薄い壁と薄い本

空野そら

プロローグ【202号室と201号室】

~~一言書置き~~

やっぱりおっぱい太ももデカお姉さんによる膝枕って最高だと思うんだ。

                                以上終わり。

~~~~~~~~~


 ガタン...コトン...ガタン...コトン...

 電車がレールの繋ぎ目を踏む音は子守唄かの様に睡魔を呼び出し、不規則な電車の揺れは疲れ切った現代人に睡眠を唆してくる。

 電車の中はヨレッとしたスーツを身に纏ったサラリーマンが首を下にしていたり、手すりに寄りかかったりしながら腕を組んで眠っている。

 そんな現代社会の闇、と言ってもいい光景の中に不相応な格好をしている者が一人。


 何処かの高校の制服のようなブレザーを身につけ、ガクン、ガクンと首を縦に振っている。 現実世界と夢の狭間を彷徨っているようで、細く瞼を開けている。

 しかし、電車内に一つのアナウンスが入ると冷水を掛けれられたかの如く意識をハッキリさせ、席を立つとドアの前に立つ。

 その恰好は終電間近の電車内では異様かもしれないが、疲れ切った社会人は自分の事で精一杯の為、特に誰も気にした様子を出さない。

 少しすると、特徴的なポップ系のメロディーと共に電車のドアが開く。高校生と思わしき男はホームへと降りると、一度振り返って電車が出発していくのを見送る。



「......痛い...のか...?」



 そう呟くと駅を出るために歩を進める。改札を出て、階段を下りた先にはバスやタクシーが停まるロータリーがあり今は一、二台ほどしかタクシーは動いていない。

 そんなロータリーの中央にある時計台の針はすっかり十二時を回っていてバスが動いていないのは明白なことだった。

 人も数人しかいないロータリーは静まり返っていて、歩く音がよく聞こえる。男は一寸の迷いもなしに足を進めると、路上近くに設置されているコイン駐輪場の前で足を止める。


 そこには数十台ほど自転車が停められており、前輪がロックされている状態だ。男はその中から自分の自転車を見つけると、機械にお金を投入してロックを解除する。

 自転車を取り出すと、そそくさと跨ってペダルに足を乗せ、力強くペダルを漕ぐ。

 6月の夜は湿気が酷く、蒸し暑い。自転車である程度の速度がつき、当たる風がある分いくらかマシに感じるものの、それでも額に汗が滲み出てきている。

 長い直進に差し掛かったところで片手をハンドルから離して伝ってくる汗を拭き取ると数回力強くペダルを押し出して少し脱力し、自転車を滑走させる。



「......フゥ~~~」



 溜まったストレスを一気に解放するように深く息を吐くと、少しボーッと遠くを眺める。そして今日一日について思い出す。

 今日はいつものように高校で勉学に励み、放課後にはお客に文句を言われながらバイトを二個掛け持ちし、終電間近の電車で最寄り駅まで帰る。自転車で夜風に吹かれながら自宅に帰る。


 果たしてこの生活は高校生にとって青春を過ごしていると言えるのだろうか。

 そんなことを考えても仕方がないと頭を振って視線を前に戻す。すると強烈なほどの白い光が視界一杯に広がった。


パアァァァ——!!!!


 甲高く、耳に刺さるような不快感が残る車のクラクションが辺りに響く。男は急なことだったため咄嗟の判断ができず、ただ呆然と迫りくるヘッドライトを見つめてエンジン音に耳を傾けることしかできなかった。

 だが、間一髪のところで車がハンドルを切ってくれたおかげでなんとか衝突は免れた。呆然としていると、いつの間にか自転車は力を失いゆっくりと停車した。

 辺りが怖いくらいに静まり返っているせいなのかドクドクドクドクと早く、そして力強く打ち付ける心臓の音が鮮明に聞こえてくる。


 数度深呼吸を繰り返し、体を落ち着かせてから後ろに振り向く。もうそこには車の姿はなく、寂しく街灯に照らされているアスファルトの道があるだけだった。

 男は一度大きな溜息を吐き、再度ペダルに足を乗せると、帰路につく。

 そこから大体10分程度漕ぎ続けると閑静な住宅街の中に一軒家に囲まれながら佇む一軒の二階建てアパートが姿を現す。アパートに隣接されている駐車場兼駐輪場に自転車を止めて前カゴからリュックを手に取る。


 アパートに目をやってみる。二部屋程灯りが点いていることが分かるが、それ以外の部屋は全て消灯しており床に就いているというのがよく分かる。いつも通りの光景なので何も思うこともなくトボトボと自室に向けて歩く。

 男の部屋は2階の端の部屋であるが故、階段を上る必要があるのだがその階段というのが鉄骨製であり一段一段踏むたびに大分大きな音が鳴ってしまう。毎日この音で迷惑を掛けてしまっていないかと思うと不安でしょうがない。

 ただ3ヶ月経った今でも何も言われていないため、大丈夫かと思ってしまう。

 そんなことを考えている内に部屋の前に辿り着いた。男はポケットの中からカギを取り出すと、カギの差込口に差し込んでそのまま回す。ガチャンという音がして開錠したことが分かる。ドアの取っ手に手を掛け、引っ張ってドアを開く。


 見慣れた玄関と、リビングへ直通している廊下、洗い物が溜まっている台所など朝と変わりない様子にドッと疲れが掛かるような感覚になり、足がふらついて廊下が長く感じる。

 あと数歩でリビング、というところで急に視界が狭まる。例えるなら酷い立ち眩みのような感じだ。

 次第に力が入らなくなっていき、壁にもたれかかりながら床に倒れ込む。さらに息も荒くなってきて、ゼ―ゼ―と苦しそうな呼吸を始める。

 何が起きたのかと男は疑問に思うが、そんなことを考えることができるほど今の状況に余裕はない。

 男はそんな状況の中死んでしまうのかと思ってしまい、ふと自分の願いを心の中で吐露する。


『あぁ、こんなことで死ぬんだったらおっぱいのデカいお姉さんにヨシヨシされたかったなぁ』と。


 すると次の瞬間——プツンと糸が千切れるようにして男の意識は闇の底にへと落ちて行くのだった。




「————さん。——ください——」



 頭の中に木霊こだまする甘く、とろけるような声。聞いたことのないようである気がする声に覚醒しきっていない頭は誰の声なのか判別することができず、ただ聞き流すことしかできない。

 体が揺さぶられ始めると徐々に頭が覚醒し始め、閉じていた瞼を開けることができるようになった。目を開けると眩しい程の光が入ってきて思わず目を細めてしまう。



「高霜さん。起きてください~。......あっ、起きましたか?」

「んんぅ............っ!? ど、どちら様ですか?」



 目が慣れたことで視界が開け、何が起きているのかと目の前を見てみる。すると二つの大きなたわわが目に入ってきて男——高霜大海たかしもおおみはビクッと肩を震わせる。

 そしてその正体を明らかにするために誰なのか尋ねると、予想外の言葉が返ってきた。



「隣に住む三澄です~。急に隣の部屋から大きな物音が聞こえたものですから、心配になって見に来たんです」

「は、はぁ......?」

「そうしたら高霜さんが廊下で倒れてて、すっごくびっくりしたんですからね?」

「す、すいません......」

「でも、どうしてこんなところで倒れてたんですか?」



 純粋無垢。そんな言葉がぴったりと当てはまるような言葉遣いと、声色に大海は思わずドキッとしてしまう。しかし、三澄と名乗る女性から質問が繰り出されそれについて思考を巡らせる。

 そして一つの結論に辿り着くと申し訳なさそうにしながら口を開く。



「多分ですけど最近忙しすぎて、それで体がもたなくなったのかなと」

「そうなんですか......。挨拶程度しか交わさない仲ですけど、これは言わせてもらいます。自分の体は一番大事にしてください!」



 起きて早々叱責を受けるというのは中々体験したことのないことであったため、大海は困惑の色を漏らしながらも平謝りをする。



「......ごめんなさい。私、自分を蔑ろにする人を見過ごせなくて」

「いや、俺が無理をした結果ですから......謝らないでください。それに俺は貴方に助けられたんですから」

「本当にありがとうございます。俺はもう大丈夫なので、すみませんこんな夜遅くに」



 そう言って大海は三澄の膝から頭を退けて立ち上がろうとするも肩に手を置かれ、力が込められて立てなくなってしまう。

 その行動に一瞬にして頭の中は混乱の一色だけとなり「へ?」と素っ頓狂な言葉を漏らす。肩に加わる力は次第に大きくなっていき、男であるはずの大海は足以外動かすことが不可能に近いほどだった。

 三澄は顔を大きなたわわ二つを越し、顔を覗き込ませてむっと少し可愛らしく怒ったような顔を見せるとどこか不満混じりの声を発する。



「まだ寝ててください」

「いや、でも」

「寝ててください」

「これ以上迷惑を掛ける訳には——」

「寝なさい」

「ハイ」

「ちゃんと朝に起こしますから、今はもっと寝ていてください」



 言われるがまま膝に頭を預けて少しの罪悪感を覚えつつも、それを上回るほどの睡魔に襲われて大海の意識は再び暗闇にへと落ちるのだった。




~~後書き~~

皆さまお久しぶりです。

空野 そら でございます。

まず初めに、1ヵ月もの間投稿期間が空いてしまい本当にすみません! そしてお待たせしました!

この一か月間特に何かがあった、という訳ではなくただただ執筆活動を疎かにして他の娯楽に浮気をしていました。

浮気だなんて本当に許せませんよね。ハイ 自分自身でも許せないです。

ですが、何とか戻ってくることができました。

久しぶりの執筆で書き直したところやアイデアが上手くで出てこなかったところは沢山ありましたが、なかなかの出来栄えに仕上がったのではないかなと思います。

至らない所があったと思いますが、それでもこの新作「薄薄(うすうす)」をよろしくお願いします。

それでは締めに入ろうかと思います。


誤字脱字・感想等はお気軽に、バシバシ送ってください! そしたら私と高霜くんがすっごく喜びます。

久しぶりの新作、少しの間はこれを投稿していこうかなと思っていますので応援のほどお願いします!

それでは皆様またの機会にお会いしましょう!

......うん。おっぱい太ももお姉さん膝枕は最強。ハッキリわかんだね

~~~~~~~

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薄い壁と薄い本 空野そら @sorasorano

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