3 スペイン内戦

一九三六年七月、スペイン内戦が勃発した。私にとって、これは重大な転機となる出来事だった。ドイツ総統アドルフ・ヒトラーの命により、国民戦線軍を支援するため、ドイツ空軍の一部が北アフリカへ派遣され、その後、コンドル軍団として正式に編成された。この新たな戦場は、ドイツ軍にとって最新装備や新戦術の実験場となり、戦闘機や爆撃機が次々と投入された。


私はベルリンの空軍本部でこれらの動きを注視していた。彼は、新たに実戦投入されたメッサーシュミット Bf 109戦闘機、ハインケル He 111爆撃機、ユンカース Ju 87急降下爆撃機、ドルニエ Do 17などの性能が実証されつつあることを知り、複雑な思いを抱いていた。

これらの機体が成功を収めれば、それはドイツ空軍にとっての勝利であり、戦争遂行能力の向上を意味する。しかし、私には一つの懸念があった。これらの戦術爆撃機があまりにもうまく機能し、戦場での成果を上げることで、戦略爆撃機の開発が軽視される危険があったのだ。

戦術爆撃機は、前線での即時的な支援や敵の陣地を直接攻撃するのに適していたが、私が強く主張してきた戦略爆撃機とは根本的に異なる目的を持っていた。私が求めていたのは、遠距離から敵の重要なインフラを破壊し、戦争の行方を根底から変える力を持つ爆撃機だった。


私は、特にイギリスとの将来の戦争を見据えていた。イギリス本土を攻略するためには、まずその防空能力を無力化し、さらに戦争の遂行を支える産業基盤を徹底的に叩く必要がある。しかし、もし戦術爆撃機の成功によって戦略爆撃機の開発が後回しにされれば、その目標は達成不可能になるかもしれない。

さらに、東方のウラル山脈を越えた工業地帯への攻撃も同様に困難になるだろう。スターリンのソビエト連邦が疎開させるであろうこれらの工場は、モスクワよりさらに東に位置しており、既存の戦術爆撃機では手の届かない場所だった。ここを攻撃するためには、長距離を飛行し、重い爆弾を積載できる戦略爆撃機が不可欠だった。

しかし、もしコンドル軍団で使用された爆撃機が十分な成果を上げれば、ドイツ空軍内の意識は、戦術的な爆撃機の運用に集中し、戦略的視点を欠くことになるかもしれない。これでは、イギリス本土航空戦やウラル爆撃といった、大規模で決定的な戦略的行動が可能になる日は遠のいてしまう。


私は、この危機感を胸に秘めながらも、冷静に状況を分析していた。彼は、今こそ自らの考えをさらに強く主張し、戦略爆撃機の開発を推進する必要があると感じていた。ドイツが戦争に勝利するためには、戦術的な勝利だけでなく、長期的な戦略を見据えた戦力の構築が不可欠だった。

彼はヴェーファー将軍との会話を思い出しながら、自らの決意を新たにした。戦術爆撃機がどれだけ成功を収めようとも、戦略爆撃機が開発されなければ、ドイツの未来は脆弱なものとなってしまうだろう。イギリス本土を攻略し、ソビエト連邦の工業地帯を破壊するためには、今こそ戦略爆撃機の開発に全力を注ぐべき時だ。

クリューガーはデスクに向かい、さらなる行動計画を練り始めた。彼の頭の中には、ドイツ空軍の未来が鮮明に描かれていた。コンドル軍団の成功がどれほど素晴らしくても、それは単なる序章に過ぎない。ドイツがヨーロッパにおいて覇権を握り続けるためには、より大きな視点で戦争を捉え、戦略的に行動することが求められるのだ。

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