2 高高度戦略爆撃機への道

1936年6月下旬、私は、ベルリンのドイツ航空省の一室で、ヴァルター・ヴェーファー将軍と向き合っていた。窓の外には曇り空が広がり、冷たい風が街路を吹き抜けている。二人の将校は、これからのドイツ空軍の未来について、重要な話し合いを行うところだった。


「将軍、あの事故からよく生き延びられましたね。」私は静かに切り出した。彼の声には、敬意と驚きが交じっていた。ヴェーファーは一瞬、過去の記憶を辿るように目を細めたが、すぐに穏やかな微笑を浮かべて答えた。

「そうだな、あれはまさに奇跡としか言いようがない。しかし、生き延びたことで、私にはまだ果たすべき役割があるのだと痛感したよ。」

私はゆっくりと頷き、話を本題に移した。「将軍、私たちがここにいるのは、ドイツの未来を担うためです。そのために、空軍の戦略をさらに強化し、戦略爆撃機の開発を推進することが不可欠だと考えています。」

ヴェーファーは興味深げに私の顔を見つめた。「戦略爆撃機、というと、具体的にはどのようなものを想定しているのかね?」

「高高度超重爆撃機の開発を本格的に進めるべきだと考えています。」私は力強く答えた。「将軍がおっしゃったように、もしソ連と戦争になった場合には、東方にはスターリンが疎開させた重要な工業地帯があり、地上軍がそこに到達するのは難しいでしょう。イギリスと戦争になった場合には激しい迎撃が予想されます。しかし、戦略爆撃機を使えば、地上からでは手が届かない場所にも確実に打撃を与えることができます。」

ヴェーファーは黙って私言葉を聞き、考え込むように顎に手を当てた。彼は空軍参謀長として、空軍の将来を見据えた計画を立ててきたが、その中でも戦略爆撃機の重要性は常に念頭に置いていた。しかし、実際にそれを推進するとなると、多くの障害が立ちはだかることも理解していた。

「高高度超重爆撃機は大きな可能性を秘めているが、その開発と量産には莫大な資源が必要になるだろう。また、現在の空軍は急降下爆撃機や小型爆撃機に重点を置いている。戦略爆撃機にリソースを割くことが、他の作戦に影響を及ぼす危険もある。そしてヒトラー総統は近いうちに戦争を起こすだろう。そのためには戦術的に役に立つ急降下爆撃機や中型爆撃機が必要になってくるはずだ。」

私は即座に反論した。「将軍、それは承知しています。しかし、私たちが今、戦略的視点から見据えなければならないのは、ドイツの長期的な勝利です。イギリスやソビエト連邦に対して優位に立つためには、遠距離から敵の心臓部を攻撃できる能力が不可欠です。高高度超重爆撃機はその鍵となる機体です。」

ヴェーファーは私の熱意に感銘を受けつつも、慎重な姿勢を崩さなかった。「君の言うことは理解できる。しかし、それでもなお、現実的な問題が残る。戦略爆撃機の開発にどれほどの時間と資源がかかるかを正確に見積もることが必要だ。私たちが他の部門に負担を強いることなく、どのようにしてこの計画を実現するかを慎重に考えねばならない。」

私は一歩踏み出し、ヴェーファーに真剣な眼差しを向けた。「将軍、これこそがドイツの未来を決定づけるプロジェクトです。私たちが今行動を起こさなければ、後に後悔することになるでしょう。高高度重爆撃機の開発と量産が成功すれば、私たちはソビエト連邦やイギリスを打ち負かし、ドイツがヨーロッパにおいて揺るぎない地位を築くことができるのです。」

ヴェーファーは深く息をつき、私の情熱に心を打たれたようだった。彼もまた、ドイツ空軍の将来を憂い、そのための最善策を常に模索してきた。しかし、この計画を推進するには、軍全体の協力と、多くのリソースを必要とする。最終的な決断を下すには、さらなる検討が必要であることを理解していた。

「君の言うことは非常に理にかなっている、クリューガー大佐。」ヴェーファーは慎重に言葉を選びながら答えた。「この計画が成功すれば、確かにドイツ空軍は世界でも類を見ない力を手に入れるだろう。しかし、私はまだいくつかの点で確信が持てない。もう少し時間をかけて、細部を詰めていこうではないか。」

私はその言葉に安堵しながらも、さらに意志を強くした。「もちろんです、将軍。私たちは共にこの計画を成功させ、ドイツの未来を築くために全力を尽くします。」

ヴェーファーは再び微笑んだ。「君の熱意は素晴らしい。私も君と共に、ドイツ空軍を世界最強の空軍にするために尽力しよう。」


私は深く頭を下げ、部屋を後にした。私は自らの任務がいかに重要であるかを再確認し、心の中で決意を固めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る