第9話 沖田参上!

:あれ……沖田だ……

:なんで?なんで遥ちゃんが役立たずを?

葛野章人:沖田だと?

:役立たずな分けねぇだろ!見ろ!あの遥ちゃんの嬉しそうな顔を!

:助けに来たんだ。遥ちゃんの祈りに応えて!!!!

:まじかよ……そんなことができるならもっと早くやれよ!?

:うるせぇよ!命かけて動いてんだよ!

:葛野がいたときに呼んでも仲違いするだけだっただろうしな。

:琴音と綾香の2人の沖田さんへの対応も酷かった。

:文句言いそうなやつらが全員やられて、だからこそ呼んだんだろ。

:呼ばれて来るのがおかしくないか?

:あれはお守りよ?遥を守る……ね。

:せめて横田さんは……



「頑張ったな」

俺は遥の頭をなでながら、周りを見渡す。

酷いありさまだ。


「って、横田さん?」

「うん、お兄ちゃん、頼める?私を庇ってくれて」

「もちろんだ。ハイヒール!」

俺は横田さんを魔力で引き寄せ、回復させる。


「……私は……?」

「「喋った!!!?」」

「???」

あっ、驚かせたせいでまた黙っちゃった。

でも、もう2年の付き合いになるのに初めて横田さんの声聞いたな。

割と可愛い声だった。


:那月さんが!

:マジか!生きてたのか!

:遥ちゃんは気付いてたんだ。

:あとは逃げるだけだ!

 

「お兄ちゃん?」

「あぁ悪い。ちょっと衝撃的で。で、あれだな。あの竜を倒せばいいのか?」

「うん、お願い」

 

:って、なんでだよ!?逃げて!

:遥ちゃん、見てただろ?というか戦ってただろ?秀明たち誰も歯が立たなかったじゃね~か!?

:沖田!この際お前でもいいや。遥ちゃんと那月さん連れて逃げて!!



「あれは暴走竜だな。なんだよ琴音のやつを追ってきたのか?」


:えっ?どういうこと?

:なぜ琴音ちゃん?


「あぁ、配信続けてんのか。前回探索に来た時、96層だったな。琴音が不用意にあれに攻撃を撃ち込んでな。反撃喰らってボロボロになったから抱えて逃げたんだけど、なんか追っかけてきたんだよ。速度はこっちの方が当然早いから逃げ切ったけど、ずっと追いかけてきたんだろうな」


:なっ……

:まじかよ……

:不用意にってなんだ?モンスターと戦うのに不用意も何もないだろう


「あぁ、探索者じゃないとわからんか。竜みたいなプライドの高いモンスターはな、力と力の勝負みたいなのを好むんだよ。一方で、不意打ちとかは嫌うな。もし一撃で倒しきれないとそのあと怒って狙われ続けたりするから危険なんだ」


:そっ、そんなことが……

:いや、常識だから。竜が出るような層を探索するやつなら普通知ってる。知らないと致命的なことがあるからな。

:でも、ミスって攻撃したのは紘一だって琴音ちゃん言ってたぜ?それで自分が攻撃されて紘一が勝手に抱えて逃げたって


「まじかよ。あいつそんなこと言ってんの???」


皆川夢乃:言ってたわね


「夢乃さん。お疲れ様です」


皆川夢乃:紘一君もね。助かったわ。遥ちゃんと那月を助けてくれてありがとう。


「一応まだ暴走竜いるからちょっと倒してくるわぁ」

「お願い、お兄ちゃん」

「……頼む」

皆川夢乃:頼むわね。

 


まじかよ、横田さんの声を一日に2回も聞くなんて。

いやいや、ここは遥の期待に応えないとな。


 

「暴走竜か。とりあえず死んでくれ。冥府の門タルタロスポルタ


展開されたのはただただ黒い魔力。

それが暴走竜の四肢を捕える。

暴走竜は暴れるがビクともしない。


一方で黒い魔力は門を生み出す。

暴走竜が通れるほどの巨大な門を。


その門に向けて暴走竜は引きずられていく。


そして門を通過する傍から青白い粒子に分解されていく。


ギャーーーー!!!!


唸り声をあげ、光線を吐き、手足を暴れさせる暴走竜だが、まるで引力のような力に抗うことはできずに、消えて行った。


そして黒い門が消える。


:なんだあれ……

:おい……消えたぞ?

:一撃……あの竜を一撃???

:琴音ちゃんと綾香ちゃんも消えちゃった……



「ん?琴音と綾香も消えた?なんでだ?」

「それが……彼女たちは喰われてしまって……」

「南無」


葛野章人:ふざけるな沖田!貴様、それほどの力がありながらなぜ前回はおめおめと逃げ帰ってきたのだ!そんな力があれば100層攻略などたやすいだろう!!!


「説明する間もなく、失敗はお前のせいだとか言われたな?」


葛野章人:そもそも帰ってくる必要はなかっただろ!なぜサボった!


「いや、琴音が暴走竜の攻撃を食らって死にかけてたしな。それに暴走竜はボスじゃなくて雑魚モンスターとして出てきたんだぞ?見た感じ何百体もいたな。そんな場所にメンバー連れて探索するなんて、俺以外死んじまうだろ?だからいったん戻ったんだよ」


葛野章人:ダンジョン攻略すればその何倍もの人が助かるんだ!犠牲なんか気にするな!

 

:えっ?まじでこれ会長発言?

:やべぇ。一気にただのブラック企業と化したな、どうすんだよこの雰囲気。

:真面目に言ってるのがキモいな。

:あれだろ?前回の探索には葛野秀明はいなかっただろ?だから言ってんだろ。

:まじかよ。全員犠牲にしても沖田さんに攻略して来いとか言ってたのか?まじないわ~


葛野章人:なっ、違う。私は人類のことを思って……

:最低だな。

:どうせマスコミ使って失敗を沖田さんに被せたんだろ?

:マスコミにいくら払ったんだ?

:というかこいつの話を聞くマスコミもゴミだろ?やべぇな日本。

:でもいくらマスゴミでも一般人だからな。一般人に魔力当てるのはどうかとおもうぜ?ムカついたのは分かるけど。

 

「ダンジョン協会内にマスコミが流れ込んできたんだよ。協会内は別に魔力出してて問題ないからさ」


:えっ?まじで?あれ協会内だったの?

:完全な切り抜きの印象操作で草

:今映像見直したけど、確かに端っこに映ってる扉とか協会のものと一致するな

:まじかよ。協会とマスゴミが結託して沖田さんを貶めたってことか

:最低すぎて吐き気がするな

葛野章人:ごっ、誤解です。みなさんは何かを勘違いしている。


「この流れで誤魔化せると思えるのが凄いな。脳の中を見てみたい」

 

葛野章人:沖田!お前はダンジョン協会を脱退したにもかかわらず不法に侵入した罪で訴えてやるからな!覚えてろ!?

:いや、挑発に弱すぎて草

:挑発でもなくね?呆れてるだけというか

神谷英二:紘一君、無事なようで安心したよ。

:誰?

:えっ……神谷教授???

:だれ?

:ばか!ダンジョン研究の第一人者で世界ダンジョン協会員でもある帝都大の神谷教授だよ!

:偉い人?

:そりゃ偉いだろ。政府顧問だもんな。ダンジョン政策に関して政府に請われて意見できる立場の人で。

 

「あぁ、叔父さん。俺は大丈夫だよ。心配かけてごめんな」


神谷英二:無事ならいいさ。それで、葛野さん。私の甥であり、日本最強の探索者に対してやったことを教えてもらいたいものだな。もちろん公の場でな。追って正式に政府から通知がある。

葛野章人:はっ???

:やべぇ……思わず笑っちまった。

:【悲報】日本ダンジョン協会会長。勢い余って世界ダンジョン協会の会員であり政府顧問である神谷教授の甥御さんに濡れ衣を着せて追放してしまった件が発覚

:しかもマスゴミまで使って

神谷英二:あと、紘一君。頼みがあるんだが。いいかな?


「内容による。遥も那月さん……横田さんも疲れてるから」


神谷英二:そうか。では今日はやめておくが、次に挑むときは本気で東京ダンジョンを攻略してくれないか?メンバーは自由にしてくれていいから。


「わかった。遥と那月さんと、あとは俺の召喚獣で行くよ」


こうして騒動は終わった。

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