第17話 秘密の仕掛け

「おい、小童こわっぱ

「うわっ! びっくりしたぁ」


 最後のオトシモノはしゃべらないと思ってたから準備してなかったってのもあるけど、今までと違ってちゃんと顔があるからリアルすぎてより驚いた。


「下ろせ。わらわは自分で歩く」

「あっはい、すみません」


 見た目は子どもなのに中身は偉そうな大人だ。でもおばあちゃんの時代からあったやつだから納得はできる。


「して、小僧。名はなんと?」

「左東朔矢です」

「そうか。わらわはタマヨだ」

「お、お願いします」


 今まででいちばんしっくりくる名前だ。なんか時代を感じるな。


「して、サクヤよ。貴様はいま何をしておるのだ?」

「今はそのぉ……魔王様のオトシモノが十個集まったので、いつゲームが終わるのかと思ってた感じです、はい」

「なんだ聞いておらんのか」

「えっ?」

「十個集まってもクリアにはならんぞ」

「そ、そうなんですか!?」

「ふむ、その様子だと本当に知らぬようだな。魔王様もイジワルよのぉ」

「タマヨさん! どういうことか教えてください!」

「わらわも答えを知っているわけではない。ひとつ言えるのは、オトシモノをしっかり見ることだ」

「な、なるほど……」


 最後の最後でこんなことになるなんて……くそぉ。

 いま魔王様を呼んだとしても、どうせゲームバランスがどうとかで助けてくれないだろうから、ここは自分でなんとかしないと。


「いったん僕の家に帰っていいですか?」

「いちいち聞かんでもよい。わらわはサクヤについて行くだけだ」

「分かりました。じゃあ行きましょう」

「うむ」


 僕が歩き始めると、タマヨさんも歩き始めた。

 ちらっと後ろを見てみると、近くもないし離れてもない。タマヨさんの歩く速度は僕と同じくらいだ。いや、ただ僕に合わせてるだけか。

 でも、足が動いてるようには見えない。どうやって歩いてるんだろう。



 ——五分くらいで家に着いた。


「僕の部屋は二階にあるんですけど、階段はどうしますか?」

「問題ない」

「そ、そうですか」


 僕はそのまま自分だけで二階に上がった。すぐに後ろを見てみると、タマヨさんはすごい動きで階段を上っていた。

 両腕を後ろから回してきて、そのままバンッと次の段に叩きつけ、その勢いでジャンプする。これを一段ずつ繰り返している。着物姿のおかっぱ人形が。


「す、すごいですね」

「あまりこっちを見るでない。意外と恥ずかしいのだ」

「あっ、すみません。じゃあ先に行ってますね。僕の部屋は奥にあるので」

「うむ」


 よし。まずはタマヨさんが言ってたとおり、オトシモノをひとつひとつしっかり見てみよう。


 僕はツクリさんの中から今までのオトシモノを全部出した。もちろん、ポケットにしまったギンゴと、頭の上に乗せたハクトも忘れてない。


「すまぬ、遅くなったな」

「今から見ようと思ってたので大丈夫です」


 タマヨさんが着いたことで十個すべてそろった。


「じゃあ順番に見てみます」

「うむ」


 一個目はギンゴ。これはどう見てもただの五百円玉だ。特に変わったところはないと思う。


 二個目はサオリさん。見た目は普通の折りたたみ傘だ。開いてみても、何かが隠れてるとかはない。


 三個目はカーボ。元々は普通のサッカーボールだったけど、今は小さくしちゃったからハンドボールみたいだ。振ってみても音はしないから、中はからっぽだ。


 四個目はツクリさん。僕の背中にぴったり合うリュックだ。入れられそうなところを全部見ても何もない。外側も普通だ。


 五個目はメネカ。いわゆる伊達メガネだ。透視能力はすごかったけど、今はかけても景色は変わらない。取れそうな部品もなさそうだ。


「ふぅ……半分見終わったぁ」

「いつまでわらわを待たせる気だ?」

「す、すみません! すぐ確認します!」


 そうだ。タマヨさんはまだしゃべるんだ。またなんか言われないように早くしないと。


 気を取り直して、六個目はハクト。見た目はマジシャンが使ってそうなシルクハットだ。今は何を入れてもそのままだし、何かが出てくるとかもない。


 七個目はシイノさん。どこからどう見ても漬物石だ。割ったらガチャガチャみたいになんか出てくるとか……ないよね? うん、さすがにないよ。


 八個目はコウキ。いちばん簡単なタイプの紙飛行機だ。広げても何かが書かれてるとかはない。うん、真っ白だ。


 九個目はイズル。見つけたときにあった赤いバツマークはもうない。他の部分もしっかり見たけど、ヒントになりそうなものはないと思う。


「ふぅ……」


 ここまではなんも分からなかった。でもこれで最後だ。


「十個目はタマヨさん」

「やっとわらわの出番か」

「お待たせしました」

「着物は脱がすでないぞ?」

「はい」


 とりあえず気になってた足を見てみよう。


「……なるほど」


 両足の裏に小さな車輪がいくつか付いていた。ローラースケートみたいな感じだ。


「もうよいだろう。わらわは下から見られるのが好かん」

「あっ、すみません」


 次はどこを見よう。着物は脱がせないから……頭かな。


「髪に触れるな!」

「うわっ!」

「わらわの髪は繊細せんさいなのだ。気安く触れるでない」

「すみません!」


 怖すぎる……。表情が変わらないから余計に怖い。

 でも、頭がダメならもうどこも調べようがない。いったいどうすれば……。


「サクヤよ。からくり人形は知っておるか?」

「からくり人形? なんか仕掛けがあって動く人形ですよね?」

「うむ。言ってなかったが、わらわはからくり人形だ」

「はぁ」

「それもただのからくりではない。特定のものを口にすると仕掛けが作動するのだ」

「あっ、口があったか!」

「わらわはどんな仕掛けが作動するか分からんが、試してみるのもよかろう」

「でも、特定のものってなんですか?」

「それは知らぬ。少なくともわらわの口に入るものであろう」


 タマヨさんの口に入るもの……今あるのはギンゴくらいだ。入れてみるか。


「これ、入れてみますね」


 ギンゴをタマヨさんの口に入れてみた。すると突然、タマヨさんがカタカタふるえ出した。


「うぐ……ぐあ……あが……」

「タマヨさん! 大丈夫ですか!」

「ぐぬ……ぬあ……あがぁぁぁ!」


 さけび声とともにタマヨさんの頭がすごい勢いで回転している。それも無表情で。


 怖い、怖すぎる! 夢に出てきたら最悪だ!


 ——ガシャン! ポンッ!


 いきなり回転が止まり、口からギンゴと一緒に何かが出てきた。

 今まで見たこともない形の鍵だ。


「ごほっ、ごほっ、ごほっ……。これはいかん。脳が震えておる。目の前がぐるぐるしておるぞ」

「しっかりしてください、タマヨさん!」

「ええい、そんなに揺らすでない! 余計に悪くなるであろうが!」

「すみません!」


 ——ピーンポーン。ピーンポーン。


 突然インターホンが鳴った。この世界は僕以外に誰もいないはずなのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る