が開かれ、ブラウヒッチュ将軍が立ち上がって私を迎えた。高い天井に響く彼の声には、何か重苦しいものが含まれているように感じた。私は敬礼し、形式的な挨拶を交わしてから、本題に入ることにした。
「将軍、我々は目前に控える戦争に向けて、全軍の指揮系統をより効率的にしなければなりません」と私は慎重に言葉を選んで話し始めた。「特に、陸軍総司令部(OKH)と国防軍最高司令部(OKW)の協力が不可欠です。現行の体制では、各軍が独立して指揮を行っており、統一した戦略が欠けているのは明白です。」
ブラウヒッチュは一瞬、考え込むように私を見つめた。彼が返答するまでの間、私は彼の内心を探ろうと試みた。彼が感じている不安や迷いを理解し、そこに私の提案がどれだけ響くかが、この場の成否を決める鍵となる。
「クリューガー、確かにおっしゃることは理解できる。しかし、陸軍の独立性は、我々の伝統と誇りの一部でもある。陸軍が他の部門と対等に扱われることに不安を感じる者も少なくない。」彼の声は冷静だったが、その裏に隠された懸念が伝わってきた。
「将軍、もちろん、陸軍の独立性と誇りを尊重することは大切です。しかし、今こそ我々は、戦争の複雑さに対応するために全軍の力を一つに結集させる必要があります。統一した戦略がなければ、ヒトラー総統の指示を効果的に実行することは難しくなります。」私は一歩前に出て、彼に向かって言葉を続けた。「西部戦線と北アフリカ戦線において、OKWが全体の指揮を取ることを提案します。その一方で、東部戦線に関しては、作戦計画を我々が立案し、指揮はOKHが行うという役割分担をしてはいかがでしょうか。これにより、両部門が連携しつつも、陸軍の独立性を維持することができます。」
ブラウヒッチュはしばらくの間、黙って私の提案を吟味しているようだった。彼の目に一瞬の迷いが浮かんだが、やがてそれは決意に変わったように見えた。
「クリューガー、君の提案には筋が通っている。しかし、これがうまくいくかどうかは、我々がどれだけ協力し合えるかにかかっている。」彼は少し硬い表情で言ったが、その言葉には前向きな意志が感じられた。
「ありがとうございます、将軍。私も全力を尽くしてこの体制を成功させます。我々が力を合わせれば、必ずや勝利を手にすることができるでしょう。」私は力強く答えた。
こうして、ブラウヒッチュとの会談は成功に終わった。OKHとOKWの間に新たな協力体制が築かれ、西部戦線と北アフリカ戦線の指揮はOKWが取ることとなり、東部戦線においてはOKHが指揮を担当することが決定された。
これが、ヒトラーの期待に応えるための第一歩となった。私は、自らの責務がますます重くなるのを感じつつも、ブラウヒッチュの協力を得たことに一抹の安堵を覚えていた。この新たな協力体制のもと、ドイツの戦略はさらに一歩前進し、我々はヒトラーのビジョンを現実のものにするための大きな一歩を踏み出したのであった。
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