第8話 クズの崩壊(遥視点)

グワァアアァァアアアアアアア!!!!!!!!!



灼熱ゴーレムの奥の扉から入ってきた……いや、ゴーレムすら通れそうな巨大な扉をぶち壊して入ってきたのは、巨大な竜だった。




「なっ……」

カランカラン……。


竜の姿を見たクソ野郎は剣を落として呆然とする。


私も驚いた。

あいつだ……。


96層でお兄ちゃんが撤退を決定したモンスター。

 

ビルくらいの高さ。

それに凶悪そうな顔に鋭い牙。


そんな奴が私たちを追ってきたんだ。


一歩あいつが歩くたびに巨大なボス部屋が揺れる……。



:なんだあれ?

:どうして奥から来るんだよ。

:あれ、より深い層から上がってきたのか?


「かっ、鑑定!ひぇ……暴走竜?なんだよそれ?琴音が言ってたやつか?」


クソ野郎が鑑定結果を見ながら1人で怯えてる。

見たなら情報共有しなさいよ。

リーダーなのに1人で落ち込んでどうするのよ?



:にっ、逃げろ!

:あんなの無理だ……

:どうしてだよ?まだ60層だろ?なんであんなのが……

:琴音ちゃんが言ってたってどういうこと?

:もしかして前回の探索で遭遇したのか?追いかけて来たとか……

:まじかよ?沖田使えねー

:どう見ても沖田さんのせいじゃないだろ?むしろあんなのからメンバー連れて逃げて全員帰還したのが凄いわ!



「くっ、マジックシールド!!!!」

私はメンバーを守るように魔法障壁を貼る。


暴走竜が口を開いたからだ。

ブレスが来る。


さっきの凄まじい光がブレスなのかどうかはわからないけど、とんでもない攻撃が来るはず。



そして暴走竜が口を開くと同時に視界が白い光に染まる。

やっぱりあの光線だ。


「伏せて!うわぁ~」

叫びながらも私は咄嗟に伏せる。

が、凄まじい衝撃が襲ってきて私は吹っ飛ばされてしまった。



前回は灼熱ゴーレムの胸に焦点が当たっていたけど、今回は地面を抉るように着弾したようだ。

私たちの目の前の地面に直撃したそれは地面ごと私たちを吹き飛ばした……私とクソ野郎と横田さんを。



ズシーン!!!ズシーン!!!ズシーン!!!


そして暴走竜が歩いてくる。

吹っ飛ばされた私たちは動けない。


体が千切れそうなほどのダメージを受けて無事だったのが幸運かもしれない。



そんなことを考えながらなんとか頭だけ上げると、暴走竜は琴音と綾香を見下ろしていた。



:なっなっなっなっなにを!!!?

:まさか琴音ちゃんたちを踏みつぶす気なのか?

:逃げて!早く!2人とも!!!!

:おい!葛野!2人を助けろ!

:誰でもいい!葛野でも横田さんでも遥ちゃんでも!誰か助けて!


「琴音!綾香!逃げろ!」

クソ野郎は……立ち上がってるくせに身動きもせず叫ぶだけだ。

なんて使えない。



そして暴走竜は長い爪にごつごつした皮膚で覆われた腕を地面に着き、首を降ろす。


:やっやめろ~!

:なにすんだ!?おい!ふざけんな!?


「ん……ん?ここは?」

「ん?……あっ……」


:おい!2人が目覚めたぞ!みんな叫べ!逃げろって!

:綾香ちゃん!気付いて!逃げて!


「琴音!綾香!逃げろ!上だ!!!」

「うぅ……上?……えっ……?」

「いやーーーーーーーーー誰か!助けて!助けて~~~!!!!!」

クソ野郎の無責任な声に琴音と綾香は自分たちに迫る暴走竜の口に気付き、発狂した。



逃げられるわけがない……手足をばたつかせているが、あれは魔力で押さえつけられてしまってる。

この無責任なクソ野郎は最後に2人を目覚めさせて、恐怖に染めただけ……。


手も足も出ない私たちが助けられるわけもない。


2人がこっちに気付き、涙を流しながら助けてと叫ぶが、私はまだ自分の回復もままならずに動けないし、クソ野郎は立ちすくんだままだ。


横田さんは……?

そう思うが見当たらない。



そして……


 

 

ガブリ!!!!!!!!!!!



「いや……」

「助け……」


泣きわめいていた2人の声が途絶え、暴走竜が再び立ち上がった。



もぐもぐと咀嚼しながら。


:食われたの?

:……げぇ……

:うわぁ……

:誰か配信止めろよ……見てらんないよ……

:まじかよ……えっ?琴音ちゃん死んだの?いやだよ……

:綾香ちゃんも。泣いてたよ……

:おぇえぇぇぇぇぇぇ……

 


「くそっ、撤退だ!」

2人を咀嚼する竜の姿を見て秀明が踵を返して入り口に向かう。

この部屋に入って時間は経ってるし、灼熱ゴーレムが倒されたため、入り口の扉は空いている。

 

:逃げた……まじか……

:まじかよ!まだ遥ちゃんともう1人いるだろ?

:放っておいて逃げたのかよ……

:最低だ……

葛野章人:みっ、みなさんこれはアクシデントです。想像を絶するモンスターが現れてしまったために

:うるせぇよ!お前の息子が仲間見捨てて逃げたんだぞ!?

葛野章人:ちがっ、違います。誤解です。

:なにがだよ。最低すぎる。まじかよ……

:おい、遥ちゃんが!


なんとか回復が終わった。

暴走竜は琴音たちを食べて満足したのか、その場から動いていない。いや、まだ咀嚼してる。


そして横田さん……。

やっぱりだ……。


暴走竜の放った光線の当たり方から考えて、明らかに私が狙われていた。

にもかかわらず私が生きている……。


着弾したと思われる場所の近くには横田さんが横たわっている。

その横には崩壊した盾と思われるものが散らばっている。


庇ってくれたんだ。

でもまだ生きてる。弱々しいけれど放たれている魔力……まだ生きてる。


ここは……。

ここはお兄ちゃんに頼るしかない。


こんな危険な場所に呼んでしまってごめん。

でも、私にはどうしようもないの。


「お兄ちゃん……」


:遥ちゃん!キミも逃げて!

:なにしてるの?

:もうダメだ。お守りに祈るだけ……

:ダメだよぉ、逃げて!お願いだから逃げて!

:誰か助けてくれ。頼むよ


 

怒られるかな?


私のことはいいの。

でも、庇ってくれた横田さんは助けてほしい。


葛野の前で使ったりしたら、どうせ文句を言われるだけだっただろうけど、あいつはとっとと逃げてしまった。

もう文句なんて言わせない。


この前はパーティー全員で逃走したけど、お兄ちゃんならあの暴走竜も倒せるはず。

だって、前回琴音があの竜に手を出してしまって攻撃を受けたときも涼しい顔でやり過ごしてたし、私たち足手まといがいなかったらきっと倒してた。



私はお兄ちゃんから貰ったお守りを取り出し、声をかける。


「お兄ちゃん、助けて」



私がお守りに話しかけると、空気が一転した。


いきなり空中に穴が開いて、そこから大量の魔力が流れ出してくる。


どういうこと?


魔力は通常濃い方から薄い方に流れる。

この穴がつながってる先は、ここよりも魔力が多いところ?


お兄ちゃん、フリーになったからってどこに行ってたの???



:なっ、なんだあれ?

:わからん。探索者さん教えて!

:わからんよ!俺たちだって見たことない

:空間の穴か。あれきっと魔力で作ってるな……

:ってことは?誰か来る?助けか?

:バカ言うな。あんな竜に対抗できるやつがいるのか?自殺行為だろ?

:でも来たじゃね~か!

:人間か?

:おい、あれ!



「お兄ちゃん!」

「あぁ、遥。無事か?」


私が呼んだ人は、飄々とした表情で私に応え、抱きしめてくれた。

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